金の舞う日は来ぬものか

そうざ

Will the Day when Money Dances never Come?

 景気の良い話はないかなぁ、と夜空を仰いでいると、並んで歩いていた後輩が突然、あっと言った。

 何やら紙切れが舞い落ちて来て、道端に落ち付いた。後輩はそれを拾い上げると、ひらひらさせながら叫んだ。

「やったーっ! 金だーっ!!」

 貧乏暮らしが長過ぎて遂におかしくなったか、と俺は後輩から紙切れを取り上げた。

 印刷の具合と言い、手触りと言い、紙幣独特の匂いと言い、如何にも本物っぽいだった。街灯の下で更に観察すると、人物の透かしも入っている。

 ところが、端の方に沢山のゼロが並んでいる。数えると八つもあった。

「返して下さいっ、俺が拾ったんですっ!」

 後輩が乱暴に取り上げた。

「何を本気になってんだ。そんなもん偽物に決まってんだろ」

「偽物ぉ? 何で判るんですかっ?」

「バ~カ。どっかのハイパーインフレ国家じゃあるまいし、そんなにゼロが並んだ紙幣なんかあり得ないよ」

「そうか……そうですね。あぁ、景気の良い話はないかなぁ」

 後輩が残念そうに放った紙幣が夜風に舞う。

 後輩が項垂うなだれたまま先を歩いて行ったので、俺はその隙に紙幣を拾って丁寧にポケットに仕舞った。

 こいつは高値で売れる。

 エラー紙幣なんて、滅多に存在しない。

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