『幽霊列車とこんぺい糖』 木ノ歌詠

『幽霊列車とこんぺい糖』 木ノ歌詠


 人の手を借りないと生きていられない母への保険金を遺すため、中学二年の有賀海幸みさちは無人駅から飛び込み自殺をするという計画をたてていた。計画実行日にその駅のあるローカル線がとっくに廃線になっていることを知り、途方に暮れたまま線路に横たわっていた。そこへやってきたのは金髪で年上の少女だった。リガヤと名乗った少女は、ひまわり畑に中に埋もれている廃棄車両を海幸に見せる。そしてこの幽霊列車を再び走らせて海幸に死を与えることを誓うのだった。


 今は無き富士見ミステリー文庫から刊行された伝説の百合ラノベ。長い間入手困難で一時期とんでもない値段がマケプレなどでつけられていたらしいが、この度めでたく星海社さんから復刊された。ずっと読んでみたかったので素直に嬉しい。

 

 読んでみてまず、「こういう話だったのか!」となる。

 タイトルからもうちょっと爽やかなジュブナイルミステリっぽいものを想像していたのだけど、ジュブナイルはジュブナイルでもかなりの暗黒ジュブナイルだった(そもそもあらすじで既に自殺志願者の少女が主人公であることが告げられているのに、爽やかもクソもなかった)。

 元本刊行時に同レーベルから出た『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』(こちらは読んでた)と並べて語られることが多いし、著者も解説で『砂糖菓子……』の存在の大きさを語られていたけど、なるほどなぁ、と。この二冊を多感な時期に立て続けに読んでしまったら、そりゃあどうにかなってしまうだろうな。あと、この二冊を出してた頃のフジミスはどうかしてたな。よくも悪くも感受性が鈍り切ったタイミングで読んだので冷静に読み終えたけど、十代で読んで場合、この世界にハマるにしろ嫌悪するにしろまあ無傷ではいられなかったんじゃないかな……といったことをとりとめなく思った。

 不思議な女リガヤの過去や目的、どこからどう見てもお先真っ暗な海幸の事情など、謎や状況で読ませる力も強く、クライマックスでのインパクトもかなり強いので、心にのこす爪痕の深さは威力はかなり大きい。若い方は気力が充実している時に読んだ方がいいかもしれない。


 しかし残念ながらこちらはもういい大人なので、困難すぎる状況に置かれている女の子の物語を読むとどうしても「ここの行政は何をやっとる」「福祉の充実を!」というモードになってしまうのだった……。そういう話ではないというのに。言い換えれば刊行時と比べて、現代は「そういう話」な要素に否応でも目を向けさせる時代なのであるということも言えるのかもしれない。単に私の話を拡大して言っただけですが。

 作者もあとがきで述べられていた通り、二〇二〇年代にここまで閉じた関係を女と女でやるのはちょっと厳しいだろうとは思うのだが、その分「この時代にしか書けなかった」であろう味が強く感じられた。そしてそこを読めたのは得難い体験であった。


 でもやっぱこう……、法とか行政を嚙ませようぜ、有賀家には……。

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