#6「冬にしか学校に来ない理由」
「――冬にしか学校に来ないのってなにか理由があるのか?」
一瞬、雪城が動揺したように目を瞠る。
勢いあまって、つい直接的に聞いてしまったが少しはオブラートに包むべきだったかもしれない。
なにか理由があるのか、って理由があるから休んでいるに決まってるだろ。
不安と罪悪感が胸を締め付け、バツの悪さを感じていると意外にも雪城は悪戯っぽい笑みを浮かべて軽く首を傾げた。
「どうしてだと思う?」
まさかの質問返し。
だが、デリカシーに欠ける質問をしてしまったばかりにそれを責めることなんてできるはずもなかった。
試されるような視線を向けられ、俺は腕を組んで考える。
今日の授業中、ずっと考えていたことだ。
でも、結局これという答えはでなかった。
言い方を変えれば、夏には来れない理由は――。
不意に窓を覆う遮光カーテンに目が留まる。
「そうか、紫外線アレルギーだから夏は外に出られないんじゃないか?」
まだ陽が沈んでいないというのに締め切られたカーテン。
それに、肌の露出が極めて少ない季節外れの服装。
それらが証拠だ。
しかし、雪城は無表情のまま淡々と否定する。
「残念、はずれよ。紫外線なら夏に限定されたことじゃないでしょう?」
「たしかにそうだ……。じゃあ汗アレルギーか?」
「違う」
即答だった。
季節による気候の変動に着目した良い回答だと思ったが、雪城は不快感を示すように顔をゆがめる。
否定する声もより一層氷のように冷たかった。
紫外線でも汗でもないとなると、これ以上はもう思いつかないぞ……。
そのとき、ふと今朝の教室での会話が脳裏に浮かんだ。
「はッ……まさか、本当にサンタクロースの――」
「もう結構よ」
凍てつくような声音。
女子が本気で拒絶しているときのトーンだ。
俺はぽりぽり頬を掻きながら単刀直入に尋ねる。
「降参だ。正解を教えてほしい」
言うと、雪城はじっとこちらを見据えていたが不意に視線を落とした。
しばしの沈黙の後、小さくため息を吐いてぽつりと口にする。
「……ただ、暑いのが少し苦手なだけよ」
「そっか」
彼女がそうだというのなら、もうこれ以上は詮索しない。
その言葉が真実じゃないとしても、それは知られたくないという意思表示だ。
嫌がっているのに無理に聞き出す気にはなれなかった。
ふとそのとき――俺のスマホから口笛風の着信音が鳴る。
スマホの画面を覗き込むと、原田からのライン通知が届いていた。
どうせまたくだらない動画のURLかなにかだろう。
それよりも気になったのが、スマホのホーム画面に表示された時刻だった。
すでに午後六時を回っていたのだ。
窓のカーテンが閉ざされているため、こんなにも時間が経過していたことに気付かなかった。
よく考えれば学校が終わった後、一時間弱かけてこの屋敷までやってきて、そのあとしばらく屋敷の中を歩き回っていたからな。
そういえばバスの時間は大丈夫だろうか……。
そんな疑問を察したのか、雪城が興味なさそうに言う。
「十分後のバスを逃したら二時間は野外で待つことになるわよ」
「屋敷で待たせてくれないんだ……」
まぁ初対面の相手にこれ以上図々しく頼むわけにもいかないか。
「んじゃ、またな」
「待って、また来る気?」
「いやほら、冬になったらまた会えるんだろ?」
「……ええ、そうね」
安堵したような雪城の様子に俺は苦笑いを浮かべる。
どんだけ来てほしくないんだよ……。
いやまぁ、そう思わても仕方ないか。
ボロボロになった屋敷の廊下を思い出して得心がいく。
あれは俺がやったわけじゃないけどな。
「じゃあな」
俺は改めて別れの挨拶を言い、扉のドアノブに手をかける。
そのときだった。
「――待ちなさい」
後ろから呼び止められたのだ。
振り返ると、雪城が相も変わらず仏頂面のままこちらに視線を向けていた。
「ひとつ忠告してあげるわ。帰り道に気を付けなさい」
「え、なに差されるの俺……?」
変に改まったトーンで言われたせいで意味深にとらえてしまう。
まるで失礼な奴は抹殺するとでも言うように。
なんかいろいろすいませんでした……。
戸惑う俺をよそに、雪城は再び本に視線を落とした。
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