第39話 不思議な能力


 残念ながら私は失敗した…。


 一生懸命彼を説得したが、もう少しの所で彼の心は再び閉ざされたのであった。レジャックさんが折角作ってくれたチャンスなのに非常に残念である。


 私は、絶望感に打ちひしがれる。もう家族を助けることが出来ないのだと落胆したのである。


 その時である。


 突然、目の前の景色が様変わりしたのである。私の目の前に表れたのは、私のマンションのリビングである。先程まで拓弥さんのマンションの部屋の前にいたはずなのに。不思議なことに先程まで擦りむいて出血していた膝の傷が無かったかのように元通りになっていた…。

 

「どういうこと?」


 現在の状況が全く呑み込めない。私の身に起きていることが理解できないのだ。しばらく、部屋の床にへたりこんで思考を停止していた。


Pikon!


 スマートフォンからの通知音が響く。


 拓弥さんから連絡が入ったのかと思い、通知内容をチェックする。


 通知は、Laneからのもので、宛名をチェックしてみたら、『レジャック』と表示されていた。


「え?レジャックさん?」


 Laneにレジャックさんの連絡先を登録した覚えはないが、他に同名の知人など存在する訳もない。存在自体が不可思議な彼ならば有り得ることだろうと納得して文章を確認した。


『やあ、真由君。元気かね?今の状況に戸惑っているようだね。これは君に授けた「ループ」の効果なのだよ。この「ループ」は、チャレンジでの目的が失敗に終わった場合や、何らのトラブルで命を落とした場合には、自動で最初の状態に戻る能力がある。一見便利に見える能力だが、欠点もある。チャレンジが成功するまでは、永遠に繰り返しが続くのだ。だから、頑張って目的を達成させて欲しい。』


 私はレジャックさんからのメッセージを読み、ループが発動したことを理解した。つまり、私が拓弥さんを説得できずに失敗したため、ループが発動し、時間が戻ったのだ。拓弥さんを説得し、目的を達成するまで、永遠に繰り返し続けなければならないのだ。


 レジャックさんの言っていることを疑う訳ではないが、念の為にスマートフォンで今の時刻を確認してみる。


 2025年11月14日 7:10


 やはり、この時代に移動したばかりの時刻と同じであった。ループの効果が発動されたのは確かなようである。


(一体何が悪かったのだろう…。)


 拓弥さんの説得は、途中までは上手くいっていた様に思う。彼も私はやっていないのではと思い始めていたように見えた。しかし、突然様子がおかしくなり、失敗に終わった。あのような拓弥さんは、今まで見たことが無かった。まるで別人になったかのようだった…。一体どうしてあんな風になったのか、考えては見たが理由は見つかるはずも無かったのであった。


 現時点で分かっていることは、この日の拓弥さんは今までとは別人と思うくらいに様子が変だったこと。そして、一時は説得に応じてくれていたが、突然様子がおかしくなり、説得は失敗に終わったことである。


 この辺りの問題が解決出来なければ説得が成功しないような気がする。ただ、現状ではそれを解決できるまでの情報は不足していると思う。


 そこで、情報収集を兼ねて再びチャレンジを継続することにしたのであった。


―――― to be continued ――――

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る