第4話 三章

「荒木君、ねえ、目を開けて」


 石川さんに体をゆすられて、俺は目を覚ます。

 空には、謎の飛行物体が浮いていた。


「うわぁ!」


 大輔が慌てて後ろへ下がると、そこには壁があった。打ち付けた背中が痛い。


「大丈夫?」


「ああ、心配ないよ」


 背中をさすりながら、顔を覗き込んで心配してくれる石川さんの優しさを実感する。それと同時に、一つの疑問が浮かんできた。


 ――あれ? なんでこんなところにいるんだっけ……?


 目の前には、石川さんの顔がある。鼻先が触れ合いそうな距離だ。石川さんの髪からはシャンプーのいい香りがした。そして、自分が壁にもたれかかって座っていることを理解する。だんだん、意識がはっきりして記憶が戻ってくる。


「あ!」


 最初に思い出したのは、海堂さんの笑み。そして、ここがどこであるかということ。おそらくここは、ゲームの中だ。


「どうかした?」


 不思議そうに見つめてくる石川さんに、なんでもないと首を振る。


「いや、何でもない。それより、他の奴らは?」


 確か、悠介と天草、それに森本も同時にゲームの世界に入ったはずだ。


「わからない。それと、私もひとつだけききたいことがあるんだけど」


 石川さんが言いながら見つめる先には、俺の右手があった。


「それ……どうしたの?」


 俺の右手は、何かの機械に接続するためのプラグになっていた。確かにそれは体の一部であるという感覚が残っているけれども、それでも明らかにおかしい。


「なんだよ、これ」


「やっぱり、荒木君も知らないか。実は、私も……」


 石川さんが自分の左手を見せる。その手も、やはりプラグになっていた。


「じゃあ、これはいったい……」


 立ち上がり、周りを見渡す。崩壊した都市だろうか、建物が崩れて、風にさらされている。その光景がまさに、世界が終わる瞬間のようだった。そこには、この澄み切った青空が似つかわしくない。最後の輝きを放つ夕焼けの方がよっぽどきれいだ。

 すると、目の前にある建物の影に誰かがいることに気がついた。


「誰だ?」


 恐る恐る近づいてみると、それは女の子だった。彼女は膝を抱えて丸くなり、眠っているようだった。残念ながら、彼女の顔に覚えがない。


「石川さん、こっちへ来て。この子、だれか知ってる?」


 後ろから様子をうかがっていた石川さんを呼ぶ。おそるおそる石川さんはこちらへとやってくると、女の子を見て驚いていた。


「石川さんは、この子が誰か知ってるの?」


 石川さんはぶんぶんと首を振る。だけど、彼女は確かにうちの高校で指定されている制服を着用している。ならば、生徒手帳やそれに準ずる身分証明みたいなものがないだろうか。


「石川さん、彼女が生徒手帳を持っていないか確認してくれない?」


「うん、わかった」


 うちの高校では生徒手帳を携帯するように言われている。別にそれを全員が守っているわけじゃないし、先生たちもルールとして言うだけで別に気にしていないだろう。だけど、調べてみる価値はある。


 石川さんが、眠っている彼女を起こさないように気を付けて、そっと彼女の胸ポケットに手を伸ばす。なんだか邪なことを考えそうだったから、目を逸らした。

 一分ほどたったところで、石川さんが持っていないことを教えてくれた。


「どうする?」


「とりあえず、ここに放っておくことはできないしな」


 海堂さんの説明から推測するに、ここはロボットで未知の敵と戦うステージだ。そんなところに眠ったままの少女を放っておくわけにはいかない。


「でも、かわいい子だね」


 石川さんがそうつぶやいた。確かに、眠っている姿しかわからないからなんともいえないが、鼻筋はすっと通っているし、唇はぷっくりしていてかわいらしい。石川さんがもう少し幼ければ、よく似ている気がする。


