第18話 兄に自分の匂いを嗅がせる系妹

「すぅーー。はぁ、お兄ちゃん」


「……」


「すぅーーはーー、すぅーーはぁぁーー。お兄ちゃあん」


「……」


「あぁっ、お兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんっ」


「よし、一時停止だ。そして説教だこの野郎」


 俺はソファー置かれていたリモコンを使って、始まったばかりの映画を停止させた。隣にぴったりと張り着いて胸を押し当ててくる妹の夏美は、俺が映画を停止させた理由が分からないといった様子で、こてんと首を傾げている。


「説教? どうしたの、お兄ちゃん?」


「何で分からないんだよ、分かるだろ分かってくれよ」


 ずっと隣でお股を濡らしながら、匂いを嗅ぎ続けられるという羞恥プレイ。挙句の果てには、耳元で囁くように言葉を連呼するようになってしまった。


 火照ったように顔を赤くして自分の世界に入り込んでいた夏美は、突然現実世界に引き戻されたせいか、未だに瞳を帯びている熱が冷めきっていなかった。


「説教……えっと、せっかくならベッドに行かない?」


「行くわけないだろ。何でそうなるんだよ」


「あ、そうだよね。両親がいない状況なんだから、普段みんなで食事とかしてるリビングでした方が興奮するよね! それで、週明けとかに思い出しちゃうんだ。『みんなが使ってる部屋で私達しちゃったんだ』って。えへへ、想像したらお股がぐちゅぐちゅになってきちゃった。なんて、すでにぐちゅぐちゅなんだけどねっ!」


「なんだけどねっ! じゃないわ、この野郎」


 なんでノリツッコミみたいにお股の塗れ具合を報告しているんだよ。


 ふざけながらも本気で言っているように見えてしまい、俺は心臓の音を落ち着かせるために夏美から顔を背けた。


「あのな、そもそも兄妹の匂いで興奮するのがおかしいんだって。匂いを嗅いでも何も感じるわけがない。夏美は何か勘違いしているんだよ」


「勘違いじゃないよ! あ、もしかして、本当に濡れてるか確認させてくれとか言って、私のショートパンツを脱がす気――」


「脱がさん脱がさん。脱がさんから、本当に。いや、そんな不貞腐れた顔をするのはやめろよ」


 勝手に何かを勘違いしていた夏美は、期待に満ちた顔をこちらに向けていたが、俺が夏美のショートパンツに手を伸ばさないでいると、片頬を膨らませて不貞腐れていた。


 いや、なんでされることに期待してんだよ。兄妹だぞ、俺達。


「そんなに疑うなら、お兄ちゃんも嗅いでみればいいじゃん」


「は? 嗅ぐ?」


「ほらっ」


夏美は着ているTシャツを引っ張って、鎖骨を露にした。首から鎖骨のラインをこちらに見せつけてこちらに熱の帯びた視線を向けてきた。


ここを責めてくれと言わんばかりに見せつけられた夏美の首筋。生唾を呑み込んだことに気づいたのは、呑み込んでからしばらく経ってからだった。


「かか、嗅ぐわけないだろうが! 俺はなんとも思わないの! だから、この話終わり!」


「……とか言って、お兄ちゃん妹の匂いで興奮しちゃうんでしょ?」


「すす、するわけないだろ!」


「ふふっ、凄い慌ててる」


「ぐっ!」


 夏美は俺にからかうような笑みを向けて、挑発でもするかのような口調で言葉を続けた。


「それなら、証明して。映画が終わるまでの間、私の匂いを嗅ぎ続けても何も思わなかったら、お兄ちゃんの言葉を信じてあげる」


「え、映画終わるまで?! いやいや、一時間半はあるだろ!」


「何も思わないならできるよね?」


「い、いや、さすがに一時間半は長過ぎーー」


「お兄ちゃん、脚広げて」


「え?」


 夏美はそう言うとソファーから立ち上がって、置いてあったバスタオルを俺の股の間に置いた。あまりにも迷いがない行動だっただけに、俺は流されるように脚を開いてしまっていた。


 そして、何を考えたのか夏美は俺の脚と脚の間に座った。そして、そのまま体重を倒して俺に寄り掛かろうとーー


「ちょ、まてまて! ここでストップだ! 何してんだ急に!」


「え? こっちの方が匂い嗅ぎやすいでしょ?」


「もっと他に方法だってあるだろ! ていうか、これ以上もたれかかろうとするな!」


「もっとくっつかないと匂い分からないよ?」


「分かる! 分かるから、大丈夫だから!」


 俺はなんとか夏美のお尻との接触を避けて、夏美との間に少しのスペースを作った。


 あ、危なかった。あ、いや、本当は危なくなんかないんだけどな、うん。危なくなんかないんですよ。お兄ちゃんだし、妹にくっつかれても問題はない。


 しかし、こうして距離を確保するために夏美の背中に触れていると、夏美の下着の感触を感じてしまう訳で、夏美が子供から女性になったことを意識せずにはいられなかった。

 

