第17話 パートナー
私は、神口川病院を後にして、スマートフォンの電源を入れた。電波が復旧したことで、ウィンドウには様々な通知が表示されていた。新田さんや両親からの電話、留守電メッセージの通知、そしてメールやメッセージアプリからの大量の通知が目に飛び込んできた。
私はバス停を目指しながら両親に連絡を取った。母親は私を心配して怒りを露にしながらも、無事であることを伝えてると、安心した様子で電話を切った。
職場には、震災で地盤沈下に巻き込まれ、骨折してしまったことを正直に報告し、しばらくの間病欠する旨を伝えた。職場では、震災によって多数のコンピューターが故障し、正常な業務が行えない状況にあったため、私の欠勤が部署の人たちに迷惑をかけることはないだろうとのことだった。
最後に、新田さんに連絡を取る。
「おー!真由ちゃん!どうした?地震のとき大丈夫だったか?心配したよ。何回も電話したけど繋がらなくて、焦ったよ。」
「ごめんなさい。震災の日に地盤沈下に巻き込まれてしまって…。」
「マジかー!大丈夫か?今から助けに行くからな!プツン…、ツーツーツー…。」
「えっ、嘘!?」
(新田さんたら、話の途中で電話切っちゃった。助けに行くって一体何処に向かうつもりかしら?)
Pipipi!Pipipi!
「もしもし。新田さん?」
「焦って飛び出したけど、よく考えてみたら真由ちゃんの居場所がわからないや。」
「新田さん、落ち着いてください。もう地下から脱出していますから…。」
「あっ!そうなの?あはは!俺、せっかちだからさ。」
「でも、その時に足を骨折しちゃったから、通院もあるし、しばらくは会社はお休みしますからね。」
「え!?骨折!?そりゃ大変じゃないか!どうしよう!どうする?」
「ふふふ。もう…新田さん、慌てすぎですよ。」
「あれ?ごめん。あはは!」
「大丈夫ですよ。もう病院で治療して貰いましたから。足が固定されていて、しばらくは松葉杖生活ですけどね。」
「そ、そうか。良かった~!大丈夫なんだね。あのさ、今何処よ?」
「神口川病院を出て、バス停に向かってます。これから自宅に帰る所なんです。」
「わかった!車で迎えいくからバス停で待ってて!プツン…。ツーツー…。」
(相変わらず嵐の様な方だわ…。)
そのまま、ゆっくり歩いて最寄りのバス停で新田さんの車を待つことにした。程なくして新田さんのワンボックスが私の目の前に停車する。
「真由ちゃんお待たせ!ありゃりゃ、大変な状態じゃないか…。」
新田さんは、車から降りて松葉杖と私の乗車をサポートしてくれた。
「ありがとうございます。」
新田さんのワンボックスは、ゆっくりと進み始めた。
「真由ちゃん。飯食った?」
「いえ。そういえば、今日は何も食べていませんでした。」
「そりゃ大変だ。飯だ!今から飯行こう!」
「あっ、はい。ありがとうございます。」
災害直後でこの辺りは、ほとんどの飲食店が閉まっており、少し時間は掛かったが、橋海区のトンカツ店へ行くことになった。
「真由ちゃん、どうぞ食べて!」
「じゃあ、頂きます。」
しばらくぶりの温かい食事を頂く。新田さんのチョイスするご飯屋さんは、殆ど失敗がない。揚げたてのトンカツの衣は、歯応えが良く、肉汁豊かな豚肉とバッチリとマッチしていた。
「美味しい!」
「でしょ?こういう時は、食事が大切だよ。しっかり食べて早く治さなきゃ。」
「ありがとうございます。」
「それで、何があったんだい?」
私は、新田さんに地震の際に地盤沈下が起きてそれに巻き込まれて遭難したこと、その後の余震の際に地面の崩落により、大きな石が足に激突して骨折したこと、地下に一日近く閉じ込められて同じ遭難者と協力して脱出したことなどを説明した。
「それは大変だったなぁ。俺が傍にいてやれたら良かったんだがなぁ。」
「確かに新田さんがいれば頼りになりそう。」
「だろ?」
私は、説明の中で拓弥君の存在に触れることは避けるようにしていた。後ろめたいことがあったわけではないが、彼に不必要な心配をかけることを避けるための判断だったのである。
トンカツ店を出発し、新田さんが車で送ってくれるとのことで、私は助手席に座り、外の景色を眺めていた。日は沈み、暗闇が街を覆い尽くした。眠ることのない東京の街は、ネオンやビルの灯りで溢れているはずだが、今はその活気や光景が奪われ、かなり変わってしまったように感じられた。
一部の交差点では、信号機が電気を失って作動していないため、徐行しながら道を譲り合った。また、警察官が交通整理をしている姿も目にした。こうした光景を見ながら、今回の地震のエネルギーの凄さに再度驚かされたのだった。
マンションの入口の所で車は停車し、新田さんのサポートで車を降りた。
「新田さん。ありがとうございました。あと、ご馳走様でした。」
「いいって!真由ちゃんの役に立てて嬉しいんだから。じゃあ、また困ることがあったら連絡してよ。直ぐにすっ飛んでいくから。」
「はい。お休みなさい。」
「お休み!」
私は、手を振りながら車が走る去るのを見送ったのであった…。
―――― to be continued ――――
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