第13話 勇者の最大奥義を完食する

「フッ、これはいい。君は想像以上にバカのようだね。僕がしっかりと稽古をつけてあげよう」


 そう言うと、勇者アルダスは腰の仰々しい剣を抜き放った。


「なっ! 勇者殿! 聖剣はやりすぎだっ!」

「フッ、護衛隊長。安心したまえ、ちゃんと手加減はしてやるさ」


「勇者さま! 聖剣は魔物に振るう武器です! おやめなさいっ!」

「フッ、ステラ王女はそこで僕の活躍を見ていてくださいね。な~に、終わったころには僕にゾッコンになってますから。クフフ」


 ステラとナターシャ隊長の制止を無視して、俺を睨みつけてくる勇者。


「さぁて、感謝したまえよ。本来君のような下民が、僕のような高貴な者から稽古などつけてもらえないからなあっ!」


 ニヤリと口角をつりあげた瞬間―――聖剣を真上から振り下ろしてきた。


 聖剣が光ったかと思うと、俺の肩当がバラバラに後方に飛び散った。

 俺と勇者の間にはある程度の距離がある。にもかかわらず、俺の肩当はバラバラになった。


 どうやら勇者は光の斬撃を放ったらしい。

 らしいと言うのは、俺には早すぎて何も見えなかったからだ。


 さらに勇者は、斬撃を次々に繰り出してきた。


「ハハハっ! どうしたヘンタイ下民がっ、手も足も出ないのか!」


 余裕の勇者は、俺をなぶるように周辺に斬撃を放ちまくる。さすがは勇者、やはり強い。

 あいつの言うように、俺は手も足も出ない……が。


「フッ、遊びは終わりだ! 二度と僕のステラに近づけないようにしてやる! 聖剣斬撃ライトスラッシュ!」


 今度は正面から光の斬撃がくる。先ほどより輝きが強い。


 パクリっ!


「へっ?」


 ムシャムシャ


 俺は魔力マナイーターが発動した大きな口によって、勇者の斬撃をパックリいった。

 口の中に広がるふっくらとした食感と脂のうま味に絶妙なタレ。


「うむ、やはり……おまえはうな重だ!」


「な……なんなんだその口は……まさか昨日の件も……」


 一瞬ひるんだ勇者であったが、流石に戦闘のプロだ。すぐさま次弾の斬撃を放ってくる。


聖剣斬撃ライトスラッシュ!」

聖剣斬撃ライトスラッシュ!」

聖剣斬撃ライトスラッシュ!」


 ムシャムシャムシャ


聖剣斬撃ライトスラッシュを吸収』

聖剣斬撃ライトスラッシュを吸収』

聖剣斬撃ライトスラッシュを吸収』



 正面から飛んでくるとわかっていれば、口を開いておけばいい。

 俺は勇者の放つうな重を存分に頂いた。


「はあ……はあ……はあ……馬鹿な。光の斬撃を受けて無事でいられるはずがない……」


「ショウゴさま~! す、凄いですっ!!」

「やった~ショウゴ~どうよ自己中勇者っ! さっさと降参しなさいよぅ!」


 ステラとミーナが両手をブンブン振りながら、騒いでいる。


 肩で息をする勇者が、俺だけに聞こえる音量でボソッと呟く。


「ぐぅううう、僕には見せないステラの顔……くそう、あれは僕のものだ……なんでおまえなんかに」


 勇者アルダスは、その顔を激しくゆがめて怨嗟の目で俺を睨みつけてきた。まるで呪い殺すかのような顔だ。

 こいつ本当に勇者かよ、どんだけ悪そうな面してんだ……


「おまえのような下民がでしゃばるなぁあああ! 僕の本気をみせてやるぅううう!」


 勇者が剣を天に掲げると、周辺の草木や地面が震えるように揺れはじめた。


「勇者殿! それは周りの被害が……くっ聞いてない! 総員退避だ! 急げ! 姫様早く退避を!」


 聖剣には今までとは比べ物にならない光が、収束されはじめている。


「くたばれ下民、最大奥義! 聖剣極烈斬撃ギガライトスラッシュ!!」


 とてつもない巨大な光の斬撃が、真上から振り下ろされる。


『警告。膨大な魔力量が接近、吸収は困難』


 俺の脳内で、スキルから警告が発せられる。


「スキルよ、俺の胃袋を信じろ。ここはいつも通りパックリいくぞぉ! 気合入れろぉおお!」


 俺は、直上から振り下ろされる巨大な光を大きな口で受け止めた。

 こりゃ凄い。とんでもない力で押される。


 が――――――


 特上うな重じゃねぇええか! これはヤバすぎるぞ!


 かぶりついてはいるが、とんでもない質量がのしかかり、体がバラバラになりそうだ。

 しかし、そんなことよりも美味すぎるんだよ! これ! まじでヤバイ!


 ムシャ ムシャ ムシャ ムシャ ムシャ


『警告警告。吸収限界値を突破しています。常人での吸収は危険』


 脳内でスキルの声が警告音を鳴らしまくる。

 俺から言わせれば大皿特盛なだけだろう。しかも特上うな重だぞ、昔と違って滅多にありつけない品だぞ。


 普通はギブアップなのかもしれんが……


「―――俺の食欲に限界などないぃいいいいいい!! うめぇええ!!」


 ムシャ ムシャ ムシャ ムシャ ムシャ

 ムシャ ムシャ ムシャ ムシャ ムシャ

 ムシャ ムシャ ムシャ ムシャ ムシャ


「ふわぁ~美味かった~ご馳走様っ!」



 さ~て、ここは勇者殿にお返しをしないとな。

 最高級の品を馳走になったのだから。


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 使用可能アイテム

 ・火炎魔法ファイアーボール×24

 ・上級火炎魔法ハイファイアーボール×1

 ・聖王女の上級回復魔法ハイヒール×2

 ・光物理殴打ライトナックル×30

 ・風魔法ウィンド×21

 ・「えいっ!女神風魔法」×6

 ・聖剣斬撃ライトスラッシュ×24

 ・聖剣極烈斬撃ギガライトスラッシュ×3


 使用方法

 ・単発使用

 ・複数同時使用

 ・合体使用


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 よし、ここは「合体使用」でいくか。


 火炎魔法ファイアーボール×5+風魔法ウィンド×5+聖剣極烈斬撃ギガライトスラッシュ×1


聖剣極烈火炎風斬撃ギガライトファイウインドスラッシュ!!」


 火炎と風をまとった巨大な光の斬撃が、勇者めがけて襲い掛かる。


「ば、ばかなっ! 僕の光の斬撃!?――――――ぎゃんっ!」


 聖剣で俺の合体斬撃を受けた勇者は、その体勢のまま地面にめり込んでしまった。



 ――――――バキッ! 



 なんだか鈍い音が聞こえた。


「え? バキッっておい……」


 そう、そのバキッは、勇者の聖剣が真っ二つに割れた音だった。


 ヤバイ……聖剣を折ってしまった……

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