第10話 無限地獄②
ステータスはおよそ1300程上昇した。
つまり六道のレベルは1300程あると言う事であり、そのレベル数だけで以下ほどの実力者であるかと言うのが伝わってくる。
ステータス差は10倍、これを覆す他に勝てる手段は無い。
ならばやるべき事は一つ。
「[転換〈紫〉]」
「ほう? ……ふむ、良い選択だ!」
両者距離を詰め、二人の間は限りなく0に近くなる。
「[渾身の一撃]」
「虚球にはこんな使い方があるのだよ」
剣状だった虚球は凄まじい速度で二人の間に飛び込んで来て、平たく大きな盾の様になる。
亮にとってそれは、恐ろしく想定通りの行動であった
「[中止]」
「何っ!? ——とでも言うと思ったか?」
「いや? 全く」
「なっ!?」
亮がノーモーションで後ろを思い切り蹴ると、丁度亮の拳を避け奇襲を仕掛けようとしたであろう六道の腹にクリーンヒットする。
壁に叩きつけられた六道は、その速度やヒビ具合から確実にダメージが入ったのが分かる。
「ステータスは我の方が下か、ならばもう少し余裕を持てばどうだ? もしや、時間制限でもあるのか?」
「っ!?」
ステータス差はこちらの方が上の筈なのに、六道の持つステータス以外の何かが、とてつもない威圧感を放っていた。
負けるはずが無いと言う絶対なる自信、そして培ってきた経験からくる余裕、それを表すかのような表情。
そして、一瞬で見抜かれた[転換〈紫〉]の弱点。
亮は、今すぐ仕留めなければならないと強く実感する。
「[高速移動][渾身の一撃]」
「早いが、
そう言うと六道は、なんのスキルも使わず、ただサッと少し体を動かすだけで亮の攻撃を避ける。
「先程の貴様の[中止]、発動後膠着があったように見えた。予想するに、それは数が多くなる程長くなるのでは無いか?」
「さぁ? どうだろうな」
「では試してみよう」
すると六道は、虚球を9個増やす。
「[黒天]」
それら全ては剣状に変化し、盾となっていた虚球も剣となり合計10本の剣がその場に造られた。
「防御不可の剣10本による総攻撃だ、貴様にこれが捌けるか?」
六道の言葉と共に、10本の剣はバラバラに動き始める。
それぞれの動きはとても速く、ただでさえ読みづらい軌道をしている為捉えるのは不可能に近い。
「[思考加速]」
スキルを使用すると共に、時間の進みがゆっくりとなる。
しかしそれでも、速い。
「[中止]」
なんとか捉えられた一本の剣を反射的に消す。
その瞬間六道はニヤリとして、同時に9本の剣が乱雑に動き出し更に捉えづらくなる。
「戦場では貴様の膠着しているその限りなく短い時間が勝負を決すると言うのはよくわかってると思うが……、我の過大評価だったか?」
「まさか、釣ったつもりか? お前は10本ある内の1本を減らされた。まさか算数もできないと?」
「そんなの、足せば良いだけだ[黒天]」
「なぁ、それは隙じゃ無いのか」
亮は自身に二つのスキルを掛け、次の瞬間、六道の[黒天]の発動中、そんな観測すら不可能な0.0000000001秒以下の膠着時間の間に距離を詰める。
「バカな……!?」
「[心闘滅脚β]に[原悪解放]を使いβを外した、後は心を沈めるだけだ」
「あり得ぬ、この状況で心を沈めるなど……」
「[削除]で気絶した、こうすればどう足掻いても最低値だ」
「戦場で自ら意識を飛ばすだと? バカな」
「お前も飛ばして見るか? そしたら、この無駄話をしてる間に俺のことを虎視眈々と狙ってる剣どもが止まるかもしれねぇしな?」
「っ!!」
「[削除]」
発動と同時に浮遊していた剣は、まるで最初から無かった様に消え失せる。
後は六道が気絶してる間に逃げるだけ——
「などと考えているのだろうな」
「……は?」
あり得ない、気絶がこんなにも早く解ける訳がない。
まるで最初からそこに居たかの様に思ってしまうほど、六道の動きは認識できなかった。
「困惑しているであろう貴様に教えてやろう、我は、10秒先の未来から来た」
「どう言う事だ……?」
「[黒天]は基本手の広サイズ、しかし[黒天・深層]においてサイズは自由、だから我は宇宙を丸ごと呑み込んだ」
「何……!?」
「0に収束させる速度はその範囲故に極端に落ち、収束は非常にゆっくりと行われる様になる。その収束を途中で止めると、0にされた収束後の時間、空間は消え去る。すると我はある程度の過去に飛ぶことができる」
「は……?」
「連続使用が出来ないのは面倒だが、少なくとも致命打や今の様な状況は無かったことに出来る。つまり貴様では我を倒す事は出来ない」
六道は虚球を再び10個出す。
「これが我の本気だ。さぁ、足掻いてみよ、多賀谷亮」
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