第4話 捜索任務①

「よーし、5人集まったな! ではこれより捜索任務を開始する! それぞれ配った書類に書いてある冒険者をこのダンジョンから探しだせ! ダンジョンの攻略は


 捜索任務。

 治安維持部隊の仕事の中で違法冒険者討伐任務と同じく上位に入る危険度を誇る任務だ。

 違法冒険者とはスキルと言う現代における最強の兵器を乱用し市民に害を与える犯罪者であり、Aランク以上の冒険者も対象になる為その危険度は計り知れない。

 そんな違法冒険者討伐任務と同列の捜索任務が如何に難しいかは想像するに容易い。

 それは、例え初心者でも運が良ければ攻略できるDランクダンジョンであってもだ。

 

「亮! お前は俺と一緒だ!」

「!?」


 瞬間、茅末が恐ろしい速度で餓屋に近づいた。

 

「待ってください、隊長はスキルの関係で攻略中耳栓を貫通する騒音になります。ソロ攻略が1番あってるんですよ隊長は」

「お前さり気なく悪口言ったべ?」

「……言ってません。それより今は多賀谷君が誰と行くかが重要であって」

「まさか自分が適任ですとは言わないよな茅末、お前のスキルもソロじゃないと厳しいんじゃないか? ないか!!」

「そんなことはない! 攻守から補助に変わるだけです!」

「ほう? でも多賀谷君には戦闘のお手本を見せてあげたほうが良いんじゃないか? 支部長もそれを期待して俺らに渡したわけだし?」

「隊長、珍しく頭が切れてますね。その冴えてる頭で誰か適任なのかもう一度よく考えてみて下さい?」

「……あのぉ、僕となんてどうでしょう?」


 バチバチとした雰囲気の中2人の中に割り込んだその人物に、亮は見覚えがなかった。

 首元まで伸びる緑色の髪と、

 誰だろうと記憶を辿っていると、あちらから自己紹介をしてくれた。


「僕ですよ、瀬山甲せやま こうです! 救護室で貴方を迎えた時会いましたよね? この間のゴミ拾いでは毒物を処理するのを助けて貰ったりもしましたし」

「そういえばお前ら仲良さそうにしてたな! 救護室で会った時も1番最初に話しかけてたし!」

「瀬山君は今年で三年目でしたね、教えるという経験を積んでも良いかもしれません」

「あ、あの……」


 先程から感じる激しい違和感から断りたい今、不幸な事になんとも断り辛い空気感が流れてしまった。

 どうするものかとあたふたしていると、肩に誰かの手が触れた。

 振り返るとその人の指が亮の頬に刺さる。

 ツンツンだ。


「もー、亮君は初めてなんだから緊張してるんだよ! そんな詰め寄っちゃダメ!」


 良い感じに勘違いしてくれて助かった。

 これだけあの2人が認めていて、何度か話したこともあるらしい人物を忘れた等と言うのは正直言って怖い。

 いつかは聞かなくてはならないだろう。しかしそれはダンジョン攻略後でも遅くない。


 しかしどうにも不安だ、あの瀬山は何かが引っ掛かる。

 救護室の時を思い出してもゴミ拾いの時を思い出しても、瀬山の部分だけモザイクが掛かったかのようにハッキリとしない。

 

「不安で一杯の亮君にはこれをプレゼント!」

「これは?」

「お守り!」


 瞬間、頭の中のモザイクが消えた。

 いや違う。モザイクの奥に居た瀬山ごと消えたのだ。

 

「また不安になったらこのお守りを持ってお祈りすると良いよ!」

「……分かりました」


 その言葉の真意は探るまでも無い。

 瀬山は警戒すべき人物だ。

 

「それでは開始する! 捜索開始!」


 その掛け声と共に、俺たちの探索は開始した。


 


 捜索任務開始から30分程だったが、瀬山は特に怪しい行動を取らなかった。

 それどころか、俺に成長の機会を与えようとしているのか途中のモンスターとの戦闘において自分の持ち得る技術を余す事なく見せた。

 怪しんでいた事を若干の申し訳なさを覚えたが、お守りを貰った時のあの感覚から瀬山が怪しいのは変わらない。

 今だに消えぬ不信感を抱きながら、今は少し早歩きで捜索をし続けている。

 

「瀬山さんはどうして治安維持部隊に?」

「そうですね……、目標があるんですよ」

「目標?」

「ええ、どうしても達成しなくちゃならない目標です」

「それは治安維持部隊じゃなくちゃできないんですか?」

「一番確実性が有るんですよ」

「それは三年以上かかる目標何ですか?」

「やろうと思えばすぐやれます。しかし、物事は作戦立てて実行した方が成功しやすい」

「作戦! どんなですか?」

「それ、聞きますか?」

「はい、聞きます」

「そうですか。では教えましょう」


 二人は立ち止まる。


「私はある人物を殺したいんです。その為に三つの策を講じました」

「それは?」

「一つ目はその人物をある場所まで誘導する事。それは治安維持部隊に昔から居たと錯覚させる事で達成することができました」

「……」

「二つ目はその人物のステータスを決して上げさせない事。その人物はここに来るまで一体もモンスターを倒して居ない為ステータスは相当低いはずです」

「……」

「最後に、これです」


 瀬山は少し進み、その先にいる人物を持ち上げる。

 その人物にはとても見覚えがあった。

 自分達が探している捜索対象の冒険者だ。


「低ステータス、人質有り、一人の絶望的な状況。どうする多賀谷亮……いや、悪魔」

「一人? 何言ってんだ」


 俺は手に持ったお守りを握り潰す。

 するとその拳の目の前に光る球体が現れ、それが弾ける。

 あまりの眩しさにその場にいた全員が目を瞑り、そしてそれが明ける頃には……。


「やっぱり瀬山なんて隊員はいない。私の読みは間違ってなかったね」


 先程まで人質に取られていた冒険者を助け出し抱える女性が居た。


「何故だ……、何故ここにいる、風越凛!!」

「天使サマは下界の人間についてあまり知らないのか? 世界で14名しか居ない神話級固有スキル保持者、それこそが風越凛先輩だ」

「所詮下界の人間、どうやっても我には敵わないのだよ!」


 そう言って天使は光を集め凛先輩へと放つ。

 凛先輩は冒険者を咄嗟の判断で亮の所へ投げ飛ばす。

 しかしそれによって回避は間に合わず、光は凛先輩へと直撃した。


「なんだ、雑魚じゃ無いか」


 光の直撃した凛先輩は、血溜まりの中心で体に穴を開け倒れていた。

 バカでも分かる。死体だ。

 しかしその死体は次の瞬間光になり爆散する。

 そしてその光は人を形作った。

 

 そこに立っていたのは、凛先輩だった。


「[蘇生リスポーン]、それが私の授かったスキル。覚醒した事によって神話級へと格付けされた最強固有スキルの一角を担う私に雑魚、ね? その言葉、そのままそっくり返してあげる」

「人間風情が……!!」

「亮君! コイツは私が食い止めるから、ダンジョン攻略に向かって! このダンジョンなんか変!」

「逃すとでも!?」

「[命焔乃一撃めいえんのいちげき]」

「なっ」


 瞬間、天使の避けた場所が抉れた。


「使用後に回復しないと1分以内に即死する禁忌とまで言われたこのスキルだけど、私のスキルの前では関係ない。[蘇生]」

「クソっ、[中止]」

「それは通じない」

「なっ?!」


 天使の目論見は外れ、凛の体は新しく生まれ変わる。


「誰を逃さないんだったっけ?」

「まずは貴様から殺す……っ!!」

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