第13話:趣味の告白

 第13話:趣味の告白


 焼肉屋に行ってから約二週間、優しい人たちに囲まれて楽しく過ごしていた。

 ミカちゃんやネコちゃんたちと楽しくお喋りしたり。

 村上さんに授業の分からなかった所を相談して、図書室で並んで復習したり。

 他のクラスの女の子や先輩たちからお菓子を貰ったり、撫でられたり。

 ノートくんとお昼を食べたり、一緒に帰ってありふれた会話を楽しんだり。


 今日は金曜日。

 明日はノートくんがお家に来るから、帰ったら掃除しないと。

 整理整頓は毎日してるから、掃除機だけかけないとね。


「正優っち~」

「ミカちゃん……なに……?」

「明日暇~?」

「明日は……ノートくんと……お家で……」

「そか~、日曜は~?」

「空いてるよ……」

「マジ~? カラオケ行かな~い?」

「あ……約束の……! うん……!」

「お~! したらあたしと~ネコっちは確定ね~。 適当に誘っとくから~みんなでオケろ~ね~」

「うん……! うん……!」

「ふぐっ! ……ふぅ、んじゃ日曜学校前でよろ~」


 笑顔でひらひら手を振ってネコちゃんのとこに行く。

 日曜日も予定が入った。

 奇跡だ、奇跡が起きてる。

 家族と乙女以外で立ったことがない予定がこんなにも……すっごく嬉しくて顔がふやけた。



 ----


 オケのメンツ集めしなきゃねってことでオタっち達に突撃~。


「オタっちたち~、ちょっちよき~?」

「し、渋谷殿、なんでござろうか」

「日曜暇なござる居る~?」

「ござるって……拙者は暇でござるな」

「某も暇でござるが……」

「正優っちとカラオケ行くんだけど~行かね? って話~」

「「行くでござる!」」

「空っちと白枝っちね~。 日曜学校前でよろ~」


 次は腐女っちのとこにレッツゴ~。


「腐女っちたち~、今良き~?」

「渋谷さん……な、なんですか?」

「日曜暇な子居る~」

「私は……暇です」

「池袋にその……書を買いに……」

「正優っちとカラオケ行k」

「「行きます!」」

「わお……聖書は大丈夫なの~?」

「せ、書は逃げませんので……」

「おけ~、優子っちと睦美っちね~。 学校前で待ってんね~」


 ギャル男どもは合コンでしょ~、スポ根はなんか応援行くでしょ~。

 文系は……たぶんカラオケじゃなくて~図書館とか行ってそうだしいいよね~。

 とりまこんなもんでいっか~。



 ----


 迎えた土曜日。

 ソワソワしながらリビングで座ってるとインターホンが鳴った。

 来た! と思って立とうとしたら、お母さんが真っ先に玄関に向かった。

 僕のお客さんなんだけど!


「あらいらっしゃーい♪」

「どうも、お邪魔します」

「どうぞどうぞ♪」


 リビングから出ると、もう上げちゃってた。

 いいんだけどさ、いいんだけどさ。


「いらっしゃい……」

「おう、大っきい家でびっくりしたよ」

「そう……かな……えへへ……」

「とりあえずリビングね、優さん……お父さんも挨拶したいみたいだから」

「わかりました」


 ノートくんは脱いだ靴を正して、お母さんの後について行く。

 僕がやりたかったこと全部やられてしまった……いいんだけどさ。


 リビングで待ってた優香とお父さんも加わって軽い雑談が始まる。

 それから、ありがとうとよろしくを言い合って、和やかに話をした。

 お母さんが、後は若い人に任せてとか言い出すから、ちょっと恥ずかしかった。

 ノートくんは苦笑いしてた。


「僕の部屋……行こうか……」

「おう……なんか変に緊張するな」

「お母さんが……変な言い方……するから……」

「ふふふ、ごめんあそばせ♪」


 ちょっとほっぺを膨らませると、指でプスッと空気を抜かれた。

 まったく、まったく!


