我が妻マリア、そして我が子アリーへ

我が妻マリア、そして我が子アリーへ


 久しぶりだね。二人とも、元気にしているかい?

 私が研究の為に家を離れてから、三月みつきが経った。さみしい思いをさせたことだろう。申し訳ないと思っている。

 研究は、成功した。もう一年以上もやっていたんだね。君のおかげさ。といっても僕は、まだまだ末端の職員なのだけれど。


 まず、私は君たちに謝らなければならない。というのも、まだしばらく帰れそうにないんだ。というか、きっともう、会えないだろう。それは、私がそういう運命のもとに産まれてしまったからだ。きっと、別の道もあったことだろう。しかし今となっては、もうどうすることもできない。

 マリア、きみとは、いやアリーとも、色々約束をした。研究が終わったら海に行こうとか、舞台を見に行こうとかね。果たせなくてごめん。ふがいない父親で、情けないよ。だけれど、君たちのことを本当に、心の底から愛していた。それは本当だ。今になって思う。なぜもっと、もっと表現しなかったんだろうって。後悔しかないさ。でも、でも、君たちと同じ時間をすごせて、私は幸せだった。突然で、すまない。


 とても辛い思いをさせるだろう。だが、わがままかもしれないけれど、知っていてほしい。私も、身が裂かれそうな程に辛いということを。私は、遠いところへ行く。ここではない、どこかだ。きっとある。そこでまたいつか、君たちと会えることを祈っている。そしてそれと同時に、その時がまだ当分来ないことも祈っておこう。ゆっくりと来るといい。

 あまり多くは語れない。君たちのためだ。信じてくれたまえ。


 どうか、幸せになってくれ。


   夫・父、ポーロより。愛を込めて

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る