第39話 行きたい場所
マキを連れて出掛けるためには、真殿のストーキングを回避する必要があるが、これについてはそう難しいことではない。むしろ超簡単だ。
────翌日、この日は普通に平日だった。つまり学校があり、優等生の真殿は絶対に登校している。
なので俺の動きを監視することは不可能だ。念のため始業時間まで家で待機した後で、堂々と出掛ければいいのである。
当然、俺はズル休みすることになるわけだが、一日ぐらいどうってことない。昨日なんか牛見に誘拐されたとはいえ、無断で早退しているわけだしな。
それに、中学、高校と毎日欠かさず通ってきたが、元々俺は不登校気味のはぐれ者なんだ。こっちの方が性に合っている。
「さて、どこへ行きたい? 北海道に蟹でも食べに行くか? それとも沖縄そばにするか?」
「お金ないんでしょ? できもしないこと提案するのやめなって。もう、見栄っ張りなんだから」
「いやぁ……本当はこれぐらいしてやりたいってのは本当なんだぞ? どちらにせよお前じゃ飛行機乗れない気がするけど」
空港なんてひたすら人目につく場所だからな。幽霊を連れて行くにはあまりにもリスクが高すぎる。出掛けるのなら、この街近辺ぐらいにしてもらわないと。
「いいよ、私、そんな場所に興味ないから」
「そうなのか? じゃあどこに行きたいんだ?」
「うーん、渉は普段どこで遊んでるの?」
「普段遊んでる場所?」
どこだろう。普通の高校生だったら、ゲームセンターとか、映画館とか、ボウリング場とか、カラオケとかになるのかな?
「そういうのは……ないな」
「ないってどういうこと? 学校終わってから行くところとかないの?」
「学校終わってからは……家で勉強するか、近くの公園で体動かすか、ぐらいかな」
俺は生まれながらの才人じゃない。人の倍努力してようやく平凡、人の十倍努力してやっとモテ男を目指すスタートラインに立てる。
だからこそ、皆が遊んでいるであろう時間帯は俺にとってのボーナスタイムだ。やればやるだけ周りに追いついて、追い越せる。
第一、遊ぶような金はうちにない。澪があちこちのスーパー巡ったり、特売日狙ったりして、上手くやり繰りしてくれてる中で、俺が遊んでるわけにもいかないしな。
「ってか、千里眼的なやつでずっと見てたんじゃないのかよ」
「そんなに万能なものじゃないんだよ。四六時中監視してたわけでもないしね」
「それは良かった。トイレとか風呂まで見られてたらどうしようかと」
「まあ、見ようと思えば見れないわけじゃないけどね」
「え」
サラッととんでもないこと言ったな……基本的に現世に干渉できない幽霊だからってそんなことが許されていいのか?
「あ、大丈夫大丈夫。誰でも見れるわけじゃないから。渉のことを見てたのは多分私だけ。成仏できずに幽霊になっちゃうぐらい強い未練を感じてる相手のことを、見守るための力だからね」
「へぇ……そう……」
ん? 今、こいつなんて言った? 強い……未練? それってどういう……。
「それより、私、公園に行きたいな」
「え、公園? ……公園って、俺がいつも使ってる公園ってこと?」
「そう、渉がよく行く公園」
「そこが、お前の行きたい場所?」
「うん、私の行きたい場所。駄目かな?」
駄目ってことはもちろんないが、そんな場所でいいんだろうか。せっかく初めて自由に外出できる機会を得たというのに行く場所が近所の公園って、ちょっと味気ない気もするが。
「確かに俺は金欠だけど、もう少し高い要望も叶えられるぞ? もっと他に色々行きたいところがあるんじゃないのか?」
「いいの、これが私の一番の要望なんだからさ。ほら、叶えてくれるんでしょ?」
マキはそう言って、俺の手を掴んで引っ張る。
「お前がそれでいいなら……いいんだけど」
今さら遠慮するような間柄でもないし、こう言ってるならそれが本心なんだろうけど、想像していたよりも遥かに近場で、簡単に叶えられる要望だった。
肩透かしを食らった気分だが、本人の要望を無視して別の場所を提案するのもおかしな話だ。
というわけで、俺はマキを連れて五分ほど歩いた。たったそれだけで、一円たりとも払うことなく、あっという間に目的地に着いてしまった。
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