第4話 働く女性たちの場合

「やっぱり外で食べるばっかじゃきついけどさー、弁当作れるほど朝早く起きれないわけよ」

 はあ、と溜息をつきながら、私はコンビニおにぎりを食べる。今日のご飯はこれだけだ。早く給料日来て。足生やして来て。

「あんたは今日も弁当なの?」

「ううん~。今日はウー〇ーイーツなの~」


 おっとりとした同僚は、いかにも家庭的な女の子って感じで、男によくモテる。そして女からは嫌われている。

 けれどそんなことを気にしない彼女とは、なんとなくウマがあった。ちなみに私は気が強すぎて男にも女にも嫌われている。特に気にしないが。


「ウーバー〇ーツねぇ。家以外にも来てくれるんだ」

「うん。そろそろ連絡が来る~」


 と言った途端、彼女のスマホが鳴る。


「もしもし~」


 とった時に、うっかりスピーカーを押してしまったのだろう。相手の声が、私にも聞こえた。




『私、メリーさん。今、〇〇駅にいるの』




 ……ん?

 メリーさん?


「わあ~、もうそこまで来てくれたんですね~」

 いや、なに呑気にこの子喜んでんの。メリーさんって言ったら、あの……。

『ご注文は、陝西省の餃子と、ブルゴーニュの牛のワイン煮と、マサチューセッツ州のボストン・クラムチャウダーでお間違いないかしら』

「間違いないです~。よろしくお願いします~」


 ピッ、と電話を切る同僚の子。


「〇〇駅からは歩いて10分もないから、もうすぐ来るね~」

「メリーさん!? メリーさん来るの!?」


 メリーさんってあの都市伝説のメリーさん!? そのメリーさんをウーバー〇ーツに使ってんのこの子!?

 いや、っていうか、


「昼飯豪華だなおい!」


 とても一般的な社会人の平日の昼食とは思えないピックアップだぞ! ってかよく食うな!! 一人で食える量かそれ!!


「とてもじゃないけど、かなり高いお昼ご飯でしょそれ……」

「そだね~。全部で1200円ぐらいかな~」

「確かにランチで1000円越えは高いけどそのピンナップで破格なお値段だな!! 食べたらやばいやつじゃないのそれ!?」

「なんか~、メリーさん、瞬間移動使えるからー、産地直送で運搬費が浮くんだって~」


 思わぬメリーさんの社会活動に私は絶句。

 と、気づいたら、彼女の横にお弁当が置かれていた。


「あ、もう来てた~。メリーさん、顔出さないなんて、今日は忙しいのかな~」

「顔見知りなんだ、都市伝説と……」


 もうわけがわからない。なんなのこの子。なんなのメリーさん。

 頭を抱えていると、口の中に餃子が差し込まれた。


「……」

 思わずモグモグしてしまう。

「おいしい」

「えへへ」

 彼女はニコニコ笑いながら言った。

「ちゃんとご飯食べないと、体壊しちゃうよ。美味しい物食べて、また頑張ろ」


 ……まあ、いいか。

 

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