第20話:アキバ散歩

 第20話:アキバ散歩


 変わらず穏やかな日々を過ごして、終業式が終わった金曜日の夕方に机と椅子が届いた。

 家族みんなでアレコレ言いながら部屋に設置して、簡単に準備を整えた。

 もちろん二人と流れを確認したり練習したり、ワイワイ楽しかった。


 プイッタアカウントも開設して、一番新しい投稿では画像で開設報告。

 フォローはしない方向で、挨拶プイートとライブ配信告知プイートをしてもらった。

 ギモーブも固定プイートにしたけど、一回目は説明とかだしそれ以降の回答になるかな。

 そして土曜日、友達と初めてのお出掛け……ちょっとだけ緊張……。


「おはろー、待ったー?」

「全然……今来たところ……」

「あははー、今来たのはあーしの方だしwww」

「実際五分も待ってないから大丈夫だ!」

「そー? よかったー」

「じゃあ……行こっか……秋葉原……」

「おう!」

「初めてだから楽しみー♪」


 三人並んで秋葉原へ。

 電車の中でも緊張は続いたけど、ワクワクが強くなっていく。

 特にネコちゃんにだけど、僕の好きをたくさん知ってもらいたいな。


 中央通りに出ると、またオタクさんたちがダンスで盛り上がってた。

 赤オタさんのコミカルな動き、黄オタさんのヘッドスピン、青オタさんの音ハメ。

 ずっと見てたかったけど、行くところもあるし……後ろ髪を激しく引かれながら移動……。

 ノートくんが、有名な人たちでユーティービーに動画があるって、帰ったら漁ろう。


「先にごはん……それから……楽器店……行こっか……」

「そうだな、いっぱい声出したらお腹空いちまったよ」

「あーしもー! 踊れるオタってけっこーかっこいー、見る目変わったわー」

「わかる……僕も……すごくハマった……から……」

「んで、どこに食いに行くんだ? 俺アキバわかんないんだよな……」

「ギャルの街ならなー、オタの街はあーしにはわからーん」

「その……アキバならでは……でよければ……一箇所だけ……わかる……」

「いーじゃん、正ちゃんが何回でも行きたい店なんでしょー? そーゆーのあーしも知りたいしー」

「そうだな、クッキーくんの好きをもっと俺たちに教えてくれ! 配信にも役立つかもしれないし!」

「うん……! ありがとう……!」


 アキバでごはんが食べられる場所は一箇所しか知らない。

 歩いてて気になるお店は沢山あるんだけど。

 カレーとかラーメンとか、あとケバブも。

 でもせっかくならアキバと言えばにしたかったから。


 …………

 ……


 あのお店はなんだろうねとか、沢山人が並んでるねとか。

 他愛ない話をしながら、次は純粋に散策に来ようねって。

 次来る約束もしたりして、すごく楽しい。

 そんなこんなでお店前に到着してしまった……もうちょっと喋りながら歩きたかった……。


「メイド喫茶! あーし初めてだしー!」

「お、俺も初めてだ。 なんかすごい緊張してきた!」

「大丈夫……お母さんと……来たけど……良いお店だった……」

「そ、そうか。 ドキドキするけど、クッキーくんが大丈夫って言うなら信じるぜ!」

「きんちょーしすぎだしーwww ゆーても喫茶店でしょー? バスタとかダリーッスと同じっしょー」

「一緒……なのか? まあいっか」

「行こっか……」


 階段を上ってドアに手をかける。

 混んでたらどうしよう、とか思いながらゆっくり開ける。

 そっと覗きながら中に入る、良かった、座れる場所はありそう。

 そう思ってホッとしてたら、メイドさんたちが左右に整列した。


「おかえりなさいませ、ご主人様、お嬢様」


 一糸乱れぬお辞儀。

 静まり返る店内。

 前と同じだ、やっぱりこれが普通なんだ。

 後ろを振り返ると、二人が呆然とメイドさんたちを見ていた。


「お席にご案内致します、どうぞ」

「ありがとう……ございます……みかりんさん……」

「お、覚えてくださっていたのですね! 感激です!」

「は、はい……前来た時……優しかった……から……」

「ぐすっ……本日も精一杯御奉仕させていただきます!」

「よろしく……お願いします……」

「良奴くん……」

「なんだ……?」

「喫茶店ってこんなだったっけ……?」

「いや、いくらメイド喫茶って言っても……これは違うだろ」

「だよねー……」


 二人が何か言ってたけど、僕には聞こえなかった。

 緊張してたみたいだし、励ましあってたのかな?

