第28話 発覚

 家まで歩いて帰ったことは、はっきり覚えている。酷く寒く、頭が冴え渡っていたからだ。脱ぎ捨てられた何枚もの衣服を再び身につけ、しっかりとかんじきを履き直したはずなのに、月子は全身の震えが止まらなかった。何度も雪の上に転んだ。その度に龍は助け起こそうとしたが、そうすると村の男に強く殴りつけられていた。汚い悪態と共に。


 玄関先で見た龍の顔の上には、やはり鱗が生えていた。月明かりの元ではよく分からなかったが、その色は金色に輝いていて、今までに見たことのない色彩である。

 しかし龍の瞼は腫れ上がっていて、顔面のそこかしこから流血している。鱗が半分ほど剥がれて、ぶら下がった状態のものもあった。


――赤と金が混ざると……こんなに美しいんだ


 月子は泣いていたのだと思う。

自分でもよく分からなかった。顔が冷たく、感覚が分からない。長いこと冷気にさらされていた為、すっかり霜焼けになっていた。


「龍」


 月子の小さな呟きに、龍の口角は少しだけ上がった。他の者は気づかない程の表情の変化だっただろう。


「月子! どうしたの、お前」


 夜半だったが、家の中は一斉に慌ただしくなっていた。

母と姉が月子と龍の姿を見て、悲鳴を上げている。


「月ちゃん」


 その場にいた家の者達の視線が、二人から一瞬だけ離れた。その僅かな隙を龍は見逃さなかった。

 小声で呼ぶと、彼は月子の手の中に何かを押し込めた。そしてすぐに半歩離れる。


「こっちへ来い!」

「龍っ!」

「月子! あんたは早く上がりなさい!」


 男達によって、龍は外へと引っ張り出されていった。離れの廊下を走って来る足音が聞こえる。悟のものだろう。


 月子は晴子と母によって家の中へ上げられ、強く背を押されながら奥座敷へと連れて行かれたのだった。

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