第26話 サイアック獣賊団

時は少し遡り、カカ達が王都ハイラーゼを出発した頃──。


その日カカ達の飛空艇とは別の…海を走る巨大な黒い帆船が3隻、リーデリア領内に侵入していた。


リーデリアの北北西に位置する小さな島〝ロットクとう〟に、巨大な帆船はいかりを下ろした──。








「──様ー! 〝バルバドス〟様ー! 予定通り、アツジ大陸のリーデリアに辿り着いた模様ですっ!」


「正確にはリーデリア領内の小島でありますっ!」


3隻の帆船の中で一際大きな帆船の内部。〝白牙鼠ブランマウス〟の獣族ビケ2人は今、玉座に腰掛ける男に報告をした。


ランプの灯りが暗い部屋をぼんやりと照らす中、〝バルバドス〟と呼ばれる〝ライオン〟の獣族ビケは1枚の紙を眺めながらただ黙って報告を聞いていた。


報告が済み、灰色のたてがみを撫でながら紙を眺めていたバルバドスは、ゆっくりと口を開く──。


「〝七鋭傑しちえいけつ〟を呼べ…!」


「はっ! ただいまっ!」




     ▼   ▽   ▼   ▽   ▼




そこそこ時間が経ち、ようやくバルバドスの前に7人の獣族ビケが揃った。バルバドスはゆっくりと立ち上がる──


「遅いわ貴様等…! ボスが呼び出したら普通もっと迅速に集まるものだろうが…! 遊びに来たんじゃないんだぞ…! 何してたか1人ずつ述べろ…!」

< サイアック獣賊団〝頭領〟Varbadth Veiバルバドス・ベルガーlga >


七鋭傑の集まりの悪さに腹を立てたバルバドス、思いっきし指を差して遅れた理由を問い詰める。


<〝パンサー〟の獣族ビケ♂ >

「初めて来た場所なんで、ちょっと歩くこうかなと」

「ハイキングじゃねえんだよ…!」


<〝ハイエナ〟の獣族ビケ♀ >

「30リート分のおやつを用意してましたー」

「遠足でもねえよ…!」


<〝ゾウ〟の獣族ビケ♂ >

「いい湯ないかなって…」

「こんな場所まで湯治しに来るかドアホ…!」


<〝イノシシ〟の獣族ビケ♂ >

「z z z …」

「オマエ絶対寝てただろ…! てか起きろ…! 立ちながら器用に寝るな…!」


<〝リス〟の獣族ビケ♂ >

「ちょっと面倒くさくテ」

「オマエ一番悪いな…! 今日のおやつなーし…!!」


<〝コアラ〟の獣族ビケ♀ >

「ちょっとお花摘みに行っていまして…」

「ああそうか、その花を…? 本当に花摘んでるとは思わなかった…」


<〝オオカミ〟の獣族ビケ♂ >

「周囲の偵察を行っておりました。どうやら無人島のようです」

「オマエはいつも真面目だな、安心するわなんか」


一通り聞き終えたバルバドスは、呼吸を整えてさっき眺めていた紙をテーブルの上に置いた。


「もっと色々言ってやりたいが…まずは本題だ…! わざわざこんな遠い地まで我々が来た理由…忘れてはいないだろうな…!」


「エ…? あー…普通に忘れたワ」

「オマエ明日のおやつもなーし…!!」


テーブルに置かれた紙、それは…ムネリ女王が海に流したあの〝手紙〟だった。彼等もまた、カカ達と同様に手紙に招かれた者達であった。


だがカカ達と異なる点は、この地に訪れた目的──。


「この手紙通りならば、ここリーデリアには〝魔物〟と呼ばれる未知の…かつ強大な力を持つ存在が7体も居るらしい…! ソイツ等を手懐けられれば…俺様達サイアック獣賊団は更なる力を得られる…! そうなれば俺様達は最強となるだろう…!」


バルバドスが拳を高く上げて意気込むと、周りの部下達は拍手喝采。私利私欲にまみれた黒い野望が膨らんでいた。


「更に…! 魔物を手懐けることができれば、リーデリアから英雄視され…! 俺様達は強力な後ろ盾を得ることにもなる…! これぞ一石二鳥よ…!!」


これが…サイアック獣賊団がリーデリアを訪れた目的の全貌。その日リーデリアには、招かれざる客が降り立ったのである。


バルバドスが目的を説明し終えると、少しの間を置いてゾウの獣人ビケがビシッと手を挙げた。


「質問があるんどすが…どうやって魔物を探すんどす…? その手紙には魔物の居場所なんて書かれてなかったどすよね…?」


「いい質問だ。オイ…! 〝キョウアーク魚賊団うおぞくだん〟の連中から譲って貰った、リーデリアの地図を持って来い…!」


バルバドスの命令を受けた部下の2人は、地図を持って来てテーブルの上に広げ、更にその上に駒を複数個並べた。


「俺様がよく読んでいる〝ユニー冒険記〟の経験からすれば…こういう散った魔物は危険地帯に巣食うケースがほとんどだ…! 故にこういう場所に居ると俺様は予想する…!」


駒を1つ手に取り、バルバドスは地図上のとある場所に駒を置いた。その場所はなんとシヌイ山…、恐るべき悪運…。


「だが全員で本島に乗り込めば…悪名高い俺様達はすぐに憲兵に追われるだろう…。そこでだ…! 七鋭傑オマエ等の中から1人、隊を引き連れて行ってもらう…! 我こそはという者は居るか…!」