 リビングを出て階段を登る。

 ノートくんは面白い母ちゃんだなって笑ってたけど、今日ばっかりは恥ずかしいよ……。

 二階に着いて部屋の前まで行くとノートくんがピタリと止まった。


「なんだこれ……」

「僕の部屋……」

「……普段監禁でもされてるのか?」

「え……? そんなこと……ないけど……」

「それならいいんだけどさ……この扉はいったい……」

「あ……」


 慣れすぎて忘れてた。

 この扉見たら、普通そういう反応にもなるよね。


「あの……僕の部屋……防音室になってて……」

「防音室!」

「うん……趣味のために……」

「防音しなきゃいけない趣味ってなんだよ……」

「と、とりあえず……中に……」

「おう……」


 廊下で話しててもしょうがないし、ガショッと扉を開ける。

 音にびっくりしたのか、ビクッてしてた。


「なんだこれ! スタジオみたいじゃん! ……ベッドがあるのすっごい違和感あるな」

「防音室兼……寝室だからね……」

「すごいな……PCとかマイクとか、高そうなのばっか」

「お母さんが……好きなことやるならって……」

「はー、太っ腹な母ちゃんだなー」


 部屋の中をウロウロして色々見て回る。

 これなに? って聞かれる度に答えてを繰り返して、落ち着いた所でPCを点ける。


「これで何やってんの?」

「普段は……動画見たり……ゲームしたり……」

「三画面とかめっちゃ贅沢じゃん」

「それ以外は……録音したり……動画作ったり……」

「録音? 動画?」

「その……趣味で動画……投稿してて……」

「へー……意外な趣味だな、びっくりした」


 ポカンと口を開けてマイクとかの機材をマジマジと見る。

 うん、見ちゃうよね、高そうだし、値段は考えないようにしてる。


「どっか投稿してるんだろ?」

「うん……ティックノックに……」

「なんて名前? ちょっと見てみたい」

「えっと……のなめ……って名前で……」

「え? のなめ?」

「うん……」


 またノートくんの動きが止まる。

 なんか目が怖い……。

 どうしたんだろう……。

 おもむろにスマホを取り出して、ササッと操作して画面を見せられる。


「俺……のなめのフォロワーだわ……」

「え……?」

「うわーマジか……俺超大ファンで全部聞いてるんだよ……全部にコメントしてるし……ビックリしすぎると逆に冷静になるんだな、ははは」

「あわわわわわ……!」

「やばいな、なんかジワジワ実感してきた……俺今、のなめのスタジオに居るんだよな、すげえ……すげえよ。 やばっ手が震えてきた」


 ノートくんがぷるぷる震える手を見ながら顔が笑顔になっていく。

 僕は予想外の出来事に体がぷるぷる震えて顔が赤くなっていく。

 え、こんなことってあるの?


「あ……その……ありがとう……ございます……?」

「いやいや俺の方がありがとうだから! のなめのスタジオとか、絶対入れないとこだろ! うわーやばい! やばいやばいやばい!」

「そ、そうかな……えへへ……」

「あ、握手してくれないか? 記念に! たのむ!」

「うん……その……どうぞ……」


 顔がポカポカ熱くなってるのを感じながらそろっと手を出す。

 ノートくんはそれを見て恐る恐る握ると、嬉しそうに顔がニヤケていく。


「世界で俺が初めて……だよな」

「うん……のなめなのは……家族以外……知らないから……」

「そっか……そっかー! 握手しちまったー!」

「そんなに……嬉しい……?」

「そりゃそうだろ! 俺からしたら芸能人に会ったのと同じレベルなんだから! うわー今日だけは絶対手洗わないようにしよ!」

「いや……手は洗って……さすがに……」

「へへへ、やだねー!」


 自分の手を見ながら嬉しそうに満面の笑みを浮かべている。

 いや、さすがにトイレとかね? 洗わないとね? ね?


「あのさ、できるか分からないけど、リクエストお願いしても……いいですか?」

「いいけど……なんで敬語……」

「悪い、なんかすげー緊張しちゃって。 えっとさ、爆走単車ブライカンの豪炎寺熱飛ごうえんじ ねっとできるか……?」

「いいよ……せっかくだから……投稿しちゃお……」

「うおー! 生録見れるのか!」

「えへへ……録音中は……静かにね……? リテイクに……なるから……」

「おう! 口押さえとく!」


 テンション高いノートくん、なんか可愛く見えてきた。

 ワクワクしてくれるの嬉しいな。

 テキパキと準備を整えて、口に指を当てる。

 ノートくんは口を手で押さえて何度も頷く。


「……カーブでスピードなんか落とすかよボケが! 俺の魂はいつでも全力全開フルスロットルだ!」

「…………うおー! 熱い、熱すぎるぜ!」

「なんか……照れるね……」

「落差とギャップもすげぇ!」

「えへへ……編集しちゃうね……」

「生編集だ!」

「ふふふ……生編集って……」


 普段どうやって編集してるか説明しながら作業をしていく。

 興味深そうに見てる姿が楽しそうで、僕も嬉しくなる。

 最近気付いた予約投稿をしてノートくんを見る。


「普段……十八時投稿……だから……後で聞いてね……」

「もちろん! コメントもする! E奴ってのが俺だから!」

「うん……!」


 その後は二人でベッドに座って話をした。

 いつから声真似やってるとか、どんなアニメが好きとか、色々話した。

 こんなに楽しい時間を過ごせて本当にいいのかな。

 こんなに幸せな時間を貰えて本当にいいのかな。

 嬉しい気持ちがどんどん溢れてきて、時間を忘れてたくさんお喋りをした。


「その……動画のこと……相談するね……。 企画とか……ネタ選びとか……」

「いいのか?」

「うん……すごく楽しかったし……もっと……遊びに来て……ほしいし……」

「そういうのなくても遊びに来るけど、分かった! 協力するぜ!」

「やった……! ありがとう……♪」

「のなめのサポートスタッフだな!」

「だね……♪ よろしくね……♪」

「おう! よろしく!」


 二人で笑いあう。

 友達に新しい関係が増えた。

 大好きなことが、もっと大好きなことになった。

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