第2話 叛逆の悪魔

 移動中、ルリから大体のことを聞いた。


 美の神ライラックの治るエリア『ガント』は、ライラックを王とし、美を追求する為生み出された天使達が住み着いている。

 ルリも美を追求する為生み出された天使であり、オレが先程居たのはガントの端の方にあるルリの家、と言う事だそうだ。


 道中、ルリと同じような、もしくはそれ以上の境遇の者達と幾度となくすれ違った。

 ルリだけ特別に酷い扱いなのではない、このガントでは、全員が平等に酷い扱いをされて居る。

 

「おかしい、オレの知る神はこんな物じゃなかった筈だ」

「どうなんでしょうか……」

「……まぁ、それはこれから確かめれば良いだけだ。——フンッ」


 目の前に立ちはだかるのは、ライラックの住まう城の巨大な門。

 しかしこんな物は、ただ触れるだけで開く。

 すると無理矢理開くと作動する様セットして置いたのだろう巨大な火球が飛んでくる。


「——火遊びか? 下らん児戯だな」


 手を上から下へ動かす。

 それだけで火は消える。


「歓迎の挨拶にしては派手さが足りないな、手本を見せてやる」


 オレは剣を鞘から抜かず、そのまま振り下ろす。

 辺りには凄まじい突風が巻き起こり、その中心たら城は、真っ二つに分かれる。


「これが、挨拶だ」


 城は耳を塞ぐ程の音を立てて、崩れ落ちた。


「貴様、神の城を破壊するとは、それも……天使の分際でッ!!」

「お前程度には似合わないから壊してあげたんだ、感謝しろ」

「はぁ?」

「お前は、ルリ含め多くの天使に対して常習的に体罰を行ってるよな?」

「美しを追求した末だ。可哀想と言う可愛さを研究する為、これは仕方の無い事」

「で?」

「それに、天使はただの道具だ。どう扱おうが私の勝手だ!」

「で?」

「……え?」

「言い訳はそれで終わりか?」

「何?」

「悪いけど今のオレ、正義の味方してる最中何だわ。だからよ……天使は道具とか巫山戯た事抜かしてるやつ、見逃すわけねぇだろ」


 オレは、剣の柄を軽く握る。

 十字の持ち手部分が特徴的な、蒼い刀身を持つ天界最強の剣『始動・エクスカリバー』

 宿した力は、

 使用者の実力に合わせて強くなるこの剣を、天界最強の俺が持つとどうなるのか?

 答えは——


「おい、少しは抵抗しろ」

「馬鹿を言うな……!! 最高位の結界をいともた易く貫通出来る等、あり得ぬッ!!」

「あり得たからお前は上半身と下半身がおさらばしてんだろうが。オマケにサイコロステーキみたいに斬ってやったのに、これで生きてるとか神ってのは化け物か?」

「化け物は貴様の方だ……!!」


 ライラックは、目をこちらに向けギロリと睨み言い放つ。


「必ず、必ず貴様には裁きが下るぞ!!」

「やれるものならやってみろ」


 俺は剣を八回刺す。


「不死とされる神を殺す為の方法は幾つかあるが、その中で最も素早く確実なのは、オレの生み出したこの〈夜天・連星〉。手順はたった八回刺すだけだ」

「……つくづく化け物だな、貴様」


 ライラックの体は、光の粒となり、崩れ始める。


「貴様、名を何と言う?」

 

 名を聞かれても、俺だって自分の事を思い出せていない。

 そうだな……、名前が無いと言うのも不便だし、5世代前の神界で堕天した最強の天使の名前を借りるとしよう。

 神に反逆する天使など、堕天以外の何物でも無いからな。


「オレはルシファーだ」

「覚えておこう、一生呪ってやる」

「直ぐに仲間を送ってやるから楽しみにしてろ」

「……私と同じ様な事をしてる輩は幾らでも居る、それらを全て裁くつもりか?」

「今の所、それが自分の使命だと思ってるからな、その予定だ」

「やれる物ならやってみろ……」


 その言葉を最後に、ライラックの体は光となって分散した。

 それはライラックの目指した美の到達点の一つとも言える、言葉では表せないような、神秘的な美しい光景であった。







 それから僅か1時間の内にライラックの死は広まり、同時に“叛逆の悪魔ルシファー”として、オレの名前が天界全体に響いた。

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