令和昔話

@kusege0214

《沙也加》

…♪、…♪、…♪

携帯のアラームで目が覚める。

- 7:45-

沙也加はバスケ部に所属していて基本的に毎朝8:15から朝練がある。

画面に表示された時間を見てベッドから飛び起き、2階から勢いよく階段を降りて、そのまま洗面所へ。

顔を洗って歯を磨き、鏡で黒髪のショートカットを軽く整える。

リビングに行くとテーブルの上には出来立ての朝食が並べられている。

「おはよう、ご飯食べる時間ある??」と母が言う。

「うん、ギリギリかな」と言い急いでテーブルの上のご飯とお味噌汁をかきこんだ。


「いってきます」

そう言って急いで玄関を出て自転車に乗り、学校へ向かう。


朝練が終わって体育館から校舎へ歩いていると、グラウンドの方から宏斗が歩いてくるのが見える。

宏斗は沙也加と幼稚園からの幼馴染で公園で遊んだり一緒に過ごすことが多かった。

最近はお互い中学生になり、部活や他の友達と遊ぶことが増えたので学校で会った時に軽く話す程度だ。

しかし沙也加はこの頃何故か宏斗がよく目につくようになった。

現に今もグラウンドの方から歩いてくる野球部の大群の中にいる宏斗に真っ先に目が止まった。

なんとなく気恥ずかしくなり、下駄箱で一緒にならないようにゆっくり歩こうとするがちょうど登校してくる生徒がピークの時間帯のため流れを止めないよう結局そのままの速度で下駄箱に向かった。


「おはよう、沙也加」

案の定、下駄箱で宏斗と隣になった。

声の方に顔を向けると宏斗が笑顔でこちらを見ていた。

小学校5年生くらいまでは沙也加の方背が高かったのに、いつのまにか宏斗から少し見下ろされるくらいになっていた。

切れ長の大きな目を細めてこちらを見ていたが、一瞬視線が横に逸れる。

「髪寝癖ついてる」

と一言言い残して教室の方に歩いて行った。


女子トイレに行き鏡を見ると右側の毛先が一束、外側にピョンと跳ねていた。

- 朝ちゃんと鏡をみて直せばよかった… -

と朝適当に髪を整えたことに沙也加は少し後悔し、水で軽く毛先を濡らしてから女子トイレを後にした。


昼休み、いつも一緒に行動している美和と希美と3人で廊下を歩いていると

「沙也加」

と呼び止められた。振り返ると宏斗が立っている。

「何?」と返すと

「リボーンの新刊買った?持ってたら今日借りに行ってもいい?」

と少し照れくさそうに言う。

沙也加と宏斗は小学生の頃から良く漫画を貸し借りしていた。

最近はあまりそういったことも無かったので、沙也加は内心少し驚いたが

平静を装って、「いいよ」とだけ返した。

前を向き直して歩き出した沙也加の顔は少し赤くなっていて、

それに気がついた美和と希美は目を見合わせてニヤニヤしていた。


放課後の部活が終わり、駐輪場に向かう。

自転車に乗って校門を出ようとしたところでまた宏斗から呼び止められた。

若干息を切らしながら「俺もちょうど今から帰るから、一緒に帰ろう」

と提案される。

沙也加は「うん」と頷く。

2人は黙ったまましばらく田んぼに囲まれた道を自転車で並走する。

痺れを切らしたように宏斗が「新刊、どうだった?」と尋ねた。

「面白かったよ、特にあの…」と沙也加が続けると、

「待って待って、それ以上はネタバレになるから」と少し焦ったように宏斗が言った。

沙也加はその様子を見て面白いような嬉しいようななんとも言えない気持ちになり前を向きながら少し笑顔になった。


しばらくして沙也加の家に到着した。

自室に漫画を取りに行き、外で待っている宏斗に渡す。

「ありがとう、また読み終わったら連絡する」

と一言残して自転車を漕ぎ始める。少しずつ遠ざかっていく宏斗の後ろ姿を見届けてから、沙也加も自宅に入った。


翌日の放課後、部活が終わり駐輪場で自分の自転車の方に歩いて行くと宏斗が立っていた。

沙也加に気がつくと宏斗は笑顔になり、

「新刊面白かった、ありがとう」と沙也加に漫画を差し出した。

そのままの流れで、また2人で帰ることになった。

漫画の感想やたわいも無い話をしながら自転車を漕いでいると

沙也加の家に到着した。

「また明日」そう言って軽く手を振って宏斗は帰っていった。


その夜沙也加はベッドに寝転がり美和と希美とメールのやりとりをしていた。

…♪、…♪

着メロが鳴り画面が受信中に切り替わり小刻みに震える

受信ボックスに目をやるとそこにはさっきまでやりとりをしていた

美和でも希美でもなく"宏斗"と表示されている。

急に心拍数が上がり、気分が高揚する。

メールを開くと、"最近、沙也加と話したり遊んだりしてなかったから昨日と今日一緒に帰れて話ができて楽しかった!これからも沙也加が嫌じゃなかったら帰れる日は一緒に帰りたいと思うんだけどどうかな"

と書かれていた。

最後の文字まで読み終わったところで、沙也加は枕に顔を押し付け、両足を思い切りバタバタさせた。

もう一度メール画面を見て、高ぶる気持ちを抑えながらボタンを押していく。

"保護しました"

メールに鍵のマークが表示される。


"私も楽しかった!嫌じゃ無いよ"

とメールを作成して送信ボタンを押した。

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