第31話 飛空技師カカVS七鋭傑トーキー

<〔Perspective:‐カカ視点‐Kaqua〕>


ハァ…ハァ…、戦いが始まって…今どれくらい経った…? 私もトーキーアイツも…お互いかなり満身創痍な状態だ…。


3つあった治癒促進薬ポーションも残り1つ…、塊血かいちは残り4つ…。だいぶ心許ない…、慎重に使わないとダメだな…。


だがトーキーアイツだって私同様…もう余裕はない筈…。しかし治癒促進薬ポーションも使わずよく戦い続けられるもんだ…、恐ろしいな獣族ビケってのは…。


「──〝十字斬爪撃クロス・スラッシュ〟…!!」


「うおっ…!?」


予備動作のない突然の攻撃を…体を反らしてギリギリで躱した…。ただでさえもの凄ェ速さだってのに…半透明な攻撃が厄介過ぎる…。


「チッ…まだまだ機敏だな…! そろそろ楽になったらどうだ…!」


「じゃあ大人しく倒されてくれよ…! そうすりゃ私も楽だし、世界から悪が1つ消える…! 一石二鳥だ最高だろっ…!」


「減らず口も健在だな…」


色々言ってはいるが…全部ただの強がりだ…。治癒促進薬ポーションの痛み止めにも限度がある…、正直横になりたいくらいには全身が痛い…。


だが私が負ければ…アクアス達も殺される…。そんなことさせねえ…絶対にさせねえ…! だから…何が何でもトーキーアイツを倒す…!


無理やり心を奮い立たせ、衝棍シンフォンを回して距離を詰めていく。間合いに入れれば私が有利だが…当然トーキーはそれを阻止しに動く。


右手の爪を4本伸ばすと、まるで生きているかの様にぐにゃぐにゃと動きながら私に向かってくる。


直進を諦め右に逸れると、4本の爪はしつこく追ってくる…。面倒だが…折らないことには始まらないな…。


「〝震打しんうち〟…!」


体を急旋回させて、迫ってくる爪に衝棍シンフォンを合わせる。周囲に広がった衝撃で爪は全て砕け、これで接近できる…つもりだったが…。


“──キーン…!!”


右手の爪を砕いた直後…今度は左手の爪がこっちに向かってくる…。とことん私を近付けたくないようだな…。


あの爪からはどうしたって逃げらんないし…ガンガンこっちから攻めてかないと体力切れで動けなくなっちまう…。


「〝震打しんうち〟…──っ?!」


最初はまとまってこっちに向かっていた爪が、衝棍シンフォンを振るった瞬間に…大きく左右上下に爪が動いた…。


攻撃を躱され…反射的に頭の中に〝回避〟の文字が浮かぶ…。だがそんなに速く体が動く筈もなく…、素早く折り返った爪が身体に突き刺さった…。


腕に…脚に…腹に…、目眩がしそうな程の痛みに吐き気さえ覚える…。私は歯を食いしばって…衝棍シンフォンを勢いよく地面に叩き付けた。


体を包む様に衝撃が広がり…体に刺さっている爪を砕いた。刺された痛みに加えて…衝撃が全身を駆け抜け…、私は膝をついてしまった…。


「ハッ…! 辛そうだな…! 強がりもそろそろ限界じゃねェか…?!」


「ハァ…ハァ…、へっ…! ちょっと目眩しただけで…随分嬉しそうだな…! 限界が近いって言ってるようなもんだぜ…!」


強がりを吐きながら…痛みしか感じない体を無理やり立たせる…。私はマジでもう限界近いけど…実際アイツどうなんだろうか…。


どうすっかな…意外とまだ余力残してますとかだったら…、絶望しちゃうな…。諦めて降参したら…私の命1つで許されるだろうか…。


──いやいやダメだ…! あぶねえあぶねえ…、何をネガティブ全開に開き直ろうとしてんだ私は…?! 絶対に勝たなきゃならねんだよ…! アイツボコすんだよ…!


“ボカーーーーーン…!!!”


「…ッ!?」

「…ッ?!」


突然私の後方から聞こえてきた爆音…、振り返ると…黒煙がもくもくと高く上がっている…。嫌な考えが頭に浮かぶ…。


あっちは皆と別れた方向…飛空艇が爆破されたのか…!? アクアスは…アイツ等は皆無事か…!?


いや…ここから見える黒煙の様子からして…あそこよりもっと遠いか…? ってことは爆発はニキの所…? なんも分かんねえけど…ニキなら多分大丈夫…かな…?


“──キーン…!!”


