幽霊視点 3

 韓国語も話せて、モールス信号も受け取ることができる。


 この教員が何者なのかも気になるが、今は後回し。


”いじめられてない?”

「……どうだろう。表面的に手が出されてるわけじゃないけど……無視がいじめに入るのなら……」


 無視……盧羅のらちゃんはクラスで無視されている。


 ……言葉の通じない相手に話しかけるのは、難しいだろうな。孤立してしまうのは、ある程度しょうがないかもしれない。


 ……


 私の弟のように、それが原因で命を落とさなければい良いけれど。まぁ私の弟の場合は、いじめは間接的な要因だが……


 ともあれ、会話も最終盤だ。


”たまにでいいから、ここに来て。状況が、知りたい”

「わかった。つまり高美たかみさん……この教室から出られないのかな?」

”そう”


 私はこの教室に住み着く幽霊だ。他の場所に移動することはできない。


「じゃあ……これからよろしく。高美たかみさん」

”こちらこそ”


 この教員も変な教員だ。生徒思いで、幽霊にすら協力を求めてしまう。

 

 信用して良い、のだろうか。まだ安心はできない。


 とりあえず、


”この学校に、快刀かいとう乱麻らんまという教師はいる?”

「カイトウランマ……いや、私は聞いたことない」


 なるほど……私の親友の名前だったのだが、どうやら他の学校に移動したらしい。


 ともあれ情報収集を続けよう、


盧羅のらちゃん、私がはじめての友達って”

「え……?」教員は意外そうに、「そうなの……? じゃあ、彼は……」

”彼?”

「隣の席の男の子と仲が良いはずなんだけど……友達じゃ、ないのかな?」


 仲が良いけれど、友達ではない。


”恋人?”


 恋バナ大好きの私としては聴き逃がせないワードだ。


「うーん……どうだろう。そこまで仲が発展してるようには見えないけど……」

”じゃあ、片思い?”

「両思いだよ。本人たちは気づいてないみたいだけど」


 両片想いか。一番見ていて面白い時期だ。


 これはなんとしてでも……盧羅のらちゃんに日本語を覚えてもらって近況報告をさせなければ。


 韓国の留学生(日本語が話せない)が片思いしているという隣の席の男の子。


”その子は、どんな子?”

「優しい子。周りに流されないような、強い気持ちを持った人。孤立していたいむさんに、唯一話しかけた男の子」

”彼も韓国語が?”

「話せないみたいだね。機械翻訳で話してるって言ってた」


 便利なものだ。私が生きた世界では、まだそんな技術は発達していなかった。


「とにかく……」教員が話を締める。「いむさんは慎重で繊細で……友達作るのも人一倍苦労するタイプなんだけど……」


 だろうな。見ていればわかる。


 今回私と出会った物語だって……要するに私といむさんが会話して友達になっただけだ。それが……ずいぶんと長い描写になっただけで。


「でも……悪い子じゃないと思う。だから……優しくしてくれると、嬉しい」

”了解”


 どうせ幽霊なんて暇なのだ。誰かに怒鳴り散らしたりなんてしない。しても意味がない。


 ともあれ幽霊生活30年……久方ぶりの友達ができてしまった。しかも日本語がほとんど通じない美少女。さらに隣の席の男子に片思い中。


 ……ずいぶんと面白そうだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る