 みかりんさんともう一人のメイドさんが席に案内してくれる。


「本日は私みかりんと、ゆりっぺがご対応致します。 ご用向きがございましたらお申し付けください」

「こちらメニューでございます。 本日のオススメは天使の園に舞い降りたひよこたんカレーでございます」

「ありがとう……ございます……」

「「ごゆっくりどうぞ」」


 軽やかにカーテシーをすると、スっと下がって行く。

 アキバと言えばなミニスカメイド服だけど、すごく様になっててすごい。

 さすがプロのメイドさんだ。


「メニューめちゃかわー! プイッタにあげよー!」

「すごい凝ってるな。 ウズラの卵に顔付けたら子供ウケよさそうだ」

「それいーね、また来きたくなるやつー」

「だよな! あー、俺腹減ったから、くまたんば〇ぐにしよ」

「あーしはふたご〇くまたんオムライスかなー、お絵描きしてほしー♪」

「僕は……オススメのに……」

「んじゃーメイドさん呼ぼっかー」

「みかりんさーん、ゆりっぺさーん」

「「お待たせ致しました」」


 …………

 ……


 滞りなく注文を済ませられた。

 ネコちゃんが周りを見ながら写真を撮って、嬉しそうに見せてくれる。

 ノートくんも緊張がなくなったみたいで楽しそう。


「メイド喫茶ってすごいのな、こだわりが詰まってるっていうかさ」

「そーねー、メイドさんも可愛いしー、内装とかめちゃ可愛くてサイコー♪」

「夢が……詰まってる……」

「配信の時も内装っていうか、壁紙とか凝った方がいいのか?」

「どうだろー? 見る人選んじゃうからー、無難なのがよくなーい?」

「僕が……寝る時……落ち着かなそう……」

「あー、そうだよな。 寝室兼用なの忘れてたわ」

「机に置くものはー、凝ってもいーかもねー? 食器とかさー」

「それ……いいかも……」

「あ、あのご主人様……」


 ふと横を見ると、料理を運んできたみかりんさんが。

 おずおずと何か言いたそうにしてるけど、どうしたんだろう?

 すぐにハッとして、テキパキとそれぞれが注文した物を並べていく。


「その、立ち聞きしてしまったようで申し訳ないのですが……」

「あー……大丈夫ですよ……」

「私メイドでいることが生き甲斐でして、メイド服も自前で持っているくらい」

「すげぇ」

「先程仰っていた食器なんですが、いつかお茶会ができればと数種類持っているんです」

「ガチ勢ってやつー?」

「もしよろしければ、私と食器類をお貸しできればと思うのですが……いかがでしょうか?」

「いい……んですか……?」

「お話が聞こえてきてから何かお役に立ちたいと、メイドとして出来る事があるんじゃないかと、そればかり考えてしまって……」

「いいんじゃないか? 配信中におかわりに立たなくていいとか、話題作りにできるとかメリットもあるし」

「メイド喫茶のメイドさんならー、アニメとかも詳しそーだしー、あーしもよきかなー?」

「あとさ、大人が一緒になるんだしクッキーくんの家族も安心なんじゃないか?」

「たしかに……そうかも……」

「みかりんさんはー、明日とかヒマですかー?」

「はい! 毎週日曜日は固定でお休みなので、全然大丈夫です!」

「いーじゃん? 来てもらおーよ」

「そうだね……お願い……しようかな……」

「そうだな、飲み物はこっちで用意して食器類はみかりんさんに頼む、決まりだな!」

「ありがとうございます!」


 四人で握手を交わして、明日早めに会う約束をした。

 お店を出てから気付いたけど、配信をやる以外の僕の素性を一切喋ってなかった。

 明日説明すれば大丈夫……だよね?

 二人も、そう言えばって笑ってたし、大丈夫でしょって。


 明日の初配信は十五時から。

 休日のオヤツ時にまったり見てもらえるように。

 成功を祈って、ハイタッチをして別れた。


 …………

 ……


 家に帰ってから新しいマイクをセット。

 配信中の人が増えるのと、食器を貸してもらえるのもちゃんと伝えた。

 明日の僕の部屋は人口密度がすごく高くなりそうだ。

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