「ねえ、なんだかいやらしい目をしてない?」


「し、してないよ。とりあえず、申し訳ないけど起こして話を聞いてみようか」


 その提案に石川さんも頷き、眠っているこの肩をゆする。何度かゆすると、その子は目を開いて、ゆっくりと体を起こした。


「おはよう」


 目を擦りながらあたりを見渡す彼女に、石川さんに声をかける。

 すると、彼女も俺たちの姿を認めたのか、驚いたように目を大きく開いた。


「え?  どなたですか」


「起こしてごめんね。私は石川祐奈。こっちは荒木大輔君。二人とも、同じクラスなの。あなたの名前を聞いても大丈夫?」


 石川さんの質問に、少女は少し考えたあとで口を開いた。


「私は、一年の森川葵です。よろしくお願いします。もしかして、石川さんたちも海堂さんたちに連れてこられたんですか?」


 彼女、森川さんがそう言うと石川さんが彼女の肩を掴んで、ゆすった。


「あなた、何かを知ってるの?」


「あ、ちょっと落ち着いてください」


 石川さんが興奮気味に詰め寄るのを、森川さんが手を伸ばして距離をとる。

 石川さんははっとなって、少し申し訳なさそうにしている。

 まあ、焦る気持ちは理解できる。


「私は先週、海堂さんに突然、声をかけられたんです」


 森川さんはぽつぽつと、うつむきながら話し始めた。


「ねえ、君、かわいいね。よかったら、一緒にお茶しない?」


 それはいつもの話だった。葵はその見た目から街で声をかけられることがある。主に他校の生徒が中心だけど、前は明らかに三十歳を超えたようなおじさんに声をかけられたときは怖かった。


 そのため、いつも通りに無下に断ろうとしたが、そこには見知った顔があった。入学式、始業式、新入生歓迎会などでよく見た顔だったのだ。


「かいどう……さん?」


「あれ? 僕のことを知っているのかな」


 海堂さんは別にうちの高校にいる生徒でなくても、この周辺に住んでいれば知っているくらいの有名人だ。葵だって、名前を聞いたことがあった。

 それに、海堂さんは有名だったし、顔もよく知っていた。だから、すぐにわかったのだが、そんなことは言えなかった。


「はい、知ってますけど……」


「うーん、僕も結構有名になったものだね」


 恐怖と混乱で戸惑う葵をよそに、海堂さんはマイペースに話を進める。


「それで、何の用事ですか?」


「まあまあ、ここの紅茶はおいしいんだ。ぜひ、ごちそうさせてほしい」


 葵は流されるまま、海堂さんの言ったカフェに入っていった。


「紅茶とケーキを一つ」


 なぜか海堂さんは、一つずつしか注文しなかった。


「あの……私になにか用事ですか」


 葵が思うに、海堂さんとの共通点は同じ高校に通っているくらいだ。まだ、ナンパ男のように葵の体目当てというほうが、軽蔑はするが納得はできる。

 だけど、そこからはまったく理解できず、気が付けばケーキと紅茶がテーブルに置かれていて、海堂さんはいなくなっていたらしい。


「う~ん、実はお願い事があって。君にゲームをしてもらいたいんだ」


「ゲーム?」


「それで、気づいたらここにいて」


 どうやら、森川さんも大輔と同じように海堂さんたちに誘われてゲームをプレイすることになったらしい。

 しかし、森川さんもゲームをした経験などほとんどなかった。


「でも、おかしいよね。体に何かおかしなところはない?」


「おかしなところですか?」


 森川さんの両手は、そのままだった。何の変哲もない、ただの手。だとすれば、彼女に求められている役割はなんだろうか。プラグをどこかに挿入してロボットを動かせばいいというのは、なんとなくだけどわかる。


 しかし、それでは森川さんの存在がイレギュラーだ。


 森川さんは服のポケットなど、何か気を失う前と違うところを探すが、どうやらそれらしきものは見当たらないらしい。

 森川さんだけ海堂さんが直接誘ったということにもなにか意味があるのだろうか?

