第22話 戦いの幕開けと既視感


『ズドォーーーン』


 あちらこちらで大砲の音がする。

 砂煙が舞い上がり、火薬臭さが鼻につく。

 戦いの場独特の人の歓声や悲鳴の音、崩れるバリケード。


(なんか、既視感がある…………)


 そう思いながら、高い窓のふちにぶら下がりながらエリシアは様子を見ていた。


 この世界では、魔法を使える人は多いが、どのくらい使えるかは個人差が大きい。

 なので、魔法で戦う人もいるが、まだまだ科学文明は衰えていないため、武器やバリケードは依然として使われている。


 戦いで負傷する者たちに対して心が痛まないと言えば、それは嘘になるが、それを覚悟して彼らは反乱を起こしているのだから、エリシアは何とも言えない。



 「女王!ここは危険です。いまから案内しますのでこちらに避難してください。」


 首謀者らしき三人組の一人が、前よりもさらに増やした護衛(監視)10人をもひきつれて、どこかに連れて行こうとする。



 「私を解放する気はまだないの?」


 「………………残念ながら、の命令ですので。」


 「…………」



 あきらかにこの男たち三人が首謀者なのかと思っていたが、そうでもないらしい。

 上には上がいるのか。



 移動させられた先は、これまでの塔とは反対側に位置する、城の中心だった。


 大広間とはまた違った豪華絢爛の象徴のような部屋である。


(あれ?ここは城の位置的に…………城主の部屋なのでは…………)



 「ただいまお連れしました。」


 「…………ご苦労……さがれ。」


 「はっ。」


 男三人組が命令されて部屋をでる。



 昼間だというのにうす暗いその部屋の中には、先客がいたようだった。

 

 エリシアとその男、そして護衛の数人だけがいる空間のなかで、重々し空気が流れる。


 ゆらゆらと灯るろうそくの火がさらに空気を重くする。



 

(多分、この男が、男三人組の言っていたなのだろう……)



 先ほどまでエリシアに背を向けて、何やら書物を読みふけっていた男が、急にこちらを向き、エリシアに近付いてくる。



 何かが恐ろしいと感じるのに、両脇の兵に両腕をそれぞれ掴まれ、さらには膝をつけされているエリシアは見動きがとれない。


 やがて男は膝立ちのエリシアを上から覗き込むように、前に立った。


 ――少し薄めの、どこにでもありそうな茶髪に、エリシアと同じ色をした飴色の青い瞳。

 年はエリシアの父.リステアード侯爵と同じか、少し下かといった年齢だろう。



 お互いの視線が交差し、睨め付け合う。


 しばらく時間が過ぎたあと、先に目をそらしたのは、男の方だった。




 「つくづく忌々しい女め……。」


 「……攫っておきながら、その相手に言う言葉じゃないでしょうに。」

 

 負けじと言い返す。



 「早く解放してください。

 あなた方には悪いですが、じきにこの城はどうせ落ちる。」


 「その点は心配無用だ。我々には我々の考えがある。お前は女王としているだけで十分だ。」


 「…………」


 

 「なぜ、女王が必要なのかも理解できないし、

 なぜ、わざわざ私を女王にする必要があるのかもわからないわ。」


 「…………ふっ、

 どの口が言うんだ? 無関係など。

 自分がわざわざ女王に選ばれる心当たりはないのか?

 わたしには、おまえは心当たりしかないように見えるがな。」


 「男三人組といい、あなたといい、いったい何を言いたいの?」



 

 「いいなあ……おまえは…………。

 なあ、どうして、おまえだけが忘れられる?

 なぜ、そうも平気でいられる?」


 男三人組も同じことを言っていた。



 

 「自分だけ、逃げて幸せになろうとした気持ちはどうだったか?」


 エリシアをにらみながらも、あざ笑うその顔に見覚えが何故かあって、何故かとても恐怖を感じさせる。


 

 

 「なあ、エリシア=バッシリーサ=



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