一章 治安維持部隊編

第1話 治安維持部隊①

 赤黒い空と雲、美しさの欠片も無い場所の中心に赤く汚れている翼を生やした男が、確かな恨みを持った眼で此方を睨みつける。


『……悪魔め』

 

 ——悪魔? 何をいっているんだ、俺はお前と同族だ。


『同族? 巫山戯るな!! 貴様はその手で天使を語るのか?!』


 ——手? それがどうした?


『そうか、お前はその色を見慣れてしまったのか』

 

 手は、真っ赤に染まっていた。


『……そんなにも恨んでいるのか、しかしあれは神聖な議会によって決められた事だ、あれが最善の選択肢の筈だ!!』


 ——そうか、お前は何も知らないのか。だからこんなにも真っ直ぐな剣なんだな。


『捻じ曲がった貴様の剣と違ってな』


 刹那の間に男はまるで最初から居なかったかのように消し去られる。

 男を葬りさった者は、先程までその男がいた場所を睨み付け呪うように言った。

 

「俺にとっては、お前らが悪魔だよ」

 

 その言葉が頭に響くと同時に、だんだんと眠気が強くなる。

 ゆっくりと世界がぼやけていき、完全な黒に支配されるのと同時に、意識が覚醒する。


 そうして今のが夢であったと気づく。

 

 目が覚めるとそこには白い天井があった。

 同時に暖かみと柔らかさを感じ、自分がベットで布団を掛け寝ていた事がわかる。

 ふと右へ顔を向けてみると、3名ほどの集団がこちらを見つめていた。

 驚き起き上がると同時にそのリーダー格と思われる人物が突如近づいてくる。


「お、やっと起きたか! 新入り!!」


 あまりにも大きなその声は耳を刺し、亮は咄嗟に耳を押さえた。

 その大きな声の主は、赤く短い髪に目まで赤くまさに赤! 見たいな姿をしていて五月蝿いのにも納得した。


「どうした新入り! 鼓膜やら体の傷やらはウチの優秀な副隊長が直しといた筈だが!」

「おそらく隊長の声が大きいからではないでしょうか?」

 

 指摘する男は青髪に青い目と、落ち着いていると言った印象を感じた。


「何?!」

「今まで隠しておりましたが、我々隊員一同いざと言う時の為耳栓を常備しております」

「そ、そうか! すまない!」

「とりあえず隊長、病み上がりの少年の前ですから、びっくりマークが付く様な声はやめましょう」

「わ、わかっ! ……わかった」

「本当にわかってらっしゃるのか……」

「え、あの、どちら様方ですか?」


 亮の言葉にその場に居た全員がハッとする。


「お見苦しい所をお見せしましたね。結論だけお伝えしますと、貴方には今日から我々治安維持部隊のメンバーになって貰います」

「え?」

「こちら堂導支部長からのお手紙です。先程彼に渡しておいてくれと託された物ですので受け取って頂けると」


 亮はそれをベットから起き上がり受け取る。


『多賀谷君へ。まずは堕龍攻略おめでとう。しかし相打ちではダメだよ、君にはもっと強い敵を倒して、もっと面白い所を見せて欲しいんだ。だから強くなって貰いたいんだが、

ダンジョンに潜らせては死ぬかもしれない。そこで戦いの基礎をしっかりと身につけられて、尚且つレベルアップが可能な場所を用意した。治安維持部隊でしっかりと鍛えてきてくれ。追記 君のステータスを鑑定しておいた。少し面白い事が起きてるから確認してみてくれ』


 〈名前〉多賀谷亮たがや りょう

〈レベル〉20

〈力〉1(+0)

〈体力〉1(+0)

〈精神力〉1(+0)

〈俊敏〉1(+0)

〈固有スキル〉

《覚》[ダメージ吸収]

《覚》[毒吸収]

《覚》[毒霧]

《覚》[威圧]

[臥竜点睛β]

 相手から受けたダメージを100%で返す。

[転換〈蒼〉]

[獅子奮闘]

〈冒険者スキル〉

[鑑定]

[思考加速]

[渾身の一撃]


 ステータスがAll1、さらに+値もゼロ。

 信じられないその光景は、[転換〈蒼〉]が全てを説明した。


[転換〈蒼〉]

 ステータスを全て消費し、以下の効果を得られる。

 ー消費されたステータスを100倍にして一時的に+値として自らに付与する。

 ー固有スキル[中止][削除][天撃]を一時的に得る。


[中止]

 認識できる範囲のスキルを中断する。

 ー発動後一定時間の発動膠着が発生する。

 ー中止するスキルの個数が多い程発動膠着が延長される。


[削除]

 対象の意識を十秒間強制的に落とす。

 ー精神力の高い相手に対しては秒数が減少する。

 ーこのスキルはデバフ、状態異常扱いにならない。


[天撃]

 光を密集した特大威力の十字状の攻撃を放つ。

 ー自らの精神力が高い程威力が上がる。

 ーこのスキルによって傷を負った場合永続的に残り続ける。


 

 あの時謎の声がステータスを消費などと言っていたが、その時におそらく[転換〈蒼〉]を使っていたのだろう。

 ステータス全消費と言うのは普通の冒険者からすれば死活問題だが、〈ダメージ吸収〉がある亮にとってそんなものは関係が無い。

 

 思わず興奮してしまいそうな気持ちを抑えながら、それでも隠せないニヤけ顔で手紙をずっと見ていると、隊長と呼ばれていた人物がこちらをじーっと見つめてくる。

 そういえばこの治安維持部隊に入らなければいけないんだった。

 

 正直言って、あのスキルを邪魔してくる想定外の化け物さえ居なければまずどんなダンジョンでも攻略出来るはずだ。

 支部長には申し訳ないが、ここはやんわりお断りを……。


「そんなに手紙を見つめて、いったい何が書いてあるってんだ?」


 するとその疑問を解消しようと見られたら終わりの情報てんこ盛りのステータスが記された手紙を亮から取ろうとする。


「あぁぁぁぁあ! いや、治安維持部隊に入れて嬉しいなぁと!」

「……そうか、良い心構えだ、改めてよろしく」

「よろしくお願いしま……あっ」


 入ってしまった。


 入ってしまった!!


「そ、その」

「ん? どうした?」

「何でも無いです! これからよろしくお願いします!」


 入りたいなどと言ってしまった後にやっぱり入りたく無いなんて言える輩がこの世にあるだろうか?

 いや、居るかもしれない。居るかもしれないが極端に精神力のステータスが下がっている今断る勇気など無い。


「隊員のお前にはこれを渡しておく!」

「これは?」

「隊長の作成したクソダサエンブレムです。連絡機能やGPSなどもあって便利ですが、ご覧の通りクソダサいので隊員一同頭を抱えております。後隊長、声、また大きくなってます。静かにできないんですか?」

「お前こそクソダサエンブレムとはなんだ! 誹謗中傷で訴えるぞ!」

「誹謗中傷とは根拠が無い場合です。訴えるなら名誉毀損ですね?」

「だからダサく無い!」

「だから声が大きい!」


 完全に2人の世界が形成されてく中、2人の後ろに居た女性が手を後ろで組みながら近づいて来る。


「ごめんね〜、あの2人いつもそうなの。あ、私の名前は風越凛かぜこし りん、怒ってるのは副隊長の茅松裕人かやまつ ひろとで、大きな声の人は餓屋辰がや たつ隊長! まあみんな役職で呼んでるから名前覚えてるの私くらいだし、覚えなくてもいいよ!」

「あっ……はい」


 長い黒髪に優しげな黒い瞳、この人が居るなら入って良かったかもしれない……。


 すると喧嘩? が終わったのか茅末さんと餓屋さんが戻って来る。


「改めてよろしく頼む、多賀谷君」

「よ、よろしくお願いします」

 

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