「じゃあスタートね。ちゃんと深呼吸みたいに息吸うんだよ? 鼻からの呼吸音がしなくなったら、お兄ちゃんの負けね」


「本気でやるのか? ち、ちなみに、負けたらどうなっちゃうんだ?」


「たぶん、我慢できなくなっちゃうかも」


 こちらに背を向けている夏美の耳の先が赤い。少しだけ上ずった声から、夏美の言葉の本気度が伝わってくる。


 俺が夏美を意識していると思われたら、負けということか。そして、負けたときは夏美のお兄ちゃんとして側にいることができなくなる。


 せっかく誤解が解けて、仲良く会話をすることもできるようになってきたんだ。こんな所で、また夏美との距離ができてたまるものか。


 夏美は俺の返答を聞くことなく、リモコンの再生ボタンを押して勝負を無理やり開始した。こうして、俺たちの勝負は幕を開けたのだった。



「すぅー、はぁー」


「~~っ! んっ」


「すぅー、はぁー」


「あっ。んっ。はぁ、」


 勝負が開始されて、一時間と数十分が経過した。


 呼吸する度に鼻腔をくすぐって、肺の中まで入る夏美の甘い香り。一時間以上も夏美の首筋付近の匂いを嗅ぎ続けたせいで、俺の頭はくらくらとしていた。


 いつからだろうか、俺は匂いを嗅ぎやすくするせいか夏美の肩に手を置いていた。そこからじんわりと伝わってくる夏美の体温を感じながら、俺はぐらぐらになっている自制心でなんとか自分を抑え込んでいた。


「お、お兄ちゃん」


「すぅー、はぁー、」


「お兄ちゃん?」


「すぅー、はぁー」


「お、お兄ちゃん! お兄ちゃんってば!」


「え、お、おう? どうした、夏美?」


「どうしたって、もう終わったよ。映画」


「え? ああ、本当だ」


 夏美に言われてテレビの方に視線を向けると、どうやら映画はエンドロールまでしっかり終わっていたらしい。


 つまり、エンドロールまでしっかりと妹の匂いを嗅ぎ続けても、何ともなかったことが証明されたのだ。


 自制心、君は素晴らしい。


 俺は力を出し尽くして満身創痍だった。勝負を終えると、夏美は俺の脚の間から立ち上がって、ソファーの前のスペースに座り込んだ。バスタオルを下に置いて、こちらに正面を向けて座っている。


「うわっ」


「え? ど、どうした?」


 俺の顔を覗き込んでいる夏美は、俺の顔を見つめながら顔を赤くしていた。夏美はくたっとした表情をしながらも、恥ずかしそうに俺から視線を外した。


「匂いを嗅いでるときの私って、こんな顔してたんだ。は、恥ずかしいな」


「え? どういう意味だ?」


「今のお兄ちゃん、すごいえっちな顔してるよ?」


「な?!」


 そう言われてようやく意識が覚醒したようで、今さらながら熱くなり過ぎた体温に気がついた。いつから速くなったのか分からない脈拍に気がついて、より一層体が熱くなるのを感じた。


 なんとか現状を誤魔化そうとしたところに、ちょうど夏美の顔があった。俺は夏美の顔を見て、反撃の一手がそこにあったことに気がついた。


夏美は茹でられたように顔を赤くしており、熱を帯びて揺れている瞳は涙ぐんでいた。


 まるで、長時間辱めを受けていたような顔をしている。人のことをとやかく言えた顔ではない。


「そ、そんな顔してないはずだ! それよりも、今の夏美の方が凄い顔してるだろ!」


「だ、だって、お兄ちゃんずっとゆっくり息吹きかけてくるんだもん。一時間半もずっと首責めされて、途中で意識とんじゃうかと思ったよ」


「い、いや、そんなつもりはーー」


「ショートパンツもびちゃびちゃ。お兄ちゃんのせいだからね?」


 こちらを見上げながらそんなことを言う夏美は、肩で息をしながらもうっとりとした顔をこちらに向けていた。


 そんな事後みたいな顔を向けられて、俺は、俺は何と思わないのだった。


 お兄ちゃんだからな。妹が辱めを受けて、くたっとしたような顔をこちらに向けていても、なんとも思わないのだ。


 下に置いたバスタオルがびちゃびちゃにになっていても、鼠色のショートパンツが色が変わる程濡れていても、なんとも思ないのだ。


 お、思わないのだ。

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ツンデレ妹改め、お股をぐちゅぐちゅ系妹! ~改めて酷くなるって、なんだよ!~ 荒井竜馬 @saamon_

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