第7話、強い子には旅をさせよ

「あの、村長、なぜ?」

「アタシも意味がわかんないんだが。」

 今の占い結果は理解したが、なぜそう言う話になったのかが今ひとつ全くよくわからない。


「我がそう考えた理由はな……」

 村長が重々しく口を開く。

 二人も固唾を飲んで次のひとことを待つ。


「勘じゃ。」


 今度は二人がお手本のようにずっこける。

「勘って何ですか勘って!」

「勘で旅に出そうとすんじゃねえよ!」

 念の為に言っておくが、占いと勘は根本的に別物なので、同じ村長が言ったことでも信憑性はまるで違う。


「喧しい!冗談に決まっとろうが!……半分は!」

「何です半分って!」

「グナを適当に扱ってんじゃねーぞ!」

「いくら村長でもひどいですよ!」

「こんな場面で勘とか遂にボケたか!」

「なんで俺が旅なんですか!ほかの人でいいでしょう!」

「お前は一応村最強だろ!自覚持て!」

「ええい!喧しいと言っとろうが!」

 そう言われた瞬間、スッと静かになる二人。


「質問されれば答えてやるわい。そういきなり噛みつくな。わかったか!」

 コクっと頷く二人。

「変なところで育ちの良さが伝わるの……」

「なんか言ったか?」

「いや、何でもない。」


 椅子に腰掛けると、デラオが律儀に村長に質問する。

「で、なんでグナを旅に行かせようとするんだ?」

「さっきの占い結果の中に、厄災を治める者を最初に迎えた狩人が仲間になる云々という話があったじゃろ?」

「あったな」

「手っ取り早くいえば、村で一番強いグナに、その役割を担って欲しいんじゃ。」

「ああ。そういう」

「その治める者、というのがどのような者かわからんでの。弱かったり逆に狂暴だったりするやもしれん。その者の相手は、一番確実な者に担ってもらいたいのよ。」

「なるほどなぁ」

「……」

 グナは反論こそしないが、どことなく不服そうである。


「一つ気になったんだが、聞いて良いか村長?」

 ここでデラオが再び質問する。

「何じゃ?」

「それって今月分の占いの結果なんだろ?」

「そうじゃ。」

「ニエラの獣関連の厄災が占いに出てたよな?」

「……そうじゃの。」

「グナがいなくていいのか?」

「デラオ」

 ここでやっとグナが口を開く。

「それは流石に買い被りすぎだよ。俺以外でも、防衛部隊だって狩人だって強い人はたくさんいるでしょ」

「それはそうかもしれないが、けどお前がいないと戦力が減るのは確かだろ?」

「デラオが言っていることはもっともじゃ。」

 村長は唸るような声で言う。

「ただ別に防衛部隊や獣の狩人部隊を信頼しておらんわけではない。それは村長としてはっきり言っておく。」

「だったら別に……」

「しかし。」

 口を開きかけたグナを遮って村長は言葉を続ける。

「あの時村にお前がおったら、もしか死人は出ないで済んだかもしれん。そう考える我の気持ちも察してくれ。」

 あの時、というのは、数百年前の襲撃事件のことだろう。

「……はい。」

「それでも我が、貴様を旅に行かせようとするのは、この村のことを考えてじゃ。村に来るのを待っておったら、ほかの狩人に出会ってしまう可能性が高い。何しろ獣の狩人とは指定されとらん。最初に出会ったのが草の狩人だった日には目も当てられんでな。」

「それは……」

 草の狩人は、いわば農民の代表者のような役職だ。この村の農作物の管理、ひいては村の存続に欠かせない重要な役割を担うが、戦闘は全くの専門外である。

「この村のことを考えれば、ほかに善手は思いつかん。お前を旅に出しておくことが即ちこの村のためなんじゃ。」

「この村の……ため。」


 グナが黙って俯く。それを見ていたデラオが見かねたように口を開く。

「おい。その言い方だと、まるでグナが捨て駒みたいじゃないか?そんなつもりでグナを選んでるならアタシは反対するぞ?」

「この村の民に迫る危機を除くためなら、たとえ我が友人といえど、一人二人の犠牲は逃れられん。」

「おい!いくら何でも」


「とか思っとるか知らんが、そんな風には考えとらん。」

「え?」

「我をそんな薄情な奴だと思うとったんか?」

「今の流れは思うだろ!」

「俺も思いましたけど。」

 村長はわざとらしく涙を流すふりをして見せる。

「まったく、我もずいぶんひどく見られたもんじゃのう……」

「ふざけてねぇで早く言えよ。その考えとかいうのを。」

「じゃから我をもっと尊重せいと言うとるのに……まあ良い。貴様ら、ニエラを治めるのは重要だと思うか?」

 無言で頷く二人。

「では、この村を守るのは?」

 無言で頷く二人。

「村を守るのは、絶対にグナ一人では不可能じゃ。あまりに範囲が広すぎるでな。しかし、ニエラからの救い人が現れたとして、その一人を守るのは別に一人でも構わん。無論強いことが前提じゃがの。」

「だからグナだと?」

「そうじゃ。グナならこの村の外でも生きていく術を知っておるじゃろう。逆に言えば他の者を行かせれば死ぬ可能性が高い。弱いのがたくさん集まったとて、生きていけぬのが村の外の世界じゃからの。旅に出す者も生きて帰す方法といえば、正直これくらいしか思いつかん。」

「なるほど……」


「当然ながら我はグナの実力を全面的に信頼しておる。しかし一方でグナに多大な負担をかけるのは事実、無論無理強いをする気はない。」

「行きます。」

「頼む。」

「早いって」

 本気で驚くデラオである。


「ジンニのことが少しでもわかる可能性があるなら、あと、あの日襲ってきた奴らの正体がわかる可能性があるなら、オレは行きたい。あの日よりオレも強くなってる。村に何が起こるかはわからないし、外でも何が起きるかわからない。だけどオレは、危険があったとしてもあの日の事件の真実を知りたい。」

「……そんなに思ってるのか。」

「貴様がそう言ってくれるなら、我としても支援するのみじゃ。」

「ありがとうございます。」

 頭を下げるグナ。


 改まった顔で、椅子に腰掛け直す村長。


「では、今後の作戦を伝えよう。」

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狩人と戦士の旅日記 白川雪乃 @Yoinu

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