一分間のデスゲーム

虎渓理紗

Week 0 君たちに権利を与えよう。

一分間のデスゲーム ー2024/6/30 Sun 23:59





「ぱんぱかぱーん! おめでとう、君たちはデスゲームの主催者に選ばれた!」


 藤ヶ谷誠也ふじがやせいやは、真っ暗な視界に首を傾げた。視界は次第に暗闇に慣れていく。どうやら自分は部屋に閉じ込められているらしい。

 足元がぼんやりと照らされているが、自分がどこに立っているのかすらも分からないのだ。


 体は動かない。拘束ではない。

 金縛りのように足の先から指先まで、身体はピクリとも動かない。


「さぁ、今ここに集まってもらった君たちには、ボクのようにデスゲームを主催してもらいます!」


 目の前にあるモニターから音声を加工した不気味な声が場違いなほどに明るく耳をなぞる。段々と不快感を覚えるその声は、やけに楽しそうにこちらを揶揄うように。


「なんでもいい! 面白ければなんでもいいよ! 君たちは一週間に一度だけ、七人を集めてデスゲームを開催してほしい。でも、そのゲームの中で必ず一人は脱落――つまり殺されるようなゲームにしなければならない」


 モニターの奥には仮面をつけた人物が写っている。そこでようやく気づく。

 この部屋にいるのは自分だけではないことに。

 一人、二人、三人。――七人の人物が、自分と同じように床に立たされ、モニターの前に並べられている。


「……なんだここは」


 デスゲーム。

 見知らぬ密室に集められた男女が、モニターの奥の進行役の指示を聞きながらゲームを行い、最後まで勝ち残れば勝者となり賞金を手に入れることができる。


 だが、脱落すれば死ぬ。


 ドラマやアニメ、誠也もテレビで見たことがあった。歳の離れた姉がそういう類のものが好きで、親が寝静まった深夜によく見ていたから。

 まさか自分がそのデスゲームに巻き込まれたというのか。


「なに……ここ……」

「おい! お前は誰なんだよ!」

「ママぁ! どごぉ……!」


 他の参加者らしきものたちもこの訳の分からない状況に苛立ちと不安をモニターの奥の人物にぶつけ始めた。ここにいるものたちで殺し合わなければいけないのか……?

 けれど、モニターの奥の仮面は奇妙なことを言っていた。


「チッチッチ。君達をここに集めたのは、デスゲームに参加してくれというわけではない」


 その声はやけに楽しげに。


「君たちは選ばれた。君たちはデスゲームを開催する主催者になって欲しい。殺される側ではなく、側。君たちには合法で人を殺す権利を与えよう」


 ――殺す。


「どうだい? わくわくするだろう? 君たちはどんなやつでも参加させていいし、どんなやつを殺してもいい。デスゲームでは必ず参加者の一人を殺してくれ。一人も死なないデスゲームなんてつまらないだろう? そんなの誰が見るんだい?」


 ――必ず、一人を殺す。


「私たちに人殺しをさせるっていうのか!」

 参加者の一人がモニターに吠えた。


 誠也の隣にいる男で、社会人だろうか。アイロンがビシッと決まったスーツを着て、いかにも品行方正で真面目に生きてきました、犯罪なんて考えたこともありませんといったような男だった。


「大丈夫。君たちは必ず一人を殺す」

 仮面はニヤリと笑い、シャツを着た自分の首元を指差した。


 誠也が仮面のいう通りに首筋を見るとそこにはスーパーやコンビニの商品についている黒い筋が刻印されていた。

 ぷっくりと膨れていてじんわりと温かい。


「君たちの首にバーコードのようなものがあるだろう? 女性でいうとデコルテの位置かな? 君たちがもし怖気付いてデスゲームを行わなかったり、一人も殺せなかった場合はそのバーコードから特殊な電磁波が流れて首の頸動脈を焼き切る。するとどうなると思う? 呼吸困難と大量出血で死に至る。だからちゃんとボクの言うことを聞くこと。死になく、ないだろう?」


「それでも私は殺せない!」

「そう」


 びちゃり、生ぬるい液体が頬にかかる。

 それは一瞬のことで目で追えたわけじゃない。ぐぇ、となにかが潰れるような声が聞こえて顔を向けると、さっきのスーツの男が床に崩れ落ちていた。


「え」


 床に赤い液体が広がっていく。男はピクリとも動かず、沈黙を破ったのは仮面の冷酷な声。


「まだ分からないのぉ? 君たちは逃れられない。簡単さぁ。、殺せばいい。それに、ほら合法って言っただろう」


 焦げ臭い煙の匂い。それがおそらく嗅いだことのない硝煙の匂いであるということを背後で動いた銃口が告げる。

 狙っているのだ、いつでも殺せる。

 自分達は皆、支配下にある。


「君たちに開催してもらうデスゲームはバーチャルリアリティというやつさ。この部屋もそう。ここで死んでもリアルの世界で死んだわけじゃない。目が覚めれば元通り。普通に生きてる。まぁ、『なんか変な夢を見たなぁー』程度の記憶しか残らないから安心してよ」


 ヒヤリと汗が頬を流れる。体は隣で死んだ男を解放することもできず、固まったまま。どうして自分達が選ばれたのか。仮面の目的はなにか。脳内を答えのない疑問が駆け回る。

 誠也はただ、突っ立っていた。


 


「さぁ。説明は以上だ。君たちが面白いゲームを開催することを、ボクは楽しみにしている」

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