【先行公開】厨二病患者のアサシン譚【第一話】

いいたか

第一話

私は今まさに王都で有名な犯罪者らしき輩に絡まれていた。

護衛を最小限にした事が原因だろうか…それとも夜に出歩いたから…?


「キヒヒ。 オイオイ? 有り金を渡したからってはいそうですか、さようなら! なんて都合の良い事があるとでも思ったかァ? オイオイ! これだからイイトコのオジョウサマって奴はよォ?」


「ヒッ…」


眼前の男はジュルリと人を殺めるには事足りるであろうナイフを舐める。


「良い表情だなァ? これから殺すんだからちょっとくらい楽しんだって良いよなァ?」


伸びて来たその手を反射的に弾いてしまった。

こんな事をしてただで済む訳が無い。


「あァ? 痛エなァ? 許せねェなァ? もうそのままズタズタに殺してやるよォ! 最初はその目玉を貰うぜェ?」


男が鋭い突きで私の目を狙い、ナイフを鋭く穿つ。

眼前へ真っ直ぐと向かってくるその凶刃に私はただ固まる事しか出来なかった。


パキィン!


突如として男のナイフが真っ二つに折れた。

男は驚き、咄嗟に飛び退きナイフを見やる。


「なんだァ? 何が起きたァ?」


コツ…コツ…と足音が近づいて来る。


「人を殺すには存外ナマクラの様だな。 たかだか魔力弾の一発で壊れてしまうなんて。 鍛冶屋は選んだ方が良い」


その男は黒い装束に”真っ黒”な仮面をしている。

認識阻害の付与がされているのか仮面デザインも、声も分からない。

黒いと言うことだけ認識させてくれている…という状態だろうか…。


「邪魔すんならてめぇも殺さないとなァ? 得物が一本だなんて思ってねェだろうなァ?」


「ふむ、やはり暗器使いか。 だとしてもそこに隠し持っている暗器は通用しないぞ? 試すか?」


「吠え面かいて死に晒せェ!」


男が暗器を複数取り出し、黒装束の男に投げつける。

ソレは黒装束の男を掠め、血が飛び散った。


「キヒヒ! ソイツに塗ってある毒はAランク指定の魔物でも殺せるんだぜェ? しかも地獄みたいに苦しんでよォ? わざと直撃させなかったのはなァ! 沢山踊ってもらう為たぜ? 感謝しろよ?」


「丁寧に解説ありがとう。 だが、その毒はもう知っている」


黒装束の男は一切動じる事なく、一歩ずつ歩みを進める。


「なんで毒が効かねェ?」


「あぁ、その毒には耐性があるのさ。 いや、大抵の毒は効かない」


私は驚愕した。 耐性系のスキルは基本的に対象を摂取し続けないと発現しない。

憶測を過ぎないけれど、この黒装束の男は沢山の毒を継続的に服薬している。

あの男の使用している毒は決して生半可な毒なんかではないはずなのに…。


「なら直接斬り刻むだけだァ!」


男はまだ隠していた短剣を斜めに振り下ろす。

いや、振り下ろそうとしただけで何も起こらなかった。

なぜなら男の腕が宙を舞っていたからだ。


「イデェェェェ! 俺の腕がァァァl!」


「そう喚くな。 今をときめく殺人鬼さん」


「てめェ一体ナニモンなんだァ!」


黒装束の男は手を男に向ける。


「ただの通り過ぎの英雄さ」


「英雄譚の見過ぎで頭が狂ったかこのイカレ野郎!」


ふふっと笑う黒装束の男。

その笑い声はどこかで知っているものだ。

いや、あの襟を正す時の所作も全て知っている。 私の中の勘が言っていた。


「そうかも知れないな。 僕は狂ってるかもしれない。 だが…、罪の無い人々を殺して悦に浸るお前よりはマシさ。 言い残す事があれば聞こう。 僕は神ほどでは無いけれど慈悲はあるつもりだ」


「さっさとくたばれクソヤロウ!」


それ以降殺人鬼と言われた男はパタリと動かなくなった。

私は恐る恐る黒装束の男に声を掛ける事にした。


「危ない所を助けてくださってありがとうございます。 貴方様のお名前は…? 以前どこかでお会いした事がありませんか…?」


黒装束の男はこちらに背を向けて歩き出す。


「ただの通りすがりの英雄だ。 名前なんて必要ない。 さて、俺『は』 マリアンヌ嬢の事なんか知らないな。  『貴族の令嬢』 が護衛も碌に連れず夜に街を歩くものじゃないと思うよ」


そう言って“私の英雄様“はどこかへと消えてしまった。

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