第12話 自己中勇者殿、再登場する

「まあ、ショウゴさま! 訓練もお昼も、良い食べっぷりですね!」


 みんなにサンドイッチを振舞っているのは、聖王女であるステラだ。

 このサンドイッチはステラが作ったらしい。


「私、教会では炊事のステラと呼ばれていたんですからっ! 材料があればなんでも作りますよ!」


 とのこと。

 しかし、一国の王女が昼飯作って部下に振舞うというのは、よくよく考えると凄いことだ。

 転生して思っていたが、王族との距離感が未だにつかめない。単にステラが特殊なのかもしれないが。


 ステラと護衛騎士団は、良い信頼関係を構築しているのだろう。昼飯を食べている騎士団員の顔がとても良い。

 まあ天使のような音色を奏でるステラに労われて、こんな美味いものを食べられるんだ。文句など出るはずもない。


 しかし、これ美味いな。

 具材は肉がメインだが、トマトときゅうりのような野菜が良いバランスで入っている。そしてなにより塩こしょう加減が絶妙である。おそらく肉の質は昨日の宮廷料理より落ちるが、バランスが最高で何の問題もない。こりゃいくらでもいける。


「ふわぁああ~これ美味しいようぅ~」


 泣いて喜んでいる奴がいた。ミーナだ。

 さきほど一緒に汗をかいた、マイアたちとキャッキャッしながら昼食を楽しんでいるようだ。

 想像以上に順応速度が速い、ミーナは変な女神プライドがあるので、うまくやれるのかと若干不安だったが、杞憂に終わったようだ。見習い女神の意外な特技だな。


 ちなみに俺の両隣にはステラと……ナターシャ隊長だ。超美少女と超美人騎士さんに挟まれるという、俺の人生史上あり得なかった事が起こっている。

 ステラはバカでかいランチバスケットから、次々とおかわりを渡してくれる。なんていい子なんだろうか。

 ステラが俺にサンドイッチを渡すたびに、反対側からナターシャ鋭い視線が俺の横顔に突き刺さる。


「くっ……おまえは遠慮と言うものを知らんのか……だいたい姫様自ら手渡しされて食べるなど……」

「まあ、ナターシャ隊長。お腹が減っては良い仕事はできませんよ。それにショウゴさまって、とっても美味しく食べて頂けるので、ついつい渡してしまうんです。ほら、ナターシャにも渡しましょうか?」

「ええ……そ、そんな是非お願いしたい……じゃなくてっ! め、滅相もございません!」


 隊長殿が顔を真っ赤にして取り乱していると、ズカズカと昼食時間に割り込んでくる人影―――


「ナターシャ隊長! 訓練を見に来てやったぞ!」


 なんか聞い覚えのある声だと思ったら、例の勇者殿だった。


「ゆ、勇者殿! その件は昨日お断りさせて頂いたはず。勇者殿の相手など誰もつとまらない」


 ズンズン我が物顔で乱入してくる勇者を止めようと、ナターシャ隊長が前に出る。


「ああ? 護衛隊長ごときがこの僕に指図するのかぁ? 僕が貴様ら下級騎士どもを手取り足取り訓練してやるって言ってるのだ。こんな機会滅多にないぞ、ありがたいだろう!」


 勇者アルダスは、みんなを舐め回すような目で見つつ、ニヤリと口を歪めた。


 晩餐会での振る舞いも酷かったが、ここでの態度はもっと酷いな。明らかに人を見下す目つきと、女性を物扱いする言動。


 勇者はステラの姿を確認すると、鼻息を荒くしてこちらに向かってきた。


「ステラ王女! こちらにいましたか。フッ、いよいよ一緒のパーティで寝食を共にするのかぁ~、あ~楽しみだなぁ」


「その話はまだ決定事項ではありませんっ! ……って、ちょっと! 近いです!」


 ステラが俺の腕をスッと掴んで、グイグイ近づく勇者から距離を取る。

 その様子を見て、チッと舌打ちをする勇者。眉間にしわを寄せて、俺に凄まじい殺気をぶつけてくる。


「また、おまえか……この魔力ゼロヘンタイ男のどこが良いんだ……。おいっ、おまえ! 訓練中だったな、この僕が稽古をつけてやる! 真剣の実戦形式でなっ!」

「なっ、勇者殿! その男は今日入隊したばかりの新人だ。勇者殿の足元にも及ばん! ましてや真剣など危険だ!」

「フッ。ナターシャ隊長、もちろん全力を出す気は無いよ。ただちょっと教育が必要なようだからね。そのヘンタイは」


「俺はやらんぞ……モグ。昼食中だ」


 ステラのサンドイッチをモグモグと咀嚼する。


「クッ……何が昼食だ……そうか、さては怖気づいたんだな?」


「なに言ってんだ……モグ。こんな美味い昼食を中断する理由がどこにあるんだ……モグ」


「ふざけた態度を……僕を誰だと思ってるんだ! 勇者だぞ! 魔王を唯一討伐することのできる血筋だ! たとえ王であろうとも叶わぬことを成し遂げることができるのが僕なんだぞ!」


 苛立つ勇者は、ランチバケットから乱暴にサンドイッチを掴み取り、一口かじる。


「ふん、なんだこれは? いかにも下民が食べる安物肉ではないか……ぺっ」


 そのままサンドイッチをポイっと放り投げた勇者は、汚物でも見るかのような目つきで言い放つ。


「ステラ王女! このような下民や身分の低い騎士どもの食事に付き合うことはありません。僕と一緒に優雅にランチを楽しみましょう、そして僕たちの未来を語り合おう! 僕の部屋で二人っきりで!」


 ステラの腕を掴む力が、キュッと強くなる。

 そんな彼女の手を優しく離すと、俺はスッと立ち上がり勇者に口を開いた。


「気が変わった。勇者殿、稽古をつけてもらおう」

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