交わる運命は耐え難き灼熱のもとで 6

「ゼクロス!」


 今にも掴みかかりそうだったゼクロスを制したのは中年女だった。


「いいかげんにしな、みっともない。あんたは額を提示し、むこうはちゃんとそれに応えた。

 誰がはらおうと関係あるもんか。貴族だろうが雑兵だろうが、金は金。はらったやつがあたしらの客さ。分割にしようとしない分、どっかのケチなお貴族さまよかよっぽど上客ってもんだ。

 だろう?」


 ぐっ、と言葉につまり、黙りこんだゼクロスに、問題は解決したとみたレンジュは再度背を向け立ち去ろうとする。だが三歩と行かないうちに、今度は中年女が呼びとめた。


「持ってきな」


 ふわり。マテアが落とした毛布が投げられ、彼女の上にかぶさる。


「その娘、どうやら陽に弱いようだからね」


 言われて覗きこんだ面が、意識を失いながらも苦痛に歪んでいることにはじめて気付いて、レンジュは短く礼を言った。


 彼が支払った額を考慮すれば、使い古した安物の毛布をくれた程度で礼を言う必要などなく、また彼等奴隷商人がどういった輩であるのか、彼等が本当は彼女をどうしようとしていたかも察していたが、それでも――彼女と自分を会わせてくれたのだと思うと、それだけで、感謝の気持ちがこみ上げた。


 レンジュの歩行に反応して、野次馬たちは引き潮のように道を開く。両側に連なる男たちから一斉に羨望の眼差しを受けても動じることなく、レンジュはハリの待つ出口へ向かって歩いて行った。

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