凡人の恩人

鳩原

第1話凡人の恩人

 あるところに、平凡で、それ故にほんの少しだけ大人びて生意気になった少年がいました。

 

 俺は、才能とも呼べる程に平凡だった。何もかも。俺よりも下の奴は、平凡でも羨ましがるかもしれない。でも、お前らは勉強も運動も、何もかも投げたして夢中になれるものがあるんだろう?俺は、夢中になれるものが無い。ただ親や教師や、周りの友達に言われて何かをやる。それで人並みなんだから、もしかしたら平凡以下かもしれない。以前友達に勧められて俺もやっているソシャゲのガチャが外れ、友達に慰められた。別に課金する金があったところで他に使うこともないから別にいいのだが。そこで「下位互換」という言葉を知った。下位互換。俺にぴったりの言葉だと思った。さて、俺は飯や睡眠、風呂など、生活に必要な時間の他に、自分の時間があると思う。格好つけていうと、自分磨きというやつだ。俺よりも頭が良い奴は、部活や趣味の時間を削って塾へ行く。俺よりも体が動かせる奴は、勉強や趣味の時間を削って運動部に入る。俺よりもゲームが強い奴や、俺の知らないことが得意な奴は、勉強や運動の時間を削って、「自分磨き」っぽい自分磨きをする。だが俺は一律。全てほとんど同じ時間で、才能も同じくらい。何かしらの上位互換ではと思う奴もいるかもしれないが、それは違う。世の中、「得意なこと」がある方が有利だし、人生楽しいだろう。受験の面接でも、特技や今夢中になっていることを聞かれる。そんなものはない。そう叫んで暴れだしたくなる。もう嫌だ。こんな、学校で教師や友達の話に合わせて、無気力に一時間半部活に行って、自主練はせずにあがって、一時間半塾に行って、家に帰ったら親や兄弟の話に合わせて、明日の会話のためだけに一時間半やたらと音と画面が奇抜なゲームをしての繰り返し。でも、その代わりに何をするのかといわれると詰まる。本当にやりたいことがない。植物のように、生存本能だけにしなだれかかって生きて、死にたい。おそらく、社会に出ても、誰かの下位互換だということを感じながら働くのだろう。せめて誰かに必要とされたい。いないことは分かっていても望んでしまう。どこかに、俺を必要としてくれる存在はいないのか。


 さて、時は流れました。少年はもう青年になりました。電車を降りて、大学からの帰路につくところです。丁度、面接を受けた企業からの採用通知が届いたところですね。普通は喜ぶところですが、青年はやる気の無い、今にも内定を蹴りそうな顔をしています。さて、そんな彼の背後、正確には背後の上空五メートルのところ。先の丸まった、円錐形の金属の塊が近づいてきました。未確認飛行物体というやつですね。あ、青年が振り向きました。ぎょっとしています。彼はあまり強力な思想はありませんでしたが、ユーフォーなんていないと思っていましたからね。周りに人気がありませんので、青年が目的でしょうね。ユーフォーは意外と深みのある、下手くそなオペラ歌手みたいな音声で青年に話しかけました。


「こんにちは ごきげんよう はじめまして」

「……」

青年は言葉も出ません。

「じつは あなたに ひとつ おねがいが ありまして」

「な、なんなんだ。俺は何もしてないぞ。」

「ですから おねがいと いって いるのです きょうせいは しないのですが」

青年は落ち着きを取り戻してきました。

「で、で何のようなん、ですか。」

「わたしたちは ここから とおく はなれた てんたいの じゅうにん なのです わたしたちは かがくが わたしたちの せいかつを ゆたかに すると おもって いました しかし どうも それだけでは ないようです つきましては あなたに わたしたちの てんたいで くらして いただき たいのです もし あなたが それを きょかするのであれば あなたは このてんたいの こよみで つきに にじゅうにち かんたんな さぎょうを するいがいは じゆうに せいかつ できます あなたの あんぜんは ほかの このてんたいの せいぶつへの じっけんによって ほしょうされています」

「で、でも、親や友達はどうなるん、ですか。一生地球には帰れないってことですか。」

「このてんたいの こよみで いちねんに にかげつまでなら あなたは いつでも おとずれることが できます ごきぼうなら えんちょうも できます ただし あなたが こちらの てんたいに いることの きろく たとえば かいわや にっきは わたしたちで てきせつな ものに へんかん します」

青年は大分落ち着いてきました。

「分かりました。それなら、そちらの星へ伺いましょう。どうせ、そこまで突っ込むほど親しい友達もいないし、親へは海外転勤の多い職場に就職したといえば良いと思いますし」

「ありがとう ございます では あなたは いつ わたしたちが むかえに くることを のぞみますか」

「では、荷物をまとめるのとか、色々な手続きがあるので、一ヶ月後でどうですか。」

「てつづきは こちらで いちにちで おこなうことが できます」

「じゃあ、お願いします。荷造りだけなら、三日あれば終わると思います。三日後に、この場所で、同じ時間に落ち合いましょう。」

「わかりました」


 なかなか逞しい青年ですね。それとも、地球に未練がないだけでしょうか。さて、三日後。青年は円錐のそこの半分がスライドしてできた空間に吸い込まれるようにして入っていきました。


 そこは、暖色系にうっすらと光る壁と、座り心地の良さそうな、近未来的な椅子があった。どこからともなくあの声が聞こえてくる。

「こんにちは、ごきげんよう。そのいすに、座ってください。」

「こんにちは。少し日本語が上手くなりましたね。」

そう話しかけつつ椅子に座る。 

「三日かん、少しだけ、けんきゅう、しました。」

「そうですか。ところで、あなたは今、どこにいるのですか。出来れば顔を見て話したいのですが。」

「もうしわけ、ありません。今、そうじゅう中、ですから。少し、したら、着きますから、お待ちください。」

「分かりました。ところで、何で僕なんかを地球人として検査するのですか。もっと優秀な人がいると思うんですが。」

「ゆうしゅうでは、いみが、ありません。この天体の、もっとも、正かくな、へいきんちを、えるためには、へいぼんな、こ体を、つれてくる、ひつようが、ありますから。」

俺はあきれた反面、深く納得した。平凡も才能なのかもしれない。何か突出していなくても、そのバランスの良さこそが、俺の長所なのかもしれない。そう思うと、これからの未知の体験にも、積極的に取り組める気がした。


 さて、それを見ていた二つの人影。

「やれやれ、こんな小芝居を打ってまで労働力を確保しなければいけない時代がくるとはな。」

「仕方ないですよ、博士。少子化が進んで就活に失敗したニートを抱え込む余裕なんてこの国には無いですからね。そんなことより、博士の発明品の実験は大成功ですね。」

「ああ、対象の考えていることを計測する機械と、好きに幻を見せられる特殊な化学物質。実験は成功したし、やる気の無さそうな若者に効く方法も発見した。これをこっそりと国に流せば大儲け間違いなしだな。」

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