第22話 退院のお祝い(前編)

Pikon!


 スマートフォンが軽やかに通知音を響かせ、私は急いで画面を確かめた。そこには、Moblie Messengerアプリ『Lane』より、拓弥君からのメッセージが届いていた。息を飲んでその内容を読む。


『ようやく退院できた!』


 彼の退院の報せを聞いて、私は心が躍った。私は拓弥君が倒れた時の様子を目撃していたため、彼がここまで回復できたことは、奇跡的な出来事だと感じていたからだ。そして、彼が無事に退院できたことを知り、私は感謝と喜びに胸を打たれた。


『良かったね。退院おめでとう!』


 私は素直な気持ちを、そのままシンプルな文章で返信した。


 しばらくすると、再び彼からの返信が届いた。


『退院したらお祝いして貰えるって話だったけど、二人でこられそうかな?』


 私は、その内容に戸惑いを隠せなかった。恵美さんとはあまり気が合わなそうだし、関係のない新田さんを連れて行くのもなんだか気が引ける。でも、彼の退院をお祝いしたい気持ちは否定できなかった。前回会った時に、そういう話になっていたし…。


(二人きりでお祝いできるなら、最高だったのに…。)


 しかし、私たちはお互いにパートナーがいる立場であるため、二人きりで会うことは問題があるだろうと思った。


『お祝いしたい気持ちはあるんだけど、私が彼を連れてきたら、拓弥君が嫉妬しちゃうと思いますけど?』


 私は、少し意地悪な文章内容にして彼に返信した。


『そりゃ妬くよ。でも、俺も恵美がいるし、言えた立場じゃないけどね。ていうか、真由。その文章は悪意こもってない!?』


『ごめんなさい。こもってるわ。』


 本当は、恵美さんのことも拓弥君には話しておきたかったけど、彼を心配させてしまうのは気の毒なので、恵美さんのことには触れないでおいた。


『会場や内容、日にちはこちらで考えておくわね。』


『ありがとう。任せるよ。』


 結局、拓弥君のお祝いを新田さんを交えて4人でやることが決まった。


――――


《居酒屋 よっちゃん》


「よっちゃん、焼き鳥とホッケと生追加で!」

「あいよ!」


「で、その同級生の復活をお祝いする為に、俺が呼ばれた訳だ…。」


「そうなんです。面倒なことに巻き込んでごめんなさいね。」


「そんなことないさ!真由ちゃんとデートできるチャンスが増えるし、全然構わないよ。」


「ありがとうございます。新田さん。」


「へへっ。真由ちゃんに礼を言われると照れるんだよなぁ。」

 

「よっちゃん、アスパラ巻も追加で!」

「あいよ!」


「真由ちゃん、バーベキューならどうよ?飲み屋とか飯屋だと畏まっちゃうだろ?肉焼きながら、ビール飲んで騒げば、不慣れな相手でも何とかなるさ!」


「そうですね!いい考えだと思います。」


「焼くのは任せてよ。肉だろうが、焼きそばだろうが、何でもこいよ!」


「その時の新田さんの姿が目に浮かびます。」


「あはは。そうでしょ?バーベキューは任せてよ。」


「よっちゃん、お勘定!」

「あいよ!ありがとう!」


 新田さんの性格なら二人相手でも上手くやってくれるだろう。でも、問題は私なのよね。私が拓弥君に新田さんとの様子を見せるのは気が引けるし、拓弥君達の親しげな様子も見たくない気がする…。


 帰りのタクシーではそんなことを考えながら移動していた。


「新田さん。いつもご馳走してくれてありがとうございます。」


「いいって!俺は真由ちゃんと二人きりで酒飲んだり、美味い飯食えて最高なんだから。」


 私のマンションの前でタクシーは停車する。新田に手を振りタクシーを見送った。新田さんは、本当にいい方だと思う。私はこのまま彼について行けばいいのか、それとも…。


 ほろ酔い気分であれこれ考えてしまうのであった…。


―――― to be continued ――

 

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