 森川さんの登場によって、さらに謎は深まる。


「とにかく、状況を確認しよう。森川さんは知らないだろうけど、僕たちは少なくとも他に三人と同じタイミングでこのゲームみたいな世界に来たんだ。とりあえず、彼らと合流してからいろいろと考えたい」


「はい、わかりました」


 森川さんは怯えながらも頷く。どうやら、彼女は石川さんになついたらしい。背中にくっついて怯えている。まあ、それが健全だろう。


「石川さん、森川さんをお願い」


 そう言って、とりあえず場所を確認しようと動きだした瞬間だった。


「うわぁぁぁぁぁ」


 叫び声が聞こえた。その声が聞こえた方に向かって急いで駆け出した。もちろん、その理由は叫び声の主が悠介のものだったからだ。石川さんが後ろで叫んだけれども、その声が何を伝えようとしているのかわからないほど必死だった。


「どうした?」


 そして現場に着くと、そこには尻もちをついた悠介の姿があった。

 しかし、悠介に怪我はないようだ。

 それにホッとしたが、すぐに悠介の目線の先にあるものを見て目を見開いた。


「なっ……!」


 それは大きな黒い影。それが何なのか理解することを瞬時にできなかった。

 ただ、脳から危険信号が全身に放たれている。


『グルルルル……』


 そこにいたのは怪物だったのだ。それもかなりの大きさである。フォルムは犬や狼のようで、牙のようなものも見える。北欧神話に出て来るフェンリルだろうか。しかし、体はまっ黒でただ犬を巨大化させたものではなかった。


「なんだよ、これ……」


「こんなデカいの、見たことねぇぞ」


 遅れてきた二人も驚きの声をあげ、そしてがれきの後ろへ隠れる。それを見た怪物はその巨体からは想像できないスピードで石川さんたちの元へ近づいていった。


「ちょ、悠介。なんとかしないと」


 そう言って石川さんたちを助けようとするが、恐怖で体が動かない。恐怖という感情に支配されて、もう冷静には何も考えられなくなっていた。

 石川さんは森川さんを後ろに下がらせ、自身はそれを庇うように手を広げる。そしてついに目の前までやってきた怪物は鋭い爪を振りかざす。


 終わった……。そう思ったときだった。


「ちょっと遅れたわ。ごめんなさい」


 怪物の振り下ろした爪を、一本の薙刀が防いだ。空中でせめぎあい、止まっている。そして、重力に従って薙刀を持つ女性が地面へ降り立った。


「大丈夫かしら」


 そこにいたのは、薙刀の日本一。水川蛍さんだった。

 蛍さんの突然の登場に俺だけでなくみんな驚いているようだった。しかし、ゆっくりしている暇もない。再び、怪物は水川さんに狙いを定めて襲い掛かる。


「荒木君、山本君、わたしについてきて」


 そう言った水川さんは石川さん、そして石川さんと手をつないだ森川さんを連れて怪物から距離をとる。ちょうど太陽のある方向へ逃げていった。それに合わせて大輔たちも水川さんを追う。その時、体に違和感があった。


「なんだ、めちゃくちゃスピードが出るぞ」


 大輔はそこまで運動神経がいいわけではないのに、いつもより体が軽い。足が地面をけると、ふわりととんだように体が浮いて、すさまじい推進力を生みだしていた。そして、怪物の姿はみるみる小さくなっていく。

 どうやらうまくまけたようだ。


「ここまで来れば安心ね」


「ありがとうございます! ほんとうに助かりました」


 石川さんが水川さんに向かって、深く頭を下げる。


「気にしないで。こちらのミスだから」


 水川さんは優しく微笑む。

 その笑顔に石川さんはもちろん、俺たち男子も見惚れていた。


「あなたたちが無事でよかったわ」


 そう言いながら蛍さんは石川さんたちの頭をなでる。そして、全員にこう聞いた。


「森川さん以外は、腕にプラグのようなものがついてる?」


 そう言われて全員が腕を出すと、やはりプラグになっている。


「そう。じゃあ、まずは森川さんを安全なところに連れていきましょう」


 蛍さんの提案に反対するものは誰もいなかった。


「ここなら安全だと思うわ」


 そう言って案内されたのは、廃墟になった病院のような建物だった。もとは白かっ

たはずの壁は汚れていて、窓ガラスは粉々に割れている。夜なら、幽霊でも出そうだ。かろうじて病院だとわかるほどで、怪物から身を隠すくらいしかできない。

 そして、一息がつけたところで大輔には疑問がわいてきた。


「水川さん。天草と森本って見かけませんでしたか?」


 二人とも、同時にこの世界へ送られたはずなのに、見当たらない。そもそも、石川さんは同じ場所にいたのに、悠介だけ少し離れた場所にいたことも不思議だが、それはいったん無視することにした。


