第18話 ショウゴ、水魔法を食べまくる

 3頭いたブルーボアはさらに仲間を呼び、その数を増していた。

 ナターシャ隊長は別のブルーボアと戦闘中、俺と残りの護衛騎士はステラを囲うように円陣を組んでいる。


「ブルゥウウウウ……」

「ブルァアアア……」

「ブワァアア……」


 ブルーボアの口から、水の弾丸が次々と発射される。

 恐らくは遠距離攻撃で俺たちを弱らせてから、飛び掛かってくるつもりなのだろう。


 が、魔物たちのそのもくろみは外れることとなる。なぜなら、俺のスキル魔力マナイーターの大きな口によって、全ての弾丸をパックリと平らげているからだ。


『ウォーターボールを吸収』

『ウォーターボールを吸収』

『ウォーターボールを吸収』


「まだまだ~~~! どうした豚魔物っ、そんな程度か! もっと撃ってこい!」


 ブルーボアの放つ水魔法の味は、「豚しゃぶ定食」そのものであった。

 12皿ほど完食した俺だが、まだまだ序盤戦である。


「ブルゥハッ…」

「グゥウウ…ハッ…」

「ハッハッハッ…」


 さらに水魔法をぶっ放してくるブルーボア。しかし、随分と射撃間隔が間延びして来た。


 もっとテンポよくこいよ! こちらはようやくエンジンがかかり始めたのだ。食ったらすぐに次の皿をだしてくれ!


『ウォーターボールを吸収』

『ウォーターボールを吸収』

『ウォーターボールを吸収』


 さらにムシャムシャと食べ続けると、ブルーボアたちは、ほとんど魔法を撃たなくなってしまった。こいつら、何を肩で呼吸しているんだ?

 ここからが無制限勝負の醍醐味なんだぞ! 


「こら! 出し惜しみするなっ! もっとこい! 早く撃ってこい! おかわりだっ!」


「しょ……ショウゴさまっ……おそらく魔物の魔力は枯渇してます! 反撃のチャンスです!」


 え……


「ステラ……魔力が枯渇って……もう魔法を撃てないのか!?」


「当然です! あれだけ水魔法ウォーターボールを使用したんですよ。普通に魔力ゼロ状態です!」


 ウソでしょ、なにそれ……序盤戦で終わりだとぉおおお!

 もう食べられない……そんな理不尽なことがあっていいのか?


「何をやっているショウゴっ! 反撃だ!」


 ワナワナと全身を震わす俺の背後から、ナターシャ隊長の声が飛んできた。

 周辺のブルーボアを全て倒したらしく、こちらに走ってくる。


 むう……物足りないのだがしょうがない。俺はステータス画面からアイテムを選択する。お返しの時間だ。



 □-------------------------------


 使用可能アイテム

 ・火炎魔法ファイアーボール×19

 ・上級火炎魔法ハイファイアーボール×1

 ・聖王女の上級回復魔法ハイヒール×2

 ・光物理殴打ライトナックル×29

 ・風魔法ウィンド×49

 ・「えいっ!女神風魔法」×9

 ・「やあっ!女神火魔法」×9

 ・聖剣斬撃ライトスラッシュ×24

 ・聖剣極烈斬撃ギガライトスラッシュ×2

 ・水魔法ウォーターボール×90


 使用方法

 ・単発使用

 ・複数同時使用

 ・合体使用


 ☆特殊スキル

 魔力マナイーター →稼働中


 ・吸収率3倍(LV2) 

 ※吸収した魔法を吸収率に応じてアイテム化


 □-------------------------------


 ウォーターボール×20 複数使用!


二十連撃速射水魔法トゥエンティガトリングウォーターボール!」


 俺の手のひらから、水圧の弾丸がドドドドドと、機関銃のごとく連発で発射される。


「うぉおお! コントロールむずいっ!?」


 連続発射の反動で、体が揺れまくって狙いが上手くつけられない。とにかくブルーボアたちの方に発射するので精一杯だ。

 各弾丸は周辺の地面に激突して土をえぐり取ったり、周りの木に当たり粉々にしたりと、めった撃ちになってしまった。


「ふう……やっと撃ち切ったか」

「しょ、ショウゴさま……とんでもない連続魔法です! す、凄すぎます! 魔法は2連続使用すら難しいのに!」


 しかし、20連発はやりすぎたようだ。戦場全体を見渡すと、あたり一面がボコボコの水まみれになってしまった。いまいち調整が難しい。


 ブルーボア達は、すべてこと切れていた。まあ、あれだけ撃ち込んだのだから、ひとたまりもなかったのだろう。


 しかし、豚しゃぶ定食美味かった! ご馳走様でした!


