子供はどっちがいい?

「ねえ、あなた。最近、どうしてあまり顔を見せてくれないの?」


 自宅のベッドの中、腕枕をしているときに真琴がそんなことを言い始めた。


「顔? 仕事が終わったらいつもこうして君との時間を大事にしてるよ?」


「そうじゃないの……その、いきたいときにいつもあなたの顔が見えないの」


「いきたい? ああ、イキたいときのことか」


「ん……」


 真琴は少女のように顔を伏せる。

 彼女はあいかわらず言葉で攻められたり、卑猥な言葉を発するのが苦手だ。


「そんなに僕の顔を見ながらがいいの?」


「……知ってるでしょ。意地悪しないで。それともそんなに後ろが好き?」


「そうだね、包まれるようで好き」


 彼女は対面の方が圧倒的に好きだった。あんな経験をしたからか、余計に対面で欲しがるようになった。僕としても真琴の望みをできるだけ叶えてあげたいし、彼女との対面でのひと時は愛情を確かめ合うのに最適だった。


 ただ、後ろも良かった。生物としては本来的には後ろからが正しいのかもしれない。何故なら、彼女の形と僕の形がぴったり、ちょうどに合う感覚があるからだ。それはまるで彼女にギュッと握られ、隙間なく僕のもの全体に触れるように包まれているようだった。おかげで、後ろからでは時間も短くなってしまっていた。


「――ごめんね。後ろからは良すぎてあまり持たないんだ」


「それで最近はずっと後ろだったの?」


「そういうわけでもないんだけれど――」


 僕は説明するか迷った。あまりに馬鹿馬鹿しい話だったからだ。



 ◇◇◇◇◇



「で、芳潔のところはまだなの?」


 少し前、晴臣と少し話をした時のことだった。


 晴臣のところはいま、子育ての真っ最中。

 二人目の女の子はもちろん、上の男の子も手がかかるので大変そうだ。

 一姫二太郎とはよく言ったものだ。


「真琴は欲しがってるようだけれど、僕はちょっと決心がつかなくて」


「やることはやってるんだよな?」


「ああ、でも危険日の近くになるとその、出す場所を変えたり……とか」


「どこに出してんだよ…………いや、言わなくていい」


「でもやっぱりちゃんと向き合ってあげるべきだよね……」


「そうだな。あ、子供に関して先輩からひとついいことを教える」


「ああ、何?」


「子供は女の子にしとけ」


「しとけって……選べないでしょ。晴臣のとこが大変なのは知ってる」


「いや、それもあるが芳潔のために女の子にすべきだ」


「何で僕のため」


「いやさ、僕も子供は嬉しいんだけど、良太が産まれて和美を盗られた気分になった」


「まあ、それはあるかもね」


「最近、僕が観てるエロコンテンツのジャンル知ってる?」


「いや、知らないからそんなの」


「寝取られモノばっかりだぞ。以前は全く興味もなかったのに」


「……知りたくなかったな」


「男はな、結婚して子供が産まれると寝取られモノに目覚める運命なんだよ」


「そんな…………馬鹿馬鹿しい」


「いや、芳潔のためを思って言ってるんだぞ? 真琴さんが男の子に奪われたらお前絶対嫉妬して下手するとフラッシュバックもありえるぞ」


「……冗談」


 ――そう言いつつも、僕はゴクリと生唾を飲み込む。


「そこでだ。女の子を産む方法」


「そんなものがあるの?」


「ああ、僕の統計的考察だ」


「――まず僕の中学高校の知り合いの話だ。結構な人数が結婚していてそして結構な数の出産報告を貰った。僕はその報告の葉書を並べてあることに気づいた」


「晴臣はそういうの好きだよね」


 晴臣の交友関係はかなり広かった。未だに中学や高校の連中と連絡を取り合っていて同窓会も率先して幹事を引き受けているらしい。和美も同じく。


「ああ。男児の報告と女児の報告。前者はクラスの中でも比較的大人しく、真面目な男友達からの報告が多かった。そして後者は遊んでそうなやつ。特にヤンキーっぽい男連中はほぼ全員が女児の報告だった」


「そんな馬鹿な……」


「大樹の変なクセを知ってるだろう?」


「クセ? あれクセなのか? 腰振ってるやつ」


「ああ。あれあいつなりに意味があってな、バックは割と体力も慣れも要るからあれやってるんだ、あいつ。つまり、セックスに慣れたやつじゃないとバックで長時間は難しいわけだ」


「まあ、わからなくもないがそれとどういう関係が?」


「いいか、明らかに遊んでるやつらの方が女児が多かったんだ。それはつまりバックでヤった可能性がいくらか高いということだ。つまり、バックでヤれば女の子が産まれる」


「…………」


「お、芳潔、その顔、さては信じてないな? 良太の時は前からだったし、奈々子ができたとき意図的にバックにしたんだぞ」


「その話、奈々子ちゃんが大きくなってから絶対に本人には話すなよ?」



 まあ、そんなくだらない話があったわけだ。



 ◇◇◇◇◇



「――そんな話があったんだ」


 僕は晴臣との会話を真琴に話した。もちろん彼のプライベートな性的嗜好は秘匿して。

 真琴はこんな馬鹿馬鹿しい話に真剣に耳を傾けた。


「嫌だった?」


「ううん、そんなことはない。ただ、あなたの顔を見られないと、欲に支配されそうで不安なの」


「わかった。じゃあ君が安心できるように全ての快楽を僕に結びつけてあげる。どんな些細なことでも、他の男の体を見ても、どれだけ激しく昂っても、どんな扱いを受けても僕のことだけを」


「素敵ね……」


 真琴は恍惚とした表情を浮かべる。


 翌日から真琴は積極的に僕に尻を向けてきた。

 おそらく本人は凄く恥ずかしいはずだ。


 彼女はお尻も美しい。

 鍛えられた筋肉の上に脂肪がのっているから、骨っぽくなく綺麗な曲線を描いている。

 男たちに見せつければ十人が十人振り向くだろう、そんなお尻。


 僕は彼女を背中から抱きしめ、耳元で愛の言葉を囁きながら時間をかけて抱いてあげた。



 それからまた根本的な彼女の心の問題を解決させるためにも、真琴にはかつて経験した以上の快楽を体験させてやった。全てが僕へと結びつくように。全ての不安を失くしてしまうために。

 

 酷いこともしてあげた。彼女は既に倒錯的な感覚を和美に経験させてもらっている。

 かつての傷痕を僕で抉り、僕で埋め尽くすように。


 そしてそれ以上に彼女と向き合って甘やかしてあげた。

 僕のことしか考えられないように……。



 ◇◇◇◇◇



 やがて僕たちは本当に女の子を授かった。

 確率の問題とは言え、晴臣の考察したジンクスの恩恵を受けたわけだ。


 僕は晴臣に感謝した。晴臣と同じ趣味に落ちなかったことを。

 真琴も晴臣に感謝していた。僕に余計なダメージを与えずに済んだことを。

 そして娘は僕たちを変えてくれた。新しいステージへ向けて。







--

 くだらない話ですみませんw

 産み分けっていろいろネタがありますが、晴臣の妄言を信用しないように!w

 実際の夫婦にとっては切実な問題で、冗談のような話が真剣に話されることはよくあります。

 たぶん、時系列的には先のエピソードよりは前の話、子供ができたのは後の話になると思います。


 こちらはサポーター様のご要望で執筆した短編となります。

 サポーター様いつもありがとうございます!


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