「ここに来る途中にはいなかったわよ」


 水川さんは天草と森本という言葉に特に反応しなさそうだった。

 おそらく、二人と面識はあるのだろう。まあ、海堂さんの事だから常に水川さんを隣に置いているのだろう。


「そうですか」


「もしかしたら、別の場所にいるかもしれない。探してくるから、もう少しここで隠れてて」


 水川さんの言葉に納得したのか、石川さんたちはうなずいた。それを見た水川さんは窓から飛び降りる。

 窓から外を見るころには、水川さんの姿は見えなくなっていた。


 明らかにこの世界はおかしい。身体能力がかなり強化されている。さっき感じた体の軽さも、おそらく同じ現象によるものだ。


「とりあえず、俺らも隠れて休憩するか」


「そうだな」


 四人はそろって近くにある病室に入り、ベッドや椅子におのおのが腰かける。そして、水川さんが戻ってくるまで静かに待つことにした。


「この、世界はたぶんゲームの中だろうな」


「この病院とかは妙に作りこまれているけど、こんな名前は見たことないしな」


 机に放置された書類を挟んだクリアファイル。そこに書かれていたロゴには『船島医院』と書かれてあるが、記憶にある限りはそんな場所はない。


「検索とかできるのかな」


 ポケットにある携帯を起動するが、時間と天気が表示されるだけで役には立たなさそうだった。きっと、電波などは届いていないのだろう。これでは天草に連絡をすることもできない。あと、片手がプラグになっているせいで操作がしづらい。


「だとしたら、ここはどこなんだろう」


 状況から考えると、ここはゲームの中だ。海堂さんの作り上げた、様々な世界に飛んでそこでクエストを達成するゲーム。

 しかし、それが現実的だと言われてもそんなことを信じられるか?


 いまだに、人が別世界に入ってそこでゲームをするなどといった技術は開発されていないはずだ。そんなニュースを見たことはない。

どこかもわからない場所で、ただ水川さんの帰りを待つ。


 しかし、この世界は非常につくりこまれている。病院の壁についたシミや、破れたカーテン。窓の外に見える光景にも違和感はない。そこまでしっかりと造形にこだわる必要があるのかと思うほどに。

 もしかすると、この地球。そのどこかにある俺たちの知らない土地をそのままコピーしてきたのかもしれない。


「あ、あそこ!」


 森川さんが窓の外を指さす。そこには、先ほどみた怪物がいた。その怪物は、こちらに気が付いていないようであたりを見渡しながら南西の方角へ進んでいく。


「大輔、どうする?」


「とりあえず、ここで待つしかないか」


 そう言った瞬間だった、病院内で火災を知らせるアラームが響き渡る。その音はあまりにも大きく、脳がぐらぐらと揺れていると感じるほどだった。


「まさか、火事か?」


「いや、それよりもこっちを見てますよ!」


 悠介が火災の発生地点を確認しようとしたが、森川さんが再び窓の外を指さして大声で叫んだ。そこには、明らかにこちらを見ている怪物がいた。


「やばいっ、逃げるぞ」


 しかし、怪物はもう走り出していた。こっちはくつろいでいたせいもあって、走る準備ができていない。慌てて病院から脱出しようとするが、病院の中庭に出るころには、怪物はすでにこちらを射程圏内にとらえていた。うめき声をあげた怪物は、するどい爪をこちらに向かって振り下ろす。


「あぶないっ!」


 石川さんの声で気が付いた俺はなんとか左の方向へ飛び、回避する。

 地面に着地した俺はすぐさま体勢を整えて攻撃に備えようとするが、怪物はさらに追い打ちをかけるように鋭い牙のついた口を大きく開いて噛みついてきた。

 俺はそれを再び間一髪で避け、怪物の眼球に向かって手ごろな石を放り投げた。その石はたまたまだが、怪物のちょうど目が黒い部分にヒットした。


「ぐぎゃああぁぁぁ!!!」


 怪物の悲鳴とともに涎が飛ぶ。怪物はその痛みに耐えられなかったのか、その場で暴れている。とりあえず、片方の視界を奪えたはずだ。


「よし、今のうちに逃げるぞ!」


 急いでその場から離れようとしたとき、背後からバキっと何かが割れるような音が聞こえた。後ろを振り返ると、怪物が立ち上がっている。しかし、その目はうつろで焦点があっておらず、口からは大量の血を流している。


