第17話

 ベルカが大兄ダーシンに身体を売る。


 想像しただけで怒りと不快感がこみ上げてくる。

 俺に腕があれば、今すぐこの腐れど外道のツラをぶん殴っていただろう。


 ▽いいか、絶対にサインするな。


 たとえ、ベルカがサインしても逃れる方法はいくらでもある。簡単だ。人造妖精の力に物を言わせて大暴れすればいい。

 だがそんなことをしたら最後、二度と台湾緩衝地帯は使えなくなる。最悪の場合、世界中の緩衝地帯で指名手配されるハメになる。


 それだけは避けたい。だから、ベルカにはここで書類を突っぱねて、早々にお引き取り願わなければならない。


 それなのに……


「荷物は、返してくれるんですよね?」

「ああもちろん。嬢ちゃんが一生懸命働いてくれたらな」

「……わかりました」


 大兄ダーシンが口元を歪ませて、スーツの胸ポケットからペンを取り出してベルカに差し出した。


 ▽ベルカ……!


 大兄ダーシンの手からペンをもぎ取り、ベルカが契約書に走らせる。大兄ダーシンはそれを見て満足げに頷いた。


「オーケーオーケー、実にスマートな交渉じゃねえか。何事もかくあれかし、だ」 


 直後。


 バシンッ。


 強烈な電流がベルカの身体を駆け抜け、俺の視界がブラックアウトした。

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