第2話 ドラゴンホルダー
「じゃ、自己紹介。リューガスト・ヴィアンだ。ご覧の通り、盗賊でもナンパ野郎でもないよ」
笑顔で差し出された男の手を、美女はためらいなく握った。
「ヨミナ・パラタインヒルよ。あなたもドラゴンホルダーなのね。会うの、初めて」
「俺もだ」
「しかも、ゴールド・ドラゴンだよね、その子?」
「そんな名前の色してるだろ?」
それは、この口調ほど軽い存在ではない。
ゴールド・ドラゴンといえば、全モンスターの頂点に位置するドラゴン種の中でも最高位、キング・オブ・モンスターの異名を持つ。
神話の英雄シェイクロムは、それを駆って世を平らげ、このアマテランド王国を築いたという。
が、もとより希少種で、以後、長く人の目に触れず、現代ではもっぱら王室のエンブレムとしてその権威を支えている。
「まさか、王子様じゃないよね?」
「親父の頭に王冠は載ってなかったな」
「じゃ、おうちもきっと王宮じゃなかったのね?」
「王都ではあったけどな」
「都の人なの? 道理で」
ヨミナは改めて青年を観察した。
旅装は汚からず、なかなか上等である。
「うちをお探しのようだけど、観光かしら?」
「期限のない旅の途中だよ。こいつに、都の空気が合わなくてね」
その意味を、ヨミナはすぐに察したのだろう。
にわかに、その美しい顔が険しくなる。
「廃竜法……ドラゴンというだけで差別が許される、人類の汚点ね」
「ま、どうせ王都に用はないけどな。運命の出会いもなかったし」
「ナンパ野郎じゃないのよね?」
「大マジの花嫁探しだよ、こいつの(と、隣に浮くゴールド・ドラゴンを親指で指す)。このままじゃ、ドラゴンの棲家はファンタジーの中だけになってしまう。たとえ今はうとまれていても、本来は人を魅了する存在だ。残してやりたい」
「……男の子?」
「見間違えるほど美女のつもりはないが?」
「肩の上の子の方よ」
「オスだったら?」
「ご希望の、運命の出会いかもしれないわ。わたしに似て、素敵なレディなの」
と、かたわらの、白く美しい毛並みをかきなでる。
リューガストはうなずいた。
「確かに、すでに心は奪われてる。俺の竜は素敵なレディに。俺はあんたに」
その言葉を裏づけるように、ゴールド・ドラゴンのクリクリお目々は、シロの優美な姿態に吸いつけられていた。
「私はあなたの心を奪った覚えはないわ」
「あんたみたいな美人の勇ましい姿を見せられたら、たいていの男の心は勝手に出て行ってしまうものさ」
「返してあげたいけど、手元にないみたい。軽すぎて、どこかへ飛んで行ってしまったんじゃないかしら?」
「レディには重い物を持たせない主義なもんでね。紳士だから」
「まあ、ご立派。レディとしては、そんなご立派な紳士に一応助けてもらったお礼をしなきゃいけないわ。よかったら、うちへいかが?」
「美人の誘いの断り方は知らないが、いいのか、俺、割と得体の知れない男だけど?」
「大丈夫でしょ。紳士だもの」
「勇敢だな。竜をなつけるだけはある」
「少しくらい勇敢じゃないと、このご時世、ドラゴンホルダーなんてやってられないでしょ?」
「確かに」
「それに、ほかのホルダーに巡り会うなんて夢のまた夢。色々、話も聞きたいわ」
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