推しのVtuberから情報開示請求で内容証明が届いた僕のところに、リアルでクォーターの推しが会いに来た

粋(スイ)

第1話 彼女にフラれてVtuber見た

 僕がレイラのリスナーになったのは、彼女と別れたあとから。

 地方から大学のために出てきて、同じような境遇だった彼女と付き合うことになった。

 そんな彼女とは、世間ではよくあるありふれた男女の付き合いなんだと思う。


 大学ではカップルになる時期っていうのはわりとある。

 クリスマスの時期なんてパッと浮かんできそうだけど、実際この時期はそうでもない。

 じゃぁ夏とか? 夏もけっこうカップルになったりはある。

 でもこの時期は、恋人と別れた人とかがなったりする。


 じゃぁいつなんだと思うかもしれないけど、わりと多いのは大学に入って最初のゴールデンウィークまでの間だと思う。

 四月に新入生が入り、大学ではサークルの勧誘が熾烈を極める。

 同時にこの時期は、恋人がいない先輩が新入生と付き合うなんてことが多い時期でもあるんだ。

 逆に言えばこの時期に恋人ができないと、なかなか好きな人と進展できないなんてことが多い。

 最悪、意中の人が付き合い始めているなんてことだって普通にあるんだから。

 そう。大学では四月付近、好きな人と近づく熾烈な闘いがあるんだ。


 僕は幸運にも、大学に入学して彼女ができた。

 彼女は僕と同じ地方から出てきていて、バイト先のレストランで知り合った。

 人見知りするようなタイプではなく、男女問わず話しかけることができるタイプ。

 髪はショートボブで、カラーリングは「少しピンクが入ってるんだよ」とアピールしていた。

 スタイルはスレンダーというよりも、女性を意識させられる肉感がある。


 ハッキリ言って、僕はそんな彼女にゾッコンだった。

 少し、俗にいうメンヘラ化してたと思う。誰と一緒にいたのかとか、付き合ってる間もメチャクチャ気になった。

 でもこんなヤキモチみたいなの、毎回ずっとされたら嫌になるでしょ?

 千年の恋も冷めるってやつだよ。まぁ、それくらい彼女に惚れちゃってたっていうこと。


 そんな彼女に、夏が過ぎた辺りから疑念を抱くようになったんだ。

 終電がないような時間に連絡がつかないとか、バイトのシフトが微妙に変わったり。

 信じないようにしていたけど、予感はあった。

 そして一〇月の終わり、彼女が言ってきたんだ。



「私、海堂さんのこと、気になってるの」



 海堂さんは、僕たちが働くフレンチレストランの社員だ。

 二五歳の年上で、身長が一八五センチある。

 うちのレストランはコース料理を出すお店で、サービスの仕方もかなり見られる。

 周囲から見られても格好悪いようなサービスはダメだと言われ、姿勢や歩き方も注意されるようなお店だ。

 おかげで僕も姿勢はかなりよくなったと思う。

 海堂さんのサービスはとても綺麗で、かなり様になってる。

 そんな海堂さんが相手では、学生の僕では子供に見えるだろう。太刀打ちできるところがなかった。



翔也しょうや、別れてほしい……」



 抵抗なんてできなかった。嫌だって拒否したところで、すべてが元通りになるわけじゃない。

 僕の疑念は本当かどうかもわからない想像で、海堂さんに負の感情を抱くのは間違いないんだから。

 実際海堂さんのことが気になっていると言われた時点で、それまであった疑念を海堂さんに向けてしまう自分がいたわけだし。


 結局僕は彼女と別れ、そのあと少しして海堂さんと彼女は付き合い始めた。

 レストランを辞めようかとも思ったけど、時給がよかったからできなかったんだ。

 まかないも美味しくて、食費的に助かってたというのもあって。


 なんとか気持ちを殺して大学とバイトを続けていたころ、なんでかVtuberのチャンネルを見たんだ。

 最初は見たっていうより、流してたっていう方が正しかったと思う。

 でもどうしてかわからないけど、殺してた気持ちがその間は楽になったんだ。

 だから他のVtuberも見てみた。


 探してみると、僕が思っていた以上にVtuberっているんだと知った。

 今まで見たことがなかったから、知らなかったのは当然なんだけど。

 そうしているうちに僕は、気づけば最初に見たVtuber、レイラを追うようになってた。

 いわゆる推しっていうのだろうか? グッズは全部買って、イベントには参加してっていうかんじではないけど、でも見てた。


 ある日レイラのゲーム実況を見ていたら、その実況でコメント欄が荒れた。

 あるコメントがゲームのネタバレになるかとかで。

 僕はひっそりと草葉の陰から推しているだけだから、コメントはしたことがない。

 だからあまりコメントは関係ないことではあったけど、それが発端でレイラはかなり叩かれることになったんだ。

 いわゆる反転アンチみたいな現象も起きていて、誹謗中傷もかなり溢れた。

 レイラの配信は休みがちになったあと、少しの間お休みするっていう報告がされる。


 彼女と別れて見始めてから、初めて何日も配信がない日々。

 その間もリスナー同士の対立みたいなことは続いたけど、それが終息に向かうことがあった。

 レイラが復帰配信を行って、行き過ぎた誹謗中傷に対しては法的措置を事務所が行っていると言ったからだ。

 一部では黙らせるために法的措置をするとか言論統制だって言われてもいたけど、なにもしなければ言われたい放題でイジメと同じようなことをされるのだから当然だと思う。

 これで荒れていたのは落ち着いて、また時間があるときに配信を見れると思っていたんだ。


 レイラから情報開示請求されて、内容証明が送られてくるまでは……。

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