「嘘だろ……」


 絶望的な状況に追い込まれてしまった。すでに武器になるようなものは手元にはない。呆然とする俺にとびかかる怪物に、一筋の光がぶつかった。


「ぐぉぉぉん!」


 再び、耳が割れるほどの咆哮がなった。脳がぐわんぐわんと揺れる気がする。そして、光の放たれた方向からはさらに一つ、二つと光が怪物に向かって降り注いだ。そのたびに怪物は体を揺らしながら、うめき声をあげる。


「ほら、逃げるぞ!」


 それに圧倒されていると、悠介が体を抱えて逃げ出してくれた。


「はぁはぁ、大丈夫?」


 とにかく、謎の光が怪物を抑えてくれる間に、影に隠れて何とか窮地を脱した。しかし、さっきの光はいったいなんだったんだ?

 その疑問は一瞬で解決された。ちょうど体を支えあっている二人の前に、一体のロボットが現れたのだ。そのロボットは大きさがちょうど悠介の二倍ほどしかなかったけれど、コンパクトに手足がまとまっている。そして、前方にあるガラス戸が開いて、中から人が現れた。


「大丈夫か? 間に合ってよかった」


「天草!」


 こんなにも天草の事を頼もしいと思ったのは初めてだった。

 そうだ、ここはロボットで戦う世界だから、何よりも先に武器となるロボットを見つけなければいけなかった。


「じゃあ、あいつは?」


 そう言って、今も怪物に応戦している機体を指さす。


「あれは森本だよ。さすが、普段からゲームをしているだけあって上手いよな」

 確かに、森本の操る機体は動きが良かった。狙いも的確で、ちょうど怪物の動きを妨害するように攻撃を繰り出しているし、回避も最低限で無駄がない。

 その動きはまさに芸術のようで、思わず見とれてしまう。


「それより、お前たちもロボットに乗って戦ってくれよ。ほら、機体はここから先に

行くと倉庫があってそこに準備されているから」


 そう言って天草が指さす先には、いわゆるコンビナートのような場所があった。確かに、ロボットが準備されていてもおかしくない。

 二人は全速力で走って、ロボットに乗り込んだ。そこには、明らかにプラグを挿入するために作られた穴があって、それに接続するとロボットが起動した。機体内部の作りこみもしっかりとしていて、壁に張られたモニターから指示が出る。


 そして、ちょうど背後にあるスピーカーから水川さんの声が聞こえた。


「みんなとりあえずは搭乗できたみたいね。今から、戦闘計画を話すからみんな聞いてちょうだい。連携が大事だから、ここからは私の指示に従ってもらうわ」


 どうやら水川さんは別の場所にいるらしく、前方に表示された映像では水川さんがマイク付きのイヤホンに話しかけながら機械を操作して、怪物を止めている。


「まず、今回の作戦の目的だけど、私たちの目的はあの怪物を退治することよ」


 水川さんは淡々と話を進めていく。どうやら、彼女はリーダーとしてこのグループをまとめるようだ。ここまで適任な人物もいないだろう。


「基本的に怪物を倒すには、相手の弱点に向かって攻撃を与えなければいけない。弱点以外はダメージが入らないわ。空を見て」


 水川さんがそう言って空を見る。

 顔をあげると、そこにはゲージらしきものが表示されていた。


「これは体力を表しているんだけど、今は赤色になってるでしょ? 今の状態だと私たちは相手にダメージを与えることができないの。でもね、このゲージが青色になれば弱点が露出しているってことになる」


「じゃあ、青になるまでがんばるってことですか?」


 悠介が質問すると、水川さんは首を横に振った。


「そうだけど、がむしゃらに頑張っても仕方ないから。まずはしっかりと連携をとって攻撃する。幸いにも、私以外のメンバーはそれぞれ能力を持ってるから、うまく活用すればきっと勝てるはずよ」


 それから、しばらくの間は作戦会議が続いた。


「よし、それじゃあ行くか!」


 話し合いが終わると、天草の声が響く。それと同時に全員が動き出した。水川さん

に与えられた役目は陽動、できればとどめを刺す機会を狙う。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る