第60話 屋根にはりつく



 聡見は健康のために、毎朝早く起きて散歩をすることにした。体を動かすのは好きだが、部活動でしごかれるほどはしたくない。歩くのがちょうどいい運動だと考えた。

 朝早く、人がほとんど通らない住宅街を歩く。肺が痛くなりそうなほど、冷たく澄んだ空気を吸うのは心地よい。

 歩くなら、そこまで負担がかかりはしない。最適な運動だと考えた聡見だったが、初日で後悔する事態となった。


「……なんかいる」


 清々しい気分で歩いていた聡見は、ふとある家の屋根に何かがいることに気がついた。初めはダンボールかと思った。

 しかし決して悪くない視力のおかげで、人の形をしているとはっきり分かってしまう。ボロ布のような服を身にまとい、真っ白な髪も乱れてなびいていた。

 ミイラみたいに細い手で、必死に屋根にしがみついている何か。どう考えても、いい存在には見えなかった。

 しがみついているだけで何かをしているようでは無い。それでも巻き込まれたらごめんだと、聡見はもうそちらに目を向けるのを止めて、下を向き家へと帰った。

 それから毎日、屋根に何かがへばりついている。決まった家というわけではなく、様々なところで。散歩をする時間以外では見ないので、聡見は歩くのを止めざるをえなかった。



「えー、それで歩くの止めちゃったんだ」

「だって嫌だろ。何かされたわけじゃなくても」


 話の流れで散歩を止めた経緯を聞いた良信は、もったいないと大げさな反応をした。しかし聡見も、顔をしかめて反論をする。


「なんで朝に、あんなところでへばりついてるんだよ。それに場所を変える理由も分からないし。もしかして不幸を呼び寄せるとか?」


 話しながら嫌な想像が膨らむ聡見に対し、良信はのほほんと笑う。


「大丈夫だよ、危害は加えてこないから。うーんと、スズメとかそういうのと一緒だと思えば可愛く見えてこない?」

「……絶対にありえない」


 スズメと同じに見えるはずがないと言いながら、聡見の脳内では飛び立つそれの群れが大量発生した。イメージがこびりついて離れなくなったので、聡見は原因である良信を軽く小突いた。

 それからも、決して聡見は朝に歩くことはなかった。

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俺の変わった幼なじみ 瀬川 @segawa08

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