「ショウゴ大丈夫~~?」


 ミーナも無事だったようだ。さすが見習いとはいえ女神だ、「ほんげぇええ」が最期の言葉とか不憫すぎるからな。


 護衛騎士たちもステラと一緒に俺の方に集まってきた。


「良くやった、ショウゴ!」


 ナターシャ隊長や、みんなも無事のようだな、良かった良かった……ん? んん? んんん???


「………」


 全員おれの二十連撃水魔法トゥエンティウォーターボールが巻き上げた水滴や霧によって、再び水も滴るいい女たちになっているじゃないか。


 駆け寄るステラたちも、自身の状況に気づいたようだ。

 その直後、キャア!とか、ビンタとかを再び頂戴する俺なのであった。




 ◇◇◇




 ナターシャ隊長の命令で、俺たちは急ぎ出発の準備をしている。

 まだ周辺に魔物の仲間が潜んでいる可能性もあるので、できる限り進むことになったのだ。


 しかし、出発すると言っても、みんなびしょ濡れなのだ。このままほっとけば風邪を引いてしまう。そして何よりも俺の目のやり場がない。

 これ以上ビンタを頂戴するのも嫌なので、最低限、装備(主にスカート)を乾かしてから出発することになった。


 ミーナのえいっ!女神風魔法と、やあっ!女神火魔法を合体させると程よい温風が発生することに気づいたので、みなの装備(主にスカート)を乾かした。

 ちなみにやあっ!女神火魔法とは、ミーナの火魔法である。風魔法とは少し掛け声が違うのだ。どちらも通常魔法に比べて極めて威力が弱い。なのでドライヤーのような合体魔法が生み出せたのだ。


 もちろん、俺が温風を出している最中は横を向いている。紳士だからな、決してパンチラなど見ない。もうパンチラっていうかパンモロに近い状態だが。


「ショウゴっ! 絶対にワタシの方を向くなよ! 向いたら分かっているだろうな!」


 ナターシャのスカートを乾かす時が、一番めんどくさかった。


 毎度のことだが、そこまで気にするならば、スカート設定をなんとかしてくれ。恥じらうポイントがわからんよ、もはや。

 あらかた乾燥しつくした頃に、馬車から小さな足音が俺に近づいてきた。


「ショウゴさま! 凄いです! 先程の魔法は水魔法ウォーターボールですよね?」


 元気な少女の声が、俺の耳に入ってくる。

 馬車で着替えを済ませたステラだ。もう俺が戦闘で、ベッチャベチャにしてしまったからな。

 白い清楚な感じの修道服が似合っている。スペアが何着かあるんだろう。


「お、おう……。ちょっとコントロールが難しかったけど、なんとか魔物を退治できたよ」


「そんなこと気にする必要はありません! 魔法は連続使用はできませんから! とっても凄い事なんですよ!」


 人差し指を立てて、俺を諭すように言う聖王女さま。

 本来、魔法は連射できないらしい。何故なら、都度都度に詠唱が必要だからだそうだ。俺の魔力マナイーターは、アイテム使用なので、詠唱は特に必要じゃないからな。まあ、二十連撃水魔法トゥエンティウォーターボールと叫ぶ必要はあるようだが。


「と……ところでショウゴさま……つかぬ事を伺いますが……」


 ん?……さっきまでの勢いとは一転して、ステラが小さな声で呟きはじめた。


「そ……その……ましたか?」


 聖王女さまが、なんだかモジモジしている。


「え? なに? どうしたステラ? トイレ行きたいのか?」


「違いますっ! だから、見ましたかっ!」


 見た? 何を? んん……あっ!?


「その反応……見たんですね」

「ま、まあ……ボンヤリとだけど……」


 ステラは、水浸しになった際の事を言っているのだろう。

 まあ、ボディラインが露わになったステラを見なかったというと、噓になる。


「うぅ……見られちゃった……ミーナみたいに大きくないのに……」


 ステラががっくしと肩を落としている。そこまで落ち込む必要はないと思うけどな。


「いや、そんなに落ち込むなよ。小ぶりだが良い形だったぞ」

「ショウゴさまっ! バッチシ見てるじゃないですか!」


 フォローしたつもりだったが余計な一言だったらしい。


「うぅ……お嫁に行けなくなったら、もらってくださいねっ!」


「え?」


 何を言ってるんだ? ステラなら、嫁の貰い手など山のようにいるだろうに。


「もらってくださいねっ! 拒否は認めませんから!」


「は、はい……」


 怖っ……圧が凄い。


 俺を見据えるステラの瞳が力強い。眼力が強すぎないか……

 王族ってのは良くわからないなと思いつつ、俺は彼女の手を取って馬車に乗り込むのであった。

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