第15話 腐ってもS級


「空気が美味しいわね」


「そうだね!」


元が村暮しだから、然程じゃない…


だけど、村から出た事が殆ど無かった京姉には新鮮なようだ。


それに今までとは違い…本当に2人きりの楽しい旅。


俺も楽しくなってきた。


空は青く、雲は白い…草木は綺麗だ。


いつもの慣れた風景が凄く新鮮だ。


「それで、聖教国ってどんな国なの?」


「勇者大好きな教皇がおさめる国だよ、ここでの生活は最小限に抑えて、早めに立ち去ろうと思っている…だけど料理は美味いし観光に良い場所はあるから、それ位は楽しもうと思うんだ」


「そんなに問題はなさそうな気がするけど…早めに立ち去る理由はあるの?」


「『勇者大好きな教皇』が居るからね、カイトの奴まだ、俺に戻ってきて欲しそうだから、勇者への優遇が強い国からは早目に抜け出したいんだ」


「う~ん確かにそれなら、早目に聖教国は立ち去った方が良いかもね」


「尤も、冒険者ギルドにさえ寄らなければ行方は解らない筈だから、顔を出さなければ大丈夫な筈だよ…聖教国は海も近くて海鮮も旨いから、観光だけはしようと思っているんだ」


「海…海って小さい頃にリヒトくんが言っていた…物凄く大きな池の事?」


「それだよ…絶対にこれだけは京姉に見せてあげたいんだ」


「私、凄く楽しみ!」


「俺も、(この世界では)見た事無いから楽しみだよ…まだまだ遠いけどね」


本当の所は、帝国よりも聖教国で暮した方が幸せだと思う。


食べ物は美味しいし、景色だって観光地になっている位綺麗だ。


教会の本部があるからヒーラーも多く医療的な事にも優れている。


ただ、この国には『勇者絶対主義者』の教皇が居る。


もしカイト達が『俺に戻って欲しい』と願っている事が解れば、何だかの手を打ってくる可能性は高い。


本当に残念だが、諦めるしか無いな…


本当は良くないのは解っているが…カイトがもし死んで魔族の進行が遅ければ此処に戻ってきて住むのもあり…かも知れない。


教皇が関心のあるのは『勇者』『聖女』それだけだ…


もしカイトが死んでしまえば…俺に構う事は絶対にないから安全だ。


◆◆◆


「そう言えばリヒトくん、お金は大丈夫なの?」


「かなり大物を狩ったから、暫くは大丈夫だよ…俺はこれでも稼げる男だからね」


「リヒトくん…だけどパーティに着いて行けなくなったんでしょう?」


「まぁね…京姉、今の俺がどの位の強さだと思う?」


「冒険者としては強いのよね…オークが狩れる位?」


「一応、この世界で数少ないS級だよ。冒険者全員の中で10本の指には入っているんだ、オーガ数体なら余裕で狩れるし、無理すればワイバーン1体なら狩れるよ…」


「ワイバーンが狩れるの…あれが出てきたら村や小さな街じゃ対処できないのに…」


「まぁね、実は頑張って…ワイバーンを2体倒したから京姉と1~2年は贅沢しなければ暮らせるお金はあるよ」


「嘘つき…」


どうしたんだ…京姉の顔が怖い。


「俺、嘘なんて…あっ…ああっ」


ヤバい、俺エリクサールを手に入れる時、京姉に『そろそろ、お金が底をつきそうだから、狩りにいってくる』


そう言っていた…


流石に、その時にワイバーンを倒しました…というのも可笑しいよね。


「別に怒ってないから大丈夫だよ? あの時はどんな方法か解らないけどエリクサールを手に入れに行っていたんだよね?だって狩りに行った筈のリヒトくんがエリクサールを握りしめて帰ってきたんだから解っていたよ!『だけど、リヒトくんは噓つきだなぁ~』と思って」


「なんだかゴメン…」


「良いよ、良いよ…本当に怒ってないし…寧ろ嬉しかったから…ちょっと揶揄っただけだよ」


そう言って舌を出す、京姉が可愛い。


思わず俺は見惚れてしまった…



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