第45話

 ヘンゼル昇天の少し前からスタートです。




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綺堂 薊きどう あざみ side








 復活した意識の中、崩れた体が少しずつ修復されるのを感じた。


 痛みも無ければ、再生する音もない。全身の感覚が蘇っていくのを感じるだけだ。


 俺は完全に復活するまでの間、体を動かせないもどかしさを感じながら来紅が無事でいてくれることを願っていた。


 ポーション瓶に入れていた小指来紅に逃げ場はなかった。仮に逃げられたとしても強敵の多い『魔女の工房』で生き残るのは至難の業だ。


 ああ、それでも。たとえ、どんなに絶望的だったとしても、生きていてくれ。


 あと少しだ。あと少しで、もう一度守りに行けるから。どうにか持ちこたえてくれ、来紅。















 復活・・した時、最初に目に入ったのは今まさにヘンゼルに斬られそうになっている来紅らいくの姿だった。


 ふざけるな。


 彼女が生きていた事への安堵と、もう二度と失う悲しみを味わいたくないという執念でヘンゼルに突撃した。




「「!?」」



「あっ、目が私とお揃いだ。ちゃんと染まってくれたんだね」




 来紅はいつも通りのマイペースだったが、魔女とグレーテルが酷く驚いていた。


 それはそうだろう、何せ俺はさっきまでのだから。


 しかし、構ってる暇はない。視界の端で何かが点滅してる気がするが、それも無視だ。




「やっと私を見てくれた。嬉しい♪」




 突然迫ってきた俺に臆することなく、手を広げて迎え入れてくれた来紅には悪いが、抱き締めることは出来ない。


 ヘンゼルにアイアンクローをしながら進み、来紅は肩を掴んで俺の後ろへと押しやった。


 そういえば、意識を失う前に来紅の幻覚を見たが触れられたということは、この来紅は本物なのだろう。行動した後なので、いまさらだが一安心だ。




「ぐっ。なんだよ、いきなりっ!」




 こいつ、言うに事欠いて「なんだよ」だと? ふざけてるのか?


 俺は苛立ちをぶつけるように、ヘンゼルの首筋に噛み砕かんばかりの勢いで歯を立てた。




「お兄様を離しなさい、化け物!」



「まだ生きてたのかい。化け物ってのも、あながち間違いじゃぁないのか」




 怒り狂ったグレーテルが無数の弾幕を差し向けてくるが、魔女が一掃してくれる。


 おそらく魔女は俺が、この機会にヘンゼルを確実に始末してほしいのだろう。コイツの次は自分だとも知らずにご苦労なことだな。




「あっ、ずるい」




 牙をつきたて血を吸い取る。来紅の声が聞こえた気がしたが気の所為だろう。変なセリフだったし、また魔女の幻覚が話したのかもしれない。


 数秒後、ミイラとなったヘンゼルを捨て、魔女へと視線を向けると自分の中の違和感に気付く。




「あれ? なんで俺は魔女を殺そうとしてたんだ?」




 途端に煩くなる「殺せ、殺せ」の大合唱。それはまるで、逃がしてなるものかと言わんばかりの勢いだった。


 今までなら、この声に身を任せ魔女への殺意を滾らせたが、このままではハッピーエンド理想が遠のくような気がして踏み止まる。


 何かを求めるように首筋を差し出す来紅へ向き直る。というか、なんで顔が赤いんだ?




「来紅と魔女って、どんな関係なんだ?」



「も、モンスターから助けてくれた恩人だよ」



「は? 恩人?」



「う、うん」




 なぜか目を合わせてくれない来紅の返答で、やっと俺は自分の勘違いを正しく認識する。


 そういえば、俺が魔女を敵だと認定したのは来紅が魔女の封印解除に失敗して、食い殺されたと思ったからだ。


 しかし、封印解除の成功に必要なのは『一定時間内に石窯でダメージを負った魔女を完全に回復させること』だ。


 ゲームなら、どんな編成をしていようと一定ターンが過ぎれば封印解除は失敗となりパーティは全滅させられたが、現実となったいまなら結果は違うのではないか。


 例えば、時間切れとなった後に全回復させることが出来れば魔女は理性を取り戻し、成功扱いになるなど。




「俺は今まで何をしていたんだ……」




 やっと冷静になって、さっきまでの自分がいかに冷静さを失っていたかを理解する。指を親友だと思うってヤバすぎるだろ。


 ん? 待て、これはこれでおかしい。おそらく『魔女の工房この部屋』に入った時からいる来紅は幻などてはなく、ずっと実体のある本物なのだろう。


 なのに俺は彼女に尋常ではない威力の攻撃を受けている。これが謎だ。


 来紅は俺を殺したいほど恨んでいるのか?


 至近距離で話していても何もしてこない現状では特に恨まれていないと思われるが、もしまだ恨まれていたら、と考えると恐ろしい。


 聞きたいけど、聞くのが怖い。俺は頭を悩ませた。








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 一回死んで頭が冷えた薊くんでした!

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