第15話 アステカの決戦

 暗闇が広がり何も見えない。

 

「俺は、あの白い部屋に押しつぶされたんじゃ?」


 次の瞬間強烈な衝撃がおそった。


「くっ!」


 何とか攻撃直後にガードできた。

 ステータスを確認すると100ポイントほどHPが削られている。


「衝撃は強烈だったがダメージは少ない。一体何なんだ?」


 音もなく暗闇だけが広がる世界。

 足元がどうなっているかすらわからない。



---



 この暗闇にのまれて1日はたっただろうか。

 一切の光が無く目がなれることもない。


 じっとしていると衝撃におそわれることは無かった。

 少しでも動くと稀に衝撃におそわれることがあった。

 一体どんな敵が、どういう攻撃をしてきているのか検討もつかない。


「これは何か方法を考えなくては……」


 現在の精神力は162。

 常人の162倍の精神的なタフさがある。

 人間は何も無い空間では3日ほどで精神に異常をきたすという。

 今の俺なら1年は耐えられる。

 食べ物や水も1年以上摂取しなくても生きられるはずだ。



---



 一週間は経過しただろうか。

 相変わらず動かなければ衝撃が走ることもない。

 

「まさかこんな攻撃をしかけられるなんて」


 未だに敵の正体は不明。

 外部との通信も途絶。



---



 一ヶ月は経過しただろうか。

 そろそろ、ここに居続けるのも気分的に苦しく感じるようになった。


「このままじっとしていても解決しない」


 100メートルも歩くと衝撃がおそった。


「くっ!」


 攻撃直後にガードする。


「なんとか攻撃が来る前に避けることは出来ないだろうか?」


 集中し気配をさぐる。

 光はもちろん音も無く物理的な感覚には頼れない。


「もっと違う感覚だ」


 魔物が消える瞬間。

 魔物が現れる瞬間。

 青い光が輝く。

 あの光を感じることが出来れば……。


 ゆっくりと進む。


「ここだ!」


 ガードを固めた所に衝撃が走る。

 消費HPは1。

 ほぼノーダメージ。


「よし! この感覚だ!」



---



 二ヶ月は過ぎただろうか衝撃を完璧にガードできるようになった。

 三ヶ月は過ぎただろうか衝撃を事前に避けられるようになった。

 半年は過ぎただろうか1メートルほど周囲の様子を探ることができるようになった。



---



 1年は過ぎただろうか。

 周囲10メートル内の様子は、目で見るように感じる。

 そして、わずかな気配であれば無限の彼方まで届く気がする。


「なんだ?」


 衝撃の正体は意外なものだった。

 大量のサンマ。

 そして壁に吸収された金魚もいる。

 

 この空間内は時間がほぼ停止しているのだ。

 そして、停止した空間内で俺だけが影響を受けずに外界と同じ時間が流れている。


「なんだ、敵じゃないのか」


 停止した空間に浮かぶサンマに指先で触れると衝撃がおそった。

 ほぼ時間の停止したサンマと外界と同じ時間の流れる俺が接触すると衝撃が発生するのだ。


 この空間を作り出す何者かが居るはずだ。

 無限の彼方にまで意識を集中させるとステータスが表示された。



――――――――――――――――――――


【アステカの祭壇】


 ・討伐推奨レベル:120


 ・スキル:空間内時間の極限低下


――――――――――――――――――――



 一か八かだったが、魔物は俺よりレベルが低い。

 俺だけ普通に時間が流れ動けるのもレベル差があるからだろう。


「つまり、こうすれば……」


 俺は意識を集中し無限の彼方まで俺自身の影響が及ぶようにイメージした。

 空中に停止していたサンマや金魚が次々と動き出す。

 

「うおおおおおおおお!」


 俺の影響範囲が広がってゆく。


「ここだ!」


『アステカの祭壇』は実体化し俺の目の前に現れた。

 赤い木製の祭壇をつかまえ道具袋につっこんだ。

 次の瞬間、周囲が青く光輝く。



---



 俺のまわりをたくさんの人が囲んでいた。


「ヒサシ!」


 抱きついてきたのはミキだった。


「うおおおおおん!」


 顔をグシャグシャにして泣き叫ぶ猿田が目の前に居る。


「アンタ、やっぱり戻ってきたのね。猿田がヒサシは犠牲になったとか言うからアタシも少し心配したわよ」


 腕を組んで皮肉っぽくミコトが言った。

 屋台の店主や猿田の兄弟もいる。


「ほら、これ」


 俺は道具袋から金魚を取り出して猿田の兄弟に渡した。


「おお! すまんな!」


 猿田の一番上の兄弟は偉そうに返事した。


「猿田がこっちに戻ってから、俺が出てくるまでにどれぐらい時間たった?」


 俺は抱きついて泣きじゃくるミキの肩をもっとそっと離して言った。


「1時間ぐらいかしら。心配したんだからっ」


 ミキは涙を流しながら答えた。

 あちらでは1年も経ってたんだがな。

 

「そうそう。店主さん」

「おう! なんだボウズ!」

「これみんなにふるまってください」


 俺はあちらの空間に漂っていたサンマを屋台の水槽へ道具袋から出した。


「うおおおおお! ボウズ! これはすげええぞ!」


 今まで生贄に捧げられたサンマが生きたまま大量に放出したのだ。

 この日は、みんな喜び本当のお祭り騒ぎだった。


 俺は、ほぼ無限の物量をおさめられる。

 そして、中では時間を停止した状態で保存できる最強の道具袋を手に入れた。



――――――――――――――――――――



 入手アイテム


『アステカの祭壇』 道具袋内の空間を無限に広げ、時間をほぼ停止した状態に保つことができる。

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