「…ッ! いっ…?!」


背後からの〝音〟に反応してバッと振り返ると、何か鋭いものが飛んできた。咄嗟に構えた左手に鋭い何かが突き刺さる…。


防御ガードから漏れて左頬にも刺さった何かを抜いてみると…それは鋭く尖らされたトーキーの生爪…。


伸縮・変色・変形以外に…飛ばすこともできんのかよ…、ほんと多彩だな攻撃手段…。羨ましい限りだ…。


「せっかくのよそ見チャンスだったのに…随分安い攻撃だな…! 今ので私が倒れるっつう…浅はかな幻想でも抱いたのかァ…?」


「ケッ…うるせェな…。不意打ち騙し討ちを得意にしてるテメェのことだ…俺を近寄らせる為の演技かと思ったぜ…」


演技ね…、しつこく続けた騙し討ちが…いい感じに表層心理に染み付いてるみたいだな。おかげでダメージが安く済んだ。


それとついでに…アイツもそんなに余裕がないってことが分かった。明らかにリスクを避けて…体力温存に努めてる。


さっきの攻撃だって…爪を飛ばさずとも、爪を伸ばして斬りかかれた筈…。そうしなかったってことは…爪を伸ばすにも体力を使うってことだ。


それだけ分かれば値千金だ…勝機は十分にある…! こうなりゃ何が何でも接近して…ガンガン攻めて体力を削ってやる…!


爆発の不安を胸にしまいこみ、衝棍シンフォンを回しながらトーキーに向かっていく。未だトーキーに動く気配はなく、再び爪を伸ばして攻撃しようとしている。


予想通りトーキーは左手の爪を伸ばして進路を塞いでくる…。どう動いてくるか予測できないが…それはアイツも同じ、なら私は予測できない動きをするまでだ…!


迫ってくる4本の爪をギリギリまで引き付け、石突で地面を突いて体を浮かせた。直後真下を通り抜けた爪を踏み付け、どんどん前進していく。


「チッ…!〝爪抉弾ガレット〟…!」


トーキーは前進する私に、再び右手の爪を飛ばしてきた。脚を狙って放たれた爪は…狙い通り私の両脚に突き刺さった…。


だが脚は一切止めず…真っ直ぐトーキーに近付いていく。その様子を見てか…トーキーは伸ばした左手の爪を自らへし折り、爪を調整して近接の構えを取る。


ついに来た…武器を伸ばせば互いに届く間合い…! ここで勝負を決める…! ここからは短期決戦だ…!


先に動いたのはトーキー、長さを調整した左手の爪で斬りかかってきた。だが先に〝音〟で察知し、真横に勢いよく振られた腕をしゃがんで躱す。


間髪入れず今度は右腕を振り下ろしてきたが、石突を手のひらに合わせ、しゃがんだまま体を回して外側に攻撃を受け流した。


受け流されたことでトーキーは体勢を崩し、私はがら空きになった腹部を狙って衝棍シンフォンを後ろに突いた。


「グオオッ…?!」


あまり衝撃は溜められてなかったが…十分に手応えアリ。こっから容赦なくたたみ掛けて…一気に勝負をつける…!


素早く立ち上がり、反撃される前にトーキーの右脛みぎすねを蹴りつけると、反射的にトーキーは前傾姿勢になって顔が下がった。


その隙を見逃さず、右頬に肘打ちを食らわせる。グラッとトーキーの体が揺れ、まるで酔毒すいどくに侵されているかのようになった。


っと言っても酔毒状態と違い…思考まで鈍るわけじゃない。下手に大技を狙うと痛い目に遭う恐れがある為、今はどんどん削るのが最善だろう。


私は肩車の様にふらついているトーキーに乗っかり、後ろに体重を掛ける。足取り定まらないトーキーがこれに耐えれる筈もなく、どんどん体が後ろに倒れていく。


完全に倒れる前に、私はトーキーの顔に両手をついて体を持ち上げた。両足を顔の上に置き、倒れるトーキーの顔面を踏み付けた。


かなりダメージを与えられたが、まだ追撃の手は緩めない。すぐに起き上がれないよう顔に乗っかったまま、回した衝棍シンフォンを叩きつける。


「〝震打しんうち〟…!」


「グッ…ガァ…?!!」


腹のど真ん中に直撃した衝棍シンフォンは、地面と挟まれ逃がすことのできない衝撃を生み、地面が勢いよく割れた。


こんなの常人なら死んじまうが…獣族コイツ等はやたら生命力が高いからな…、死にはしてないだろうが…流石にもう意識は…


“ガシッ…!”


