REINCANATION

EPISODE 1

『~NO SIGNAL~』



いつの間にかスクリーンの前に立っていた。

 死んだということは、ここは地獄か。

 スクリーンの画面が揺れ、今度は矢印が表示され不規則に点滅している。矢印の指す方向へ歩いて行くとそこにもまたスクリーンがあり、矢印が表示されている。

 矢印に従い歩みを進めて行く途中、色々な物を見た。

 まず目に飛び込んできたのは生き物の死骸だ。地獄にも鳥や虫が引きずり込まれるのか。

 他にも見たことのない植物や、生が宿っているのか判然としない黒い影が浮遊していた。目には見えないものの、時々誰かに見られているような視線を感じた。

 その中には見知った顔もあった。



「君と話すのは初めてだ」


「話す前に私は死んだから」


「研究者たちは?」


「もう連れて行かれた」


「どこに?」


「気になる?」


「一応生みの親だから」



イブ02は困ったように微笑した。



「みんな行き先が違うから。ただ私とは違うところへ向かった」


「転生先が違うのかもしれない」


「私はあっちの道を進めって御達しが」


「きっと君にはいい未来が待っているよ」



歩き出した彼女はふと足を止め、こちらを振り返った。



「アダム01…サミエドロ?」


「名前知ってたんだ」


「貴方のその後を少し覗いたから」


「俺はきっと地獄の中でも酷い所に連れて行かれるよ。人を殺めているから」


「それって貴方に自我が生まれる前の話よ」


「それでも殺した事実はなかったことにはならない」



イブ02は急に泣き出してしまった。自分が失敗作でなければふたりで生きていけたと。もし自分が傍にいられたら、俺に寂しい思いをさせなかったとも。

 そんな風に思ってくれるだけで十分だよ。



「私がいれば大罪――今となっては悪魔同然のバクだって生み出すことはなかったでしょう」


「そんなに自分を責めないで。失敗作になってしまったのは君のせいじゃない」



それにバクはああなってしまったけれど、俺はバクを創り出したことを後悔してない。

 悪いのは俺で、生まれて来てくれたバクには何の罪もないから。

 イブ02の涙は落ちる度に石化し、地面に透明な宝石がたまっていった。それを待っていたかのように浮遊していた黒い影がそれに群がった。

 影を手で払って落ちた輝きを丁寧に拾い集め、彼女に渡した。



「君の輝きをこんなところでこぼしちゃだめだ。来世で君が幸せになれるよう祈ってる」


「うん。さようなら」



彼女は今度こそ振り向くことなく、水色に輝く道へ歩みを進めて行った。

 彼女の他にも鹿や蛾など様々な生き物が後に続いた。



「なんでイブ02が地獄に」



異常生物はただ人間たちのエゴで創られたに過ぎない。それなのになぜ彼らを



「地獄に落とされたのですか、神様」



イブ02の姿はみるみるうちに変化した。他の生き物たちも彼女と同じように、海の生物へと姿を変えていく。来世はきっと、人間の干渉がない静かな深海の世界へ。

 イブ02の進んだ道とは反対方向に矢印は向いていた。暗く先の見えない道。

 他に続く者はいなかった。

 また一人になるのか。これが俺にとっての最大の罰なのかもしれないな。



「サミエドロさん」



 聞こえるはずのない声に、思わず振り向いてしまった。

 そこにはピオニーがいる。

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