『文通小説』 眞島めいり

『文通小説』 眞島めいり


 中学生の能瀬ちさとは親友の平貴緒きおと文通をしている。三年生に進学する直前に家庭の事情によって別の学校へ転校することになった貴緒と「二人で同じ大学へ進学をする」約束し、それまでは手紙のやり取りでお互いの関係を維持することにしたのだ。以来ちさとは貴緒からの手紙を毎日心待ちにしている。

 はやるちさとの気持ちとは裏腹に、貴緒から手紙が送られてくる感覚は空きがちになる。次第に不安を覚えるちさとへ、数ヶ月ぶりに二人で会った際に貴緒から「新しい学校で美術部に入り、美術系の大学へ進学する夢ができた」旨を伝えられる。二人の約束が叶えられそうにないと理解したちさとはショックを受ける──。



 遠くに離れた親友との関係の変化や、高校受験を前に進路について考えるようになった中学三年生の心情を細やかに書いたYA。

 大人の都合に振り回されることに困惑しても、進路というものについて現実的に考えることがまだ難しい。電車に乗って遠くの知らない街まで一人で出かけることに緊張するようなごくごく普通の中学生女子の気持ちが細やかに書かれていて、読んでいて切ないような堪らない気持ちになった。このあたりがとても丁寧で、読むものの心を中学生に引き戻す力があったように思う。そういえば私も受験というものが具体的にイメージすることができず、なんとなく憂鬱になることしかできなかったヤツだった……と要らんことも思い出された。ちさとは最終的に自分の目標を見つけることができたので、大人になった身としてホッとする。

 中途半端な時期に転校せざるを得なくなった所などに示されている、子供にはどうしようもできない事情を抱えていることへの心細さやそれを表には出さない貴緒の人柄を、手紙の内容やエピソードで表すテクニック等も巧みだった。


 無二の親友が進学その他のライフステージの変化でお互いの間に距離が開いたりどちらかがどちらかに依存したり執着した後に、それぞれが違う人間であることを知ってほとほどの距離感を保てるようになる──というタイプの女子ふたりの話がもともと好きなんだが、そんな自分の好みにしっくり馴染む小説だった。

 本作の前に読んだのが後味最悪百合YAの『殺したい子』だったので、本作が滋味のように心にしみわたったのだった……(『殺したい子』はこれはこれでぜひ読んで欲しい一冊ではあります)。

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