第2話 ちぐはぐな二人

「…全くシケてるわね。街で噂になってるくらいの山賊なら、もう少しまともな蓄えがあっても良いと思っていたのだけど…」


 そう大きなため息をついたのは、真っ黒なローブと帽子を被った…見るからに魔法使いと言う風貌の少女…いや、それにしては幼過ぎる顔立ちは、幼女…と言う方が正確だろう。齢7~8歳程度に見える幼い娘だ。

 背丈は年相応に小さく、言葉遣いこそ大人びているのに、その口調は微妙に舌足らずで、微笑ましさを感じて良いのか、アンバランスさを滑稽に思ったらいいのか悩ましい。

 彼女の足元には、数人の男が目を回して、あるいはその体の一部、あるいは全体に、深刻な物理的な損傷を負わされて倒れている。

 よくよく見ればそこかしこに赤い血だまりが出来ているのに、幼い少女は気にも留めている様子はない。


「そんなことを言ったところで、そもそもがヒトの中でもより下賤に落ちぶれた者たちの集まりであろう?最初から期待など抱く方が愚かだったということではないか?」


 少し離れた場所で腕組みをし、返答の言葉を返しているのは、やけに大柄で、長身で、筋肉質な体躯を持つ男だ。彼を良くよく見てみるのなら、その男の瞳孔の形が猫のように縦長をしており、人としては少し違和感のある目だと気が付けるかもしれない。

 男は娘が、彼女の足元に転がる哀れな男共を蹴とばし悪態をつく様子を、呆れた顔で見つめ、肩を竦めた。


「とにかく、これでこの仕事は終わりなのだろう?ならば、さっさと街へ戻り報告を済ませるのが良いのではないか?いつまでもこんな場所にいても仕方があるまいよ」


「生意気にあたしに命令しないでくれる?あんた、今回何もしてないでしょう?」


「もともと立てていた作戦をいきなり破って、勝手にあの者たちをあんな風にしたのはお前の方だろう?文句を言うのはお門違いも甚だしいぞ」


 バチバチに睨み合う幼女と大男。

 一見すれば親子喧嘩か何かにも見えるのに、その間に漂う空気は一種の緊張感と倦怠感しかなく、とてもそれは普通の親子や家族と言う関係のものが纏うべき空気とは言えなかった。


「———まったく、面白くないことしか言わない木偶の棒にも困ったものね」


 忌々し気にぼやく幼げな娘。男はまた肩を竦めてから、踵を返し歩き出す。

それに小さな娘も続いた。

 まだ幼げな容姿とそれに似合わない言動をする女の名はアンヘル。

大柄で筋肉質で、どこか尊大な話し方をする男の名はフーリシュ。

 本来の名がどうだったかは別として、二人は今、そう名乗ることにしていた。



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気狂い魔女は最愛の竜に呪われている 夜摘 @kokiti-desuyo

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