第8話 VS悪魔王

「ルリ、悪魔の前ではああ言ったが、本当に最高神というのはクソなのか?」

「えっと……確か人類を滅ぼすのは娯楽だとか言ってたよ? それ以外にも理由はあるらしいけど」

「よくわかった。クソだな」


 きちんと考え直しても最高神は殺すべきと判断された、と言うわけで作戦決行。


「出てこい悪魔王、出てこないならこの立派な城を瓦礫に変えてやってもいいぞ。まあ待たないんだがな」


 剣を抜くと同時に、意識が切り替わる。

 

「ルリ、悪いが目隠しと耳栓しといてくれるか? 後2回くらいだ。そしたら……そしたらずっとしなくていい。オレがそうして見せる」

「分かった、ありがとう。ルシファーさん」


 しっかりと付けたのだけを確認し、踏み込む。

 それだけで城は瓦礫に……ん?


「これはこれは危ない。我が自慢の城に傷を付けないでいただきたいな」

「オレの剣を止めた? それに、どっから出てきやがった」

「悪魔王はなんでもありなのだよ。君こそどこから?」

「上から」

「つまり天使か、ならば殺さないとな」


 悪魔王の手から黒い稲妻を出たかと思えば、その稲妻は漆黒の剣へと成り、それを持つと同時に悪魔王の黒く大きな翼がバッと開く。


「我が名はルシファー、全悪魔の中で最も強い、悪魔の王」

「オレの名はルシファー、天界で最も強い剣士」

「いざ尋常に」

「勝負ッ!!」


 お互い見つめ合うことなく、速攻で空中戦が展開される。

 剣術が素早ければ良いわけではなく、それを当てる為の飛行技術まで有さなければ行けない。

 その点で言えば悪魔王の飛行技術は圧倒的に上で、オレの斬撃は面白いくらいに当たらない。


「我が得意とするのは空中戦などというのは割と有名だぞ? 対策はしてこなかったのか」

「[渦巻]」

「突進技? 大事なのはスピードではない、コントロールだ」

「ンなこと分かってるよ、分かってるから——それを乱してんだよ」

「っ!?」


 オレの技名の付け方には、一応こだわりがある。

 その中の一つとして、突進系の剣術名は全て風にまつわるものにしている、というものがあるのだが、[渦巻]は少し違う。

 これは風にまつわるというより、風そのもの。

 ある意味[嵐]よりも“嵐”がふさわしい技名と言っても良い。


「どーした? 飛行が乱れてんぞ!」

「ほざけ!」


 悪魔王が如何に素早く、どこまで飛ぼうと喰らいつく。

 喰らい付いて喰らい付いて、喰らい尽くす。

 本来“風”を関する剣技は、こういう意味を込めて作ったのだ。

 ただ、実践できる相応しい相手がいなかっただけ。


「強敵に飢えた獣が餌を見たかのようだ。美しいのに、荒々しい。とても面白い剣だ」

「見物なんて余裕だな悪魔王!! オレはお前を攻略する術を見つけちまったぞ!!」

「ならばやってみろ!!」

「[天喰]」

「それは知っている」

「——だろうな」

「っ!?」

「[神風しんふう刃風はかぜ]」


 [天喰]が世界を削る技ならば、[神風・刃風]は満たす技。

 敢えて大振りの一振りずつが風を生み出す、それが何十何百、何万と重なった時、それは一つの刃と成る。

 本来ならばただの刃、しかし[天喰]で削れた所を満たしたのならばどうだろう?

 風は削れた所を満たす為に使われてしまう。

 ならば、ならばもっと満たせばどうなる。

 それは溢れ、途轍もない“嵐”を生み出す。


「これは……面倒だなッ!!」

「[嵐]」

「[悪食]」


 悪魔王は剣をふるう。

 しかし嵐で飛行の乱れた悪魔王など、オレの敵ではない。

 

「[風牙]」


 [嵐]の前方斬りよりも、何よりも速い。

 この世で最も素早いその突きは、悪魔王すら射止める。


「——見事だ。期待しているぞ、天使最強」

「任せろ、しっかりと仕留めてやる」


 悪魔王の最後は案外とあっけないもので、煙みたいに霧散した。

 

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