異なる世界、異なる理(ことわり) 6

「あっ…」


 逃げ場を求めて壁にすがりついたマテアを強引に小屋の中央まで引きずり出し、慣れた動作で両手を胸のところに敷きこませて俯伏せにすると、その背に尻をのせて動きを封じる。せめてと足をばたつかせて抵抗するマテアの両足首を難無くとったゼクロスは、そこに巻かれていた布と履物をはぎとり、足の裏を見てヒュウと口笛を鳴らした。


『おれたちゃついてるぜ、ナウガ。この奴隷、まだ誰の所有でもないぞ。焼き印をそぎ落とした跡や上から焼きつぶした跡もない。つるっつるできれいなもんだ。こりゃ焼きつぶす手間がはぶけたな』


 見てみろよとばかりに足の裏を横についたナウガに見せる。


『あたりまえだろ。こりゃあきっと先の大戦での置き土産だぜ。絶対そうに違いない。これだけの美女だ、将軍クラスの妾だな』

『案外娘かもな。ちょい薄着だが布質は上等だし、指や爪・肌も整ってる。髪先にも栄養が十分に行き届いていて、こりゃ貴族並の手入れをされてきた証拠だ。大方父親にわがまま言って物見遊山でくっついてきて、敗走の際置いてきぼりにされたんだろうさ』


 ナウガの見立てにゼクロスも大いに満足したらしい。マテアの両手首を掴み、まるで戦利品であるウサギか何かのように得意気に釣り上げた。


『どっちにせよ上玉だ! これなら最低でも一万上級金貨はふっかけられる! うまくいきゃ二万になるかもな! そうすりゃおれたち三年は働かないで食ってける。ほんと、思わぬ所でいい拾いモンしたぜ!』


 生臭く、すえた異臭を放つ口を大きく開けて高笑いをするゼクロスのおぞましさに、マテアは少しでも男たちから離れようと顔をそむけ、もがく。だが手首を掴むゼクロスの力はいくら暴れてもびくともせず、どうしても、彼の腕の中から逃げ出すことができない。

 ゼクロスはマテアの顎に指をかけ、今一度面の美しさを確認してにたにた笑う。マテアは、自分の身に何が起きたのか、これからどうなってしまうのか、何一つわからないまま、恐怖に堪え切れずに現実から意識を遠ざけた。

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