「俺が行きますよバルバドス様…! サクッと手懐けてやりますよ…!」


勢いよく挙手したのは〝パンサー〟の獣族ビケ。彼の部下達は皆やる気満々に武器を掲げ、鼓舞し合うように声を上げる。


「〝トーキー〟か、よかろう…! ならばトーキー隊は本島へ赴き、見事魔物を手懐けこい…! それ以外の者はこの島に拠点を築け…! よいな…!!」


「「「 了解でありますっ!! 」」」


指示が下ると、部下達は駆け足で一斉に部屋から飛び出した。残った七鋭傑の面々も、順に部屋を後にする。


残ったのはバルバドスとトーキーの2人。トーキーは何か気になることがある様子で、バルバドスに問い掛ける。


「しかしですよ…? 手懐けると言っても…結局どうすりゃいいんです…? 何か餌でも与えればいいんですかい…?」


「そういえば説明してなかったな。最悪力尽くで従わせるしかないが…魔物は〝石版〟とやらで封印されていたと書かれていた。となればこの石版こそが…魔物を従わせるのに必要なアイテムと言えるだろう。あとは分かるな…?」


「ええ、すべきことが分かればあとは簡単ですよ…! 強力な魔物を必ずや御覧に入れてみせましょう…!」




     ▼   ▽   ▼   ▽   ▼




‐カカ達が王都ファスロに到着した次の日‐


「──っと言ったはいいが…こんな広大な土地からどうやって探しゃいいんだ…? 流石に手掛かりが少な過ぎるぜ…」


<〔Perspective:‐???視点‐パンサー〕>


リーデリア本島に降り立ち、バルバドス様が石版の在処と指したシヌイ山へと到着してしばらく。まっっったく見つからねェ…。


地図上で見たシヌイ山は…もっと小さく見えたんだがなぁ…。いざ着いてみるとバカ広ェ…全域を捜索するってなると1年はかかるんじゃねえかこりゃあ…?


「〝トーキー〟様ァ…! ご報告したいことがありりり…!!」


「おうっどうしたァ! テンパり方が気持ち悪いぞ!」


俺の部下の1人、白牙鼠ブランマウスの〝ラッピ〟が慌てた様子でこっちに走ってくる。確かラッピは向こうを捜索してた筈だが…。


「トーキー様に報告…! このシヌイ山に謎の〝飛空艇〟が着陸し、そこから人族ヒホと思しき3名が降り立ちました…!」


「何ィ…!? 目的は…?!」


「我々同様に石版です…! 現在石版の在処を知る人物に会う為、山を下って草原に向かう模様…! 今〝リッケ〟が尾行しているところです…!」


リッケか…あの尾行が得意なストーカー予備軍のリッケならまず問題ないだろう。問題はソイツ等が何者なのかだ…。


リーデリアは蟲人族ビクトの国って聞いてたが…、なんで人族ヒホがこんな場所に居やがる…?


生息域が偏ってる人族ヒホ共が…この地に暮らしてるわけがねえ…! つまりソイツ等の目的も俺達と同じ…! 魔物での勢力拡大ってわけか…!


「よし分かった…! リッケには引き続き尾行させ、残る俺達も引き続き山を捜索する…! 人族ヒホ共が戻って来たら、全員で後を追って出し抜く…! 完璧だ…!!」


「「「 流石トーキー様…! 」」」


先に見つけるもヨシ、人族ヒホ共から奪い取ってもヨシ…! どちらにせよ石版は俺達が手に入れる…!


魔物を手中に収めるのも時間の問題…! フッフッフッ…最後に笑うのは俺達サイアック獣賊団だ…!!




     ▼   ▽   ▼   ▽   ▼




‐今日 昼前‐


「トーキー様…! 奴等が巣の中に入って行きます…!」


結局石版は見つからず、リッケの報告で石版が山頂付近にあることを知った俺達は、人族ヒホ共を待ち伏せした。


そして遂に石版がある正確な場所が分かった…! それこそがあそこ…! なんちゃらグモの巣の中だ…!


あっ? 自力で見つけろって…? 落下した石版が地表じゃなく洞窟の中にあるとか…そんなんヒントなしで見つけられるわけねえだろうがボケェ…!