「…ッ!?」


顔の上から降りた私の左脚に、トーキーの尻尾が絡みついた。それと同時にむくっと起き上がったトーキー…、まだ意識あんのかよ…。


「クハハッ…、効いたぜ…ここまでやられたのは久し振りだ…。だが…詰めが甘かったなァ…! 斬爪豹ネイルパンサーの底力を舐めてもらっちゃ困るぜ…!」


ゆっくり立ち上がるトーキーに危機を覚え…私は衝棍シンフォンを構えた…。だが攻撃を仕掛ける前に腕を掴まれ…そして──


次の瞬間に感じたものは…腹部の痛み…。退けず…攻撃もできない私に…、トーキーは右手4本の爪を突き刺した…。


見えないが…背中の痛みからして恐らく貫通しているだろう…。刺された箇所…体内…背中が…、焼け石を押し当てらているように熱く感じる…。


あとはただ…むせ返るような痛みが脈を打つように全身を襲う…。食道をこみ上げてきた血が…口から溢れて地面に落ちる…。上手く呼吸もできない…。


「ヒュー…ヒュー…、ぐっ…オラァ…!!」


「グオッ…!? ウオオオオッ…手がァ…!」


痛みを嚙み殺し…私はトーキーの右手に膝蹴りをいれた。これによって爪がバキンッと折れ…トーキーは右手を押さえている…。


爪が体内に残ってしまうが…体内なかで反しを作られるよかマシだ…。治癒促進薬ポーションで変に再生しちまわないように…後で抜く必要があるからな…。


トーキーはというと、腹に爪が刺さった状態で膝蹴りをされるとは思わなかったのか…痛みに驚いて反射的に巻き付いていた尻尾を解いた。


私は解放された左脚を上げ…勢いよくトーキーの右足を踏み付けた。今コイツに退かれたら…もう私に追う力はない…。絶対に逃がさない…!


確実に意識を絶てるだけのダメージを与える為に…左後ろのポーチに手を伸ばす。勝つ方法はもうこれしかない…。


「俺を逃がさないつもりかァ…?! 逃げなきゃヤバいのはテメェの方だろうがよ…! 死に晒せや…!!〝斬爪撃スラッシュ〟!!」


「ごふっ…?!」


トーキーの鋭い左手の爪に…胸の上辺りを切り裂かれた…。勢いよく鮮血が舞い…眠気にも似た感覚が襲ってくる…。


今にも途切れそうな意識を必死に繋ぎ止め…私はポーチから取り出した小瓶をトーキーの顔面に叩き付けた。


飛び散った破片はトーキーの顔と私の左手にいくつも刺さり…、中に入っていた承和色そがいろの液体が外に漏れだした。


「グぅ…!? クソ…まだ動けんのか…?! さっさと死に……や…がっ……?!」


「ハァハァ…、ハッ…滑稽だ…ざまあねえなっ…! 死にかけの女の前で…動けなくなっちまうなんてよォ…!」


トーキーに盛った毒は〝麻痺毒まひどく〟…、筋肉を硬直させ…体の自由を奪う毒…! アイツはもう動けない…!


これで…防御ガード退避エスケープもできない…! 私の…文字通り最後の一撃を…その身で受ける以外にない…!!


私は塊血かいちを1つ取って飲み込み…衝棍シンフォンを回しながら動けなくなっているトーキーと向き合った。


「心配すんな…私は優しいからな…。毒はすこぶる弱めてあっから…すぐに動けるようになる…──な…!」


「ク…ソ……やめっ…!」


「〝竜撃りゅうげき〟…!!」


がら空きのボディに…全ての力を込めた竜撃りゅうげきをぶち込んだ。トーキーの体を駆け抜ける衝撃は…私達が立つ地面にも大きな亀裂を入れた。


トーキーの体はもの凄い速度で後方へぶっ飛び…背後の岩壁に勢いよく衝突した。粉塵が巻き上がり…岩壁が崩れた音がする…。


息絶え絶えのまま…私は粉塵が晴れるのをジッと見ていた…。やがて粉塵は晴れ…仰向けに倒れたまま動かないトーキーの姿があった。


つまりこの勝負──私の勝ちだ…!








勝ちを確認した途端…落ちるように体が崩れた…。っと言うより…立ってられなくなった…。さっき塊血かいち食ったってのに…締まらねえな…。


皆は無事か…? もしまだ戦ってて…苦戦してるようなら…助けに行かねえとだ…。あんまり休んでる暇はねえかもな…。


さっさと…爪抜いちまうか…、とりあえず治癒促進薬ポーションで止血しないと…本気で死んじまう…。


残り3つの塊血かいちの内…1つは治癒促進薬ポーションとセットで食べる必要があるから…、自由に使えるのは2つだけか…。


爪を抜けば当然出血量は増えるし…血が流れ過ぎたらその都度塊血かいちを食わなきゃならない…。んー…心許ねェ…。


つってもどうせやらなきゃ死ぬし…トーキーアイツの仲間が加勢に来ないとも限らない…。ほんと…なんだって私はこう崖っぷちに立たされんだろ…。


「ったく…ほんと嫌なもん残してくれやがって…。チクショウ…もしまた襲ってくるような事があれば…今度は殺してやるからな…!」


私は片膝立ちになり、突き刺さった爪に手を伸ばした。少し力を込めただけで…吐血しそうな程の痛みが走る…。


私は肌着の脇腹部分を手で千切り…丸めて口に詰め込んだ。ここからは地獄の我慢の時間…、精々…小便漏らさないのを祈るしかないな…。


…ほんと…最悪な気分だぜ…。



──第31話 飛空技師カカVS七鋭傑トーキー〈終〉

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