第10話 バーサーカー

「配信のレイラのイメージが強くて、なかなか呼びづらいっていうのがあって」


「……それもわからなくはないんだけど」



 レイラと話しているところでインターホンが鳴ると、玄関のドアが開く音がした。

 もう二四時を回ったところでもあるし、ドアが開くなんて明らかにおかしい。

 僕が視線を向けると、レイラは焦ったように玄関に小走りで向かう。



「急にどうしたの?」


「この前のことでへこんでるんじゃないかと思って」


「大丈夫だよ。今日はお客さんが来てるから」



 レイラがそう言ったときにはすでに手遅れだった。



「こ、こんばんは」



 見知らぬ女性と目が合って、なにを言えばいいのかという感じで僕はあいさつしていた。

 レイラの知り合いなのは鍵を持っているのと話し振りから間違いない。

 鍵を持っているようだったのでご両親とかが頭を過って妙に緊張してしまった。

 でも目が合ったその女性は、見た目からしてそうではないことがわかった。

 見た感じ年齢はレイラとそう変わらなそうだったからだ。



「あぁーーー! ありすが男連れ込んでるー!」


「っ――――!」


「ちょっとっ! そういうんじゃないから!」



 声を聴いてもしかしてって思った。



「翔也くん、この子同期のメア」


「レイラと同期のちょっぴりエッチなサキュバス、メアです」



 少し甘い感じの話し方で、かわいい感じなのにつやっぽい声。

 わりとレイラはメアと絡むことも多いので僕も知っている。

 サキュバスというだけあって、衣装は小悪魔っぽい感じのVtuberだ。

 メアに自己紹介された僕は、無意識に口走っていた。



「オフコラボ……」


「「――――」」



 リスナー丸出しだった。今の状況をオフコラボとは言わないと思うけど。



「これはリスナーさんですねぇ」



 このあとはお互いに状況説明をすることになった。配信上では近場にメアは住んでいるとレイラは言っていたのだけど、実際には同じこのタワーマンションに住んでいるらしい。

 メアは一五階に住んでいるらしく、お互いにカードキーを持ち合っているということだった。

 どうしてメアが来たのかっていうのは、さっきのレイラの配信を見たから様子を見に来てくれたようだ。

 そして当然僕のことも説明することになる。



「翔也くんって神リスナーですね」


「え? そんなことはないと思いますけど」


「そんなことないと思いますよ? そんな状態になっても推してくれるリスナーさんなんていませんよ。

 ねぇ? 翔也くんはメアの奉仕者だったりしないんですか?」


「っ――――! 推しは私なんだから、翔也くんはバーサーカーだよ」



 二人でなにを言っているのかって感じだけど、メアが言っている奉仕者とはファンネームだ。

 ちなみにレイラのファンはバーサーカーと名付けられている。

 狂ったようにレイアのことを推すようにと、レイラが独断のこれ一択で決めたファンネームだった。



「そんなことわからないですよ? コメントでは他のメンバーは観てないとか言っていても、リスナーさんは浮気性ですから。

 初めてですとか言って、他の女に投げ銭してたりしますからね」


「翔也くん、メアのことも観てるの?」



 この状況は苦し過ぎる。メアを目の前にして観ていないなんて言えないし、メアの言っていることはあながち外れているわけでもなかったりする。

 レイラはそんなメアの言葉を聞いて、口を尖らせて僕を見てきた。



「いや、コラボとかすればそういうことだってありますよ。でも僕ROM専なのでコメントをしたことはないですよ」



 微妙な言い回しになってしまった気はするけど、ウソもなくそこそこの返しができたのではないかと思う。

 だけどこのままここにいれば、またどこで火の粉がかかるかわからないのでお風呂に逃げることにする。

 脱いだ服をランドリーボックスへ入れようとしたら、レイラとメアのことを考えていたからか後ろへいってしまった。

 腕を伸ばして落とした洗濯物を取る。



「――――――」



 洗面所の鍵はしっかりかかっている。こんな場面を間違って見られてしまったら一大事だ。

 理性がしっかり機能して迷ったけど、結局僕はバーサーカーだったようだ。

 僕の洗濯物と一緒に出てきたピンクのブラのタグに、F六五って書いてあった。

 心のなかでレイラに謝罪して、洗濯物をランドリーボックスに入れる。

 大きい方だと思っていたけど、やっぱり大きかったみたいです。

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