「しかしどうするんですトーキー様…? このままじゃ出し抜けないっすよ…?」


「そこは問題ねェ、秘策がある! 〝ゴルット〟! 例のを準備しろ!」


秘策の為に用意したアレはそこそこ大きい。だが巨体なサイの獣人ゴルットが居れば運搬は楽ちん…! 俺の指示で離れた壁沿いにそれをセットした。


「昨日一瞬で考えついた秘策──その名も〝ボカンッとトンネル開通作戦〟!!」


ゴルットに運ばせたアレは〝爆弾〟…! どうせ巣の中はグネグネしてるし、普通に入り口から入ったってすぐには辿り着かないだろう。


故に…! 人族ヒホ共が迷っている間に、俺達は真っ直ぐ穴を掘って最短で石版に辿り着く…! 我ながら完璧な作戦よ…!


「では早速点火…! 全員物陰に避難せよー!!」


“ドオーーーーーン!!!”


鼓膜が破れそうな程の轟音と、飛び散る岩の破片、立ち込める煙。ちょっと爆弾多かったかもしんないが…これなら立派なトンネルができるだろう…!


やがて煙が晴れていき、岩陰から様子を確認するが…な~んか全然思ってた感じと違うなこりゃ…。


「トーキー様に報告…! 爆発のせいで壁が崩れてトンネルどころじゃなくなりました…! オーバー!」


「よーしっ! オマエ等に報告! 〝ボカンッとトンネル開通作戦〟は中止! 〝地道に掘り掘り作戦〟に変更するっ! オーバー!」


「「「 イエス! オーバー! 」」」


爆弾は無意味に終わってしまったが、トンネル開通作戦に支障なし…! この俺の〝爪〟を活かせば、トンネルなんぞ余裕…!


待っていろ石版…! 人族ヒホ共より速く辿り着いて…魔物を手に入れるのは俺達よ…! 全てはサイアック獣賊団の未来の為に…!!








‐そして現在‐ 

<〔Perspective:‐カカ視点‐Kaqua〕>


「──っというわけだ! 分かったか人族ヒホ共!」

< サイアック獣賊団〝七鋭傑〟Toquy Jankトーキー・ジャンクh >


「長いニ…! もっと簡略化しろニ…!」

「貴方方のやり取りなんてどうでもいいんです…!」


やたら説明が長かったパンサー男に苦言を呈す2人…、でも気持ち分かる…途中無視して帰ろっかなとか思った…。


しかしまさか跡をつけられていたとは…。峡谷で聞いた音も…揺れた吊橋も…、勘違いじゃなかったのか…。


ってかあの爆発オマエ等だったのかよ…。山の異変とか色々警戒してたってのに…はた迷惑な奴等だ…。なんかムカついてきたな。


「まあとりあえず分かったよ、オマエ等がクソカスなゴミ犯罪者集団ってことが。焼けて死ねやクズが」


「トーキー様…! あのメス真顔でえげつない飛び道具を放ってきます…!」


「オマエ等気を付けろ…! 言葉は容易に心を抉る凶器だからな…!」


おっ? 意外とメンタル弱めな感じか…? ならこの中で実は一番毒吐けるアクアスに任せれば、何人か戦闘不能にできたり…?


まあ飛空艇まで戻れればもう追ってはこれないだろうし、無理に戦う必要もないだろう。大人しく逃がしてくれるかは別として…。


「毒舌な人族ヒホのメス…! 俺達の目的はあくまで石版…! 大人しく渡せば痛い目に遭わず済むぞ…! 死にたくはないだろう…?」


「殺せるつもりでいることにビックリだな…! 悪いが私達にも事情がある…! クソ悪党共に渡すわけにはいかねえな…!」


この石版で魔物を手懐けられるとは到底思えないが…悪に渡す必要性こそない。奪いにくるなら返り討ちにするまでだ。


見た感じ…強そうなのはあのパンサー男くらいで、その周りのネズミ雑兵共は簡単に蹴散らせそうだ。


外にも待機してると考えて…今のうちに頭を潰しておいた方が得策だろうか…? ここなら敵の加勢も来ないだろうし、タイミング的にはベストじゃないか…?


アイツ等もる気満々な様子だし、こっちにしても好都合だ。衝棍シンフォンを構えて、戦う意思を見せつける。


私に合わせて皆も武器を構え、同様にアイツ等も臨戦態勢をとる。お互い動かずの睨み合いが続き、時間だけが流れていく。


気持ち悪い静寂が続く中、遂に沈黙が破られた。が…それは考えうる中で最悪の形になってしまった…。忘れていたのだ…もう1匹の敵の存在を…。


「 “ギシャーーーーー!!!” 」


全員が思わず顔を上げてしまう程の咆哮が響き渡った。視界に映るは…明らかにこっちを見つめる女王蜘蛛の姿…。


「なんじゃありゃーー!? あれがなんちゃらグモなのか…!? いくらなんでもデカ過ぎだろうが…!」


「何も知らずに入って来んなクソ悪党…! 見つかっちまっただろうが…!」


獣賊団アイツ等なんかが比にならない程の…最悪の展開になってしまった…。もはや戦っている場合じゃない…。


死に物狂いで…早くここから立ち去らないと…! 皆群盗蜘クモの餌食になっちまう…! 生きたまま餌にされちまう…!



──第26話 サイアック獣賊団〈終〉

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