異世界創郷曲 〜その果てにいるキミに届くまで〜

二条タカネ

捨てられた世界と不死の使徒

プロローグ

 ここはどこだろう?

 目を覚ますと、いつの間にかどこかも分からない、不思議な場所にいた。そして何故か落ち着く、とても心地がよい場所だった。


 向こうの空は太陽が昇り朝を迎え、世界に光を照らしているが、それに対し反対側の空は太陽が沈みかけて夕日の赤が世界を染めていた。

 そして視線を下を向けると、今立っている場所も含め、見渡す限りの全てが水面となった水の地面があり、それが鏡のように世界を映しだし、あたかも水の向こうにもう一つ世界があるかのように見せてくる、とても幻想的な光景が広がっていた。


 普通に考えてあり得ない空と、それを映し出す水鏡となった地面の光景に目を奪われていると、遠くから大きな水しぶきのような音が聞こえ、我に帰る。

 音のした方に視線を向けると、遠く離れた場所で巨大な水しぶきを上げながら動く、黒い大きな影のようなものが見えた。

 それは見間違いだろうか、大きな影はように見えた。


 あれはなんだろう?っと、水しぶきを上げる黒い影を注視していると、今度は別の方向から鼓膜を貫くような大きな風切音が鳴り、驚きながらも音のした方に振り向く。

 すると遠く離れた空に雲を突き抜けて飛び立つ、別の大きな黒い影が見えた。

 それは物凄い速度で空を飛び、全く目で追うことができなかった。

 しかし影を追おうとするその目は、その影が通ったことで裂け、広がっていく雲の隙間から見えた光景を目にしたことで止まった。


 雲の向こう側、そこにはいくつもの島々が空に浮き、離れていてよく見えないが、島々の間を鳥の群れが飛び回り、とても生き生きとしていた。

 そんな御伽話に存在するような島々に一瞬目を奪われるも、すぐに意識は別のものへと変わった。


 島々のその遥か向こう、そこには今見えているものとは別の島々らしきものがあり、更にその先に雲らしきものが見え、その雲の隙間から、こことは違う別の大陸が見えていた。

 自分でも何を言っているのか分からない。視力もいい方ではない。しかしどうしてか、今見えているそれが、こことは違う大陸だと、そう断言できてしまう。


「うわぁ………………、ん?」


 あまりにもあり得ない光景の数々に驚愕し、同時にラノベ小説のような光景に実際に出会えたことに感動していると、ふと妙な感覚を感じ取り、辺りに視線を巡らせる。

 それはなんというのかよく説明できないが、今まで感じたことのない感覚だった。

 一体なんなんだろうと首を傾げると、突然後ろに


 後ろに振り返ってみると、少し離れた場所に一人の  がいた。

 その  はボロ布のような物で全身を隠しており、フードのようになった隙間から口元が見え、左右から長い銀色の髪がはみ出して垂れていた。

 シルエットから恐らく女の子?、ではないかと思うが、何故だろう?

 どうしてもそこにいるをはっきりと認識することができなかった。


 確かに〝そこ〟にいるのに、そこには〝何も〟いない………そんな感じだ。


 どうしてそう思ってしまうのか、突然のことに悩んでいると、  は口を開き、話し始めた。


「っ?!」


 しかしその声を、言葉を、聞き取ることができなかった。

 否……

 声は出している、言葉も呟いている。

 しかし脳が、心が、精神が、自分という存在そのものが、その声を、言葉を聞き取ることを、そしてそのそのものを、拒絶していた。


 何が起きているのかと困惑し、無意識に一歩後ずさる。

 それを見ていた  は何かを感じ取ったように口を閉じ、視線を逸らすように顔を横に向けた。

 そして次に  が開いた口の動きを見て、


〝そうか………キミも、違うんだね………〟


 そう、言葉を口にしているのが……


 どぷんっ


「っ?!」


 次の瞬間、立っていた水の地面に突如体が沈み込み、思わず目を閉じ、次に開いた時には既に水中深くまで沈んでいた。

 なんとか浮上しようとするが、何故か上がることができず、次第に意識が薄れていき、瞼が閉じていった。

 その瞼が閉じる僅かな瞬間、こちらを見下ろす  と目が合った。

 その  の瞳はとても綺麗で、しかし逆に遠ざかりたいと思ってしまう、不思議な瞳だったが、何故だろう?


 その瞳が………目が……………




 ◆*◆*◆*◆*◆*◆




「………ぅん?」


 いつから眠っていたのだろう?

 頬に吹き付ける微風とチクチクとしたこそばゆさに意識が覚醒していき、そっと閉じていた瞼を開く。

 すると視界全体に青い壁と白いモコモコとしたものが見えた。それが空だと気づくのにそう時間はかからなかった。


「………ここ、どこだ?」


 起き上がり辺りを見渡すと、そこは元は何かの街だったのか、崩れて形を失った建造物らしきものがそこら中にあり、ひび割れたアスファルトのような地面や建造物には草や苔が生え、果てには纏わりつくようにして生えた木、というか巨大な樹木などがあった。


 本当にここはどこだろう?

 まずこんな廃墟のような場所に来たことはないし、ましてやこんなに植物が侵食した場所など、どこを探してもないだろう。


「夢でも見てるのか?」


 頬をつねってみるが痛みは感じる。夢ではないようだ。


 夢という言葉に、ふと何かを忘れているような気がした。

 さっきまでどこか不思議な場所にいたような気がする。しかしどういう訳か、記憶に霧がかかったようにボヤけていて思い出せない。


「………なんだったっけ?」


 腕を組み、胡座をかいて頭を捻るが、一向に思い出す気配がない。

 それどころかだんだんと頭がこんがらがっていき、暫くして考えるのをやめた。


「考えるのやめよ。そんなことより、ここがどこなのかを調べるのが先か?………っ!」


 立ち上がり、いざ辺りを調べてみようと思った矢先、どこからか甲高い鳴き声のようなものが聞こえてきた。微かだが辺りが揺れているようにも見える。


「なんだ………これっ」


 突如聞こえてきた鳴き声と揺れに驚き、体が硬直する。その音とも取れる鳴き声は、今まで聞いたことのない、しかし声だけで大きなだと分かる、とても嫌な予感がひしひしと湧き上がってくるものだった……

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