安芸・慈悲神社の邂逅

第1話


 夢の中で、俺はむじなだった。


 同じ穴のムジナ。という慣用句があるよな。あれだ。

 主にアナグマのことを指す。狸を想像するといいかもしれない。

 いかんせん俺自身が狢なので、俺は俺の姿を確認することができない。


「おっす、狐さん。久しぶりだな」

「やぁやぁ、狢さん。お久しぶり」


 道で一匹の狐と出会った。どうも俺はこの狐と昔馴染みらしかった。


「どうだい狢さん、一勝負といこうや」

「いいだろう。ひとつ化けくらべといこう」


 俺はどうもこの狐をいけ好かないやつと思っているらしかった。

 こうして狐と狢の化かしあいがはじまった。



 別の日、神社の前を歩いていくと、道の真ん中にうまそうなまんじゅうが落ちている。


「ごくり……」


 俺はあたりを見回し、誰の目もないことを確認する。今だッ!

 躊躇なくそのまんじゅうを口に入れる。


「痛い、痛い。わしじゃよ。狐さんじゃよ」


 はたしてそのまんじゅうの正体は例のいけ好かない狐であった。

 歯に毛が挟まった。おぇえええええ。


「これはすまん。腹が減っていたからついつい食べてしもうた」


 俺はこみ上げる吐き気をごまかしながら紳士的にそう言う。


「それじゃあ、この勝負は私の勝ちということでよろしいかな?」


 狐は俺に噛まれたところを気にしつつも、そんなことを言う。


「いいや、まだ勝負はついとらん。今度は俺の番だ。明日、この道で大名行列を見せてやろう。上手くいったらほめてくれ」

「なんと、複数人に化けようというのか。ほんとうにそれができれば負けを認めよう」


 俺の提案に、狐はまんまとうなずく。



 そして翌日。

 狐は例の道で俺の化ける大名行列が通るのを待っている。いや、待っているポーズをとってはいるが、どうせできないと思っているに違いない。


「下にー、下にー、下にー、下にー」


 狐の予想に反して、大名行列は本当にやってきた。おともの侍もたくさんいて、文句のつけようのない大名行列だ。


「よう化けたなぁ、狢さん」


 狐はパチパチと拍手をしながら、偉そうに大名行列の前に出てくる。

 俺はその様子を木陰から見ている。


 つまり、その大名行列は本物の大名行列だった。


「無礼な獣だ。切り捨ててくれる!」


 侍が狐に切りかかる。


「ひぇえええ」


 狐は慌てて山へ逃げて行った。

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