暴風雨ガール 22

         二十二



 数日後、佐久間氏から当時の女子社員の情報が届いた。


「先日はご馳走になり恐縮です。三人の女子社員の当時の電話番号などを記しました。もしかすれば連絡が取れなくなっているかも知れません。その際は悪しからず」


 手紙にはそう書かれていた。


 すぐに簡単な礼状を書き、それから三人の女性に順番に電話をかけてみた。


 三人のうち二人は携帯電話番号でどちらも応答がなく、留守番機能にもならなかった。

 知らない番号からの着信には出ないだろうから仕方がない。


 残る一人の三枝(ミエダ)という女性は自宅の電話番号で、留守番電話に「沢井圭一氏のことでお訊ききしたいので、あらためて連絡する」旨の伝言を残しておいた。


 愛媛県宇和島市の案件は同市だけにとどまらず、大洲市や県南にある広見町にまで及んだ。


 松山空港に飛んで空港レンタカーを借り、全部で七ヶ所の調査先を聞き込み、写真撮影を行った。


 初日は宇和島市内数ヶ所の聞き込みを終えて漁港近くのビジネスホテルに泊まった。

 そして翌日は午前中に広見町を訪れ、そのあと車を飛ばして国道五十六号線をひたすら北上、大洲市の調査先や母方菩提寺を訪れてから松山へ戻り、夕方の飛行機で大阪に戻ってきた。


 今治の実家に立ち寄る時間などどこにも見当たらなかった。

 それぞれの調査先で必要な情報を得られて満足のいく出張だったが、慌ただしく動き回ったので私はすっかり疲れてしまった。


 報告書は来週にでも書き上げるとして、真鈴の父の件が気になっていたので、先日留守番電話に伝言を残しておいた三枝という女性宅に電話をかけてみた。


 時刻は午後九時を少し過ぎていたが、彼女は遅い電話にも気持ちよく応対してくれた。


「沢井社長にはずいぶんとお世話になりましたが、あのような形で会社がだめになってしまって残念です。

 社長がずっと行方知れずとは驚きです。岡田さんには社長のご家族がご依頼されたのですね。お話はよく分かりました」


 声の感じと落ち着き具合から、三十代後半あたりではないかと思えた。


 一度お会いしたいと伝えると、彼女は数秒間考えてから、平日よりも土日のほうが都合がよいと言った。

 明日では早すぎますかと訊いてみたところ、昼過ぎから夕方までなら大丈夫だとのことで、午後一時に心斎橋の日航ホテルのロビーで会う約束を交わした。


 電話を切って数分後にスマホが震えた。真鈴からだった。


「ずっとかけてたのに、誰かと話をしていたの?」と彼女はいきなり言った。


「ごめん、仕事の関係で電話していたんだ」


 真鈴は「フ~ン」とスマホの向こうで呟いたあと、「明日会いたい」と言った。


「ごめん、明日は午後から心斎橋で人と会うことになったんだ。今からこっちに来る?」


「だから、嫌だって言ってるじゃない!」


「ごめん、そんなに怒るなよ」


「明日会う人って、そんなに大事な人?」


「いや、仕事の関係だよ、もちろん」


「じゃ、もういいです」


 そう言って真鈴は電話を切った。


 スマホだが、バシッと音がしたような怒った切り方だった。

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