第4話 そんなに私に会いたくないですか?


「お嬢様、到着しましたよ。」

 

 久しぶりに来た王都、アルステーベ。

 その中でも、高いところにあり、山の上にある建物の集まりが、王城だ。早速王城に入ろうとしたが、どうやら、門でもめているらしい。

 


 「王太子殿下は、リステアード侯爵令嬢とお会いたがっておりません。お引き取りを。」

 

「門番に聞いてません。殿下に直接お伝え願います。」

 


 サターシャが門番二人に詰め寄る。なかなか引き下がらない私たちに、片方の門番が諦めたのか、殿下の補佐に伝令を出したようだった。

 


 (私たちも、来る前にきちんと訪問の旨えお書いた書簡を出したのに。)

 (そんなにテオドール様は私に会いたくないのかしら? それとも断罪準備を……)


 ――――――――――


 


 言おう。5時間たった。

 あの後、応接室に通されて待っていたが、5時間が経過した。


 殿下は現れる気配がない。

 短気なアイリスお姉さまはもちろんのこと、いつもおだやかなお兄様までさすがにもう我慢の限界だった。私もである。いくら、忙しかったとしても、あり得ない事実だ。



 「殿下! そんなにわたしに会いたくないのですか?! 突然の婚約破棄、書簡の無視、人を長時間待たせる。それにいつも無表情。殿下が私に興味ないのは、知っていますが、さすがにもうがまんできません!」

 


 応接室から、窓の外にある誰もいない庭に向かって、思いっきりそう叫んだ。


 

 「…………もう帰りましょう」


 お姉様が静かに促した。




 帰りの馬車はすごく気まずかった。

 

 わざわざ来たのにというのもあるが、アイリスお姉さまが怒りで無意識に、魔法で応接室とその隣の部屋を燃やしてしまったというのもある。サターシャはその損害賠償の手続きで王城にまだ残ることとなった。


 「お姉さまの魔法はすごいですね」

 

 「…………アイリス、勝手に物をもやしてはダメと幼いころから何度も言ってきたじゃないか」

 

 「今回だけは正当ですわ! やられたらやり返す。当たり前のこと」



 王城の応接室で大人しくしていたかと思えばこれ。

 

 「お姉さま……やりすぎです」



 姉は火を使った派手な攻撃魔法が得意で、兄は大陸でも有数の腕の良い錬金術師だ。

 私は魔法をほとんど使えないけど、姉と兄がいるから力強い。

 

 ふたりは絶対的な私の味方だ。

 

 父侯爵は、戦闘系魔法が得意で、母侯爵夫人は占術が得意だ。

 家族で、私だけが魔法をうまく使えないことに、昔はかなり劣等感を抱いていたが、今となってはそんなことはない。

 おそらく家族の育て方が良かったのだろう。


  

『キィィィ――――。ドゥ――――ン』


 森を順調に駆けていたはずの馬車が急に止まり、何かが馬車にぶつかる音がした。


  

 「いっ……たー。」

 腰を強く打ってしまい、鈍い痛みがはしる。馬車は45度に傾いていた。

 

 「エリー、足をちょっとどけて、そう。ありがとう。」

 

 私は目の前に座っていたはずのお兄様を下敷きにしていたらしい。

 お姉さまは頭を打ったのか、気絶しているようだ。

 

 「大事にならなくてよかった。アイリスは……寝てるみたいだ。」

 

 「この状況で目を覚まさないお姉さま、最強ですね。」

 

 「とりあえず、どういう状況なのか……」


 扉の窓から外を覗き込もうとしたその時、ドアがガタンと開いた。

 

「あ、助かっ……」


 山刀を突き付けられた。


「エリシア=リステアードを出せ。」


明らかに警備兵ではない汚げな格好をした男たちが3人、一つしかない馬車の扉を塞ぐ。逆光で、顔は見えない。


「答えろ!エリシア=リステアードはどれだっ?!」


 人を指定しているということは、この男たちの狙いは、私だ。

 王太子の(元)婚約者だから狙われたのか、はたまた金銭目的か。


 沈黙が続いたが、男たちがいらだってきた。


 私さえ名のりあげれば……


「あの……わ」

 

「私がエ、エエリシア=リステアードですわ!」


ついさきほどまで、寝ていたはずのお姉様が突然声をあげた。


「ちが……ぅぐっ」


慌てて否定しようとしたが、お兄様が私の口をふさいだので、ほとんど言えなかった。


「……ついてこい」


「い、いいわ、のぞむところだわ!」



 (お姉様! ダメ。行ったらきっと殺される!)


 


 



 

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