第17話 2人だけの続き
一〇時前になると、ありすさんはサワーとお水を持って配信部屋に移動した。
一曲だけではあったけど、LIVEのあとに今日二回目の配信なんてなんとなくテンションが上ってしまう。
そして一〇時になって、レイラのオープニングが始まる。
僕の準備も万全だ。しかも今日はありすさんが用意していたものなので、レイラと同じものが完璧に用意されていた。
『みんな生誕祭のゲストLIVE観てくれた?』
『みたよ』『かわいかった』『ショートパンツだった!』『狂った』『いいセトリだった!』
『ん? ショートパンツで狂った人がいたみたいだね』
当然直前に出ていたLIVEが話題にあがる。ミニスカートもいいけど、ショートパンツ姿も好評だったみたいだ。
まぁたぶんだけど、レイラはなにを着ても好評になるんじゃないかとは思う。
極論を言えば、着ぐるみでもウケって方向で好評になりそうな気がした。
『あっ!』
突然驚いたような声をレイラが発したことで、コメント欄がざわついた。
『?』『なんだ?』『どうかした?』『?』『なんや?』『マネちゃんか?』『え?』
『――なんでもない。ちょっとだけ太ももにこぼしちゃった』
『拭いてあげる』『舐めさせて』『大丈夫?』『ペロペロ』『美味しそう』『脇の下がかゆい』
途端にコメント欄はおかしなことになって、レイラが収拾をつけにいく。
『もうティッシュで拭いちゃったよ。こんなところでバーサーカーにならなくていいから!』
レイラはリクエストに応えて合間に一曲歌い、晩酌配信は一時間半ほどで終了となる。
僕も少し残っているのを一気に飲み干して一缶飲み終えた。
寝酒には適量くらいだと思う。耳につけているワイヤレスイヤホンを外し、ノートパソコンを閉じるとリビングの明かりが消された。
「翔也くんも飲んでたの?」
ソファベッドに倒れ込んできたありすさんは、少し酔っているのかそのまま僕のお腹に抱きついてくる。
さっきまでの格好と違って、シルクのようなツルツルした生地でできたネグリジェを着ていた。
細い
丈もそんなに長いものではないので、太ももが見えてしまっていた。
「ひ、一缶いただきました」
「ふ~ん。私は二缶飲んじゃった。――ねぇ? さっきの配信の続き、二人だけでしよっか?」
ありすさんが上がってきて、僕の目の前にはありすさんの顔があった。
少し目尻が下がっていて、いつもより目が細められている気がする。
「二人で配信の続きですか?」
「うん。少し酔ったレイラと二人っきりでお話できるよ? うれしい?」
横になっているせいで、ありすさんの胸元には深い谷間が見えていた。
「は、はい。それはもちろん」
うれしくないわけがない。こんな状況で二人だけでなんて、なにか特別な時間に感じてしまう。
「じゃぁ今は私のことレイラって呼んでね?」
「は、はい」
エメラルドグリーンの瞳に見つめられながらレイラの声で言われた僕には、他の選択肢なんてありはしなかった。
「翔也くんはレイラのファンなんだよね?」
「はい」
「じゃぁレイラのことが好き?」
わかり切っている答え。本人を目の前では口にしづらいところはあるけど、かといって他に言えるような言葉もない。
「す、好きです」
「本当に? じゃぁ前の彼女と私ならどっちが好き?」
ありすさんは訊きながら、僕の首に腕を回して間近で問いかけてくる。
「もう理沙にそういう感情はないですよ」
「ふ~ん。かわいい名前だね。本当にもう理沙さんにはなんにも感じない?」
「もうなにもないですよ」
さっきから僕の心臓はドキドキが止まらないんだけど? なんか恋人みたいなことしてないだろうかと思ってしまう。
そこで一つのことが頭に浮かんだ。今までレイラはそれっぽいような配信はなかったけど、もしかしたらこれが噂に聞くガチ恋営業というものなのだろうか?
だっていつの間にかこんな雰囲気になってるし、こんな恋バナみたいな。
「……じゃ、じゃぁ、私と付き合ってみる?」
「――え?」
「自慢できることじゃないけど、私コミュ障だし、あんまりお家から出ないし、翔也くんのことしか私は見ないよ?」
いったいなんのご褒美なのかわからない。自分の推しにこんなことを言われる日がくるなんて思っていなかった。
破壊力が大き過ぎて、脳が破壊